
ドバイ:中東・北アフリカ(MENA)地域は「ユースバルジ(若年層の膨らみ)」を経験している。人口に占める若者の割合が突出して大きい状態のことだ。
大半のアラブ諸国ではこの人口動態のピークは既に過ぎたと考えられているが、地域全体の若者の人口は2030年末までに6500万人に達すると予測されている。しかし、関係各国がこの現象の残りの部分を活用できるかどうかはまだ分からない。
19世紀フランスの哲学者オーギュスト・コントの言葉とされることが多い「人口動態は運命である」というフレーズは、地域社会や国家から政治経済まで、あらゆるものの発展に対する人口動態の重要性を強調するものだ。
膨れ上がる生産年齢の若い男女を生産活動で雇用し、1人あたりの平均所得の水準を上げることができるならば、ユースバルジは「人口ボーナス」になり得る。
しかし、もし生産年齢になる大人の大半が仕事を見つけられず、満足のいく収入を得られなければ、若者の失業率の高さから生じる不満が治安上の問題へと発展する可能性もある。
したがって、アラブ世界であれ他の地域であれ、若者の人口が多いことは、雇用と教育機会、経済成長、社会的・政治的安定という点で良くもあり悪くもあるということだ。
世界銀行が2022年に発表した報告書「失われる雇用:中東・北アフリカの市場と労働者に対する政府の役割を再構築する」によると、MENA地域では15~24歳の若者の3人に1人(32%)が雇用されておらず、教育にも訓練にも従事していない。
実際、この地域の若い労働者は世界で最も高い失業率に直面している。地域平均は26%で、アルジェリアとチュニジアは30%、ヨルダンは40%、リビアは50%を超えている。
アキシオリー・グローバルのロベルト・ダンブロージオCEOはアラブニュースに対し、「MENA地域の状況は国によって大きく異なり、労働市場問題への対処に関して非常に進んでいる国もあれば、遅れを取っている国も多い」と指摘する。
そのため、若者の雇用される能力の問題は「非常に対処が難しく、若者の割合が非常に高いという大きな利点であり資産である状況が事実上の重荷になってしまっている」という。
ダンブロージオCEOは、雇用創出を妨げ民間投資を遠ざけることで若者が仕事を見つけるのを難しくしていることが多い要因として、「官僚的な障害や厳格な労働市場規制」に言及する。
「影響の最も大きい国々では、若者の失業の主な原因は、経済成長と多角化が不十分であること、そして過度な官僚主義と近視眼的な保護主義政策に見出すことができる。それらは国内のある程度の障害と共に、外国主導の投資がそれらの管轄区への進出を検討することを困難にしている」
他の課題としては、教育と雇用市場との、そして提供されている雇用の種類とのミスマッチがある。
例えば、インフォーマル雇用が全雇用に占める割合はモロッコでは77%にまで達しており、エジプトでは69%、占領下のパレスチナ自治区(ヨルダン川西岸地区とガザ地区)では64%となっている。対照的に、バーレーンではわずか16%だ。
インフォーマル雇用とは、家事労働者、露天商、ウェイスト・ピッカー、在宅労働者(衣服製作など)を指すことが多い。彼らは政府から課税も監視もされていない。
アブドゥラ・アル・グレイル財団のソニア・ベン・ジャアファルCEOはアラブニュースに対し、「インフォーマル雇用には、人材への投資や福利厚生が正規雇用と同程度には与えられていない」と指摘する。
データの中でもう一つ深刻な問題は女性に関するものだ。MENA地域の労働力に女性が占める割合はわずか20%と世界最低水準にある。「男女格差は、既存の労働力に参入している若い女性が少ないことの数多くの理由の一つだ」とベン・ジャアファルCEOは言う。
MENA地域の全ての国が雇用機会を増やすのに苦労しているわけではない。例えばサウジアラビアやUAEでは、自国経済を石油依存から脱却・多角化させ、イノベーション拠点に投資し、雇用市場のニーズに沿った教育改革を優先するための戦略が成功している。
ベン・ジャアファルCEOは次のように語る。「UAEの労働力自国民化政策もいくつか有望な結果を示しており、2023年だけで5万人以上のUAE国民が民間部門で雇用された。これは戦略の見通しを上回っており、労働者にとっての道を広げるものだ」
「多くのMENA諸国の経済が石油や天然ガスなどの採掘産業に偏って依存していることは誰もが知るところだが、それらの部門や政府が支援する企業以外の雇用機会の供給が限られている現状は、そのような偏った依存が主な原因だと専門家は見ている」
ダンブロージオCEOは、「若者のために幅広い雇用機会を創出するためには経済多角化が重要だ」と言う。「サウジアラビアやUAEなどの国では大規模な投資によってそれを行っている」
例えば「サウジビジョン2030」には、若者の失業率を低下させるべく、民間部門の成長を押し上げ、起業文化を促進し、職業・技術訓練を拡大し、幅広い新産業への投資を奨励するイニシアティブが含まれている。
UAEの「労働力自国民化のための国家プログラム」も同様に、労働力に参入する自国民を増やすことを目的にしており、同国の若者の雇用される能力を高めるための訓練・開発プログラムを提供している。
ダンブロージオCEOは、「UAEは、北米、欧州、アジアから来るスキルや経験が豊富なプロフェッショナルにとって非常に魅力的な管轄区となっている」と言う。「時が経つにつれ、そのようなスキルや経験は国内の労働者に受け継がれ、UAE国民や居住者の雇用可能性を高めることができる」
それに加え、UAEやカタールは評判の良い教育機関を誘致して学校や大学を設立することで、自国を国際的な教育ハブとして位置づけようとしている。しかし地域全体では、教育格差が依然として問題になっている。
シャルジャ・アメリカン大学のニダル・ゲッスム教授(物理学・天文学・宇宙科学)は、MENA地域の教育部門は技術の急速な発展についていくのに苦労していると見る。
「そして人々がその発展の犠牲になっている。新卒者、中退者、就いていた仕事が不要になり解雇される従業員などだ。そして人工知能時代が到来してAIが人間の労働者に取って代われば、その傾向は続き加速するだろう」
「我々の地域の教育制度は反応が遅く変化に抵抗することで悪名高い。スキルや方法や可能性ではなく、未だに内容や『知識』を教えることに重点を置いている」
この問題を解決するには、各国政府が専門家から成る常設委員会を設置して、世界経済の動向を絶えず検討させ、国家カリキュラムと産業に関する修正を助言させなければならないとゲッスム教授は言う。
適応できなければ、現在・将来の産業界からの要請に対応できるスキルがなく失業する若者の数が膨れ上がるだけである。アキシオリー・グローバルのダンブロージオCEOによると、「職を求めているこういった若者たちを雇用したいという地域の組織からの需要が不十分であるように思われる」という。
これは、より多くの若者が職探しに参加することを意味する。彼らにとって、潜在的な雇用主の目に止まり、まともな賃金を確保することがより一層難しくなるのだ。
IMFが2019年に発表した報告書によると、世界のほとんどの地域では、若者の方がより年齢が高い層よりも失業期間が短いという。これは、職と職の間を頻繁に移動するという若者の自然な傾向を反映したものだ。
しかし、MENA地域のほとんどの国では、若者の失業は彼らが最適な仕事が見つかるのを待っているためであるようだ。つまり、特に高等教育を受けた若者の場合、自分のスキルに見合った良い仕事を見つけるのにより時間がかかるかもしれないため、失業期間が平均より長くなる可能性があるということだ。
IMFの報告書はこう述べている。「これは重要な点である。というのは、人的資源の蓄積にとって最も有害なのは、失業が起こること自体ではなく失業期間だからだ」
ベン・ジャアファルCEOは、MENA地域の「ユースバルジ」に対するアプローチを概観しつつ、地域のリーダーたちは、インクルージョンを促進し、変化する経済に合わせてより流動的で柔軟な一連のスキルを生み出すような、より持続可能な解決策へと方向転換しつつあると指摘する。
「我々は既に、教育から仕事への経路の多様化に関する政策の転換を目の当たりにし始めている。例えばUAE教育省は既に、オンライン方式を歓迎しスタッカブルな課程を検討していることを公言している」
しかし、学校や大学は、単なる「雇用される能力」を超えた魅力的なスキルアッププログラムやイニシアティブを実施するための設備を整える必要がある。そうなって初めて、若者は様々な産業の中で自身の技術的スキルを活用できるようになるだろうとベン・ジャアファルCEOは言う。
「そのためには、教育指導者たちを単なる職業認定士にしてしまってはならない。彼らは、気候、産業、社会的つながりなど、危機に晒されている社会のあらゆる部分に関する深刻な問題を解決するクリティカルシンカーの世代を育てているのだから」
アラブ世界全体において若者の失業の問題は「複雑で多面的」であり、それは教育システムの弱さの他にいくつかの外部要因がもたらした結果であるとベン・ジャアファルCEOは言う。
救いは、今の世代の若い大人たちが技術の進歩や、自分の決定を導いてくれる様々なリソースに恵まれていることだという。
「彼らは教育の重要性を認識しており、人生において成功したいと思っている」とベン・ジャアファルCEOは言う。「しかし、彼らが成功してコミュニティーに還元することができるようになるためには、適切な指導と道筋が必要だ」