
カーミシュリー、シリア:テロ組織ダーイシュは8月第2週、ラッカ県およびデリゾール県においてシリア政府軍兵士らに対する攻撃を複数回実施し、数十人の死者とそれ以上の負傷者を出した。
シリア中部・東部地域における攻撃の頻度と酷さは増すばかりで、2019年に打倒が宣言された時にダーイシュは本当に排除されたのだろうかと疑う人がいるかもしれない。
2019年3月23日(土)は、米国からの支援を受けてシリアにおけるダーイシュとの地上戦を主導していた多民族組織「シリア民主軍(SDF)」の男女の兵士たちにとってだけでなく、シリア北部・東部の自治区に住む人々にとっても喜びに満ちた日となった。
マンビジからコバニまで、ラッカからハサカやカーミシュリーまで、シリア北東部の都市ではあらゆる階層の人々が通りに溢れ、バグズの戦いでのダーイシュの最終的敗北を祝った。
ただ、彼らはほとんど知らなかった。ダーイシュは領土を失ったものの、シリア国内外で拠点を維持することになるということを。同組織は今もこれらの拠点を利用して同国内での作戦を実施している。
クルド系シリア人ジャーナリストでアソ・ニュース・ネットワークのディレクターであるサルダール・ムッラー・ダルウィッシュ氏はアラブニュースに対し、「(ダーイシュは)その過激主義的イデオロギーを維持するために様々な枠組みを使用している」と指摘する。
「(同組織は)ラッカ県、デリゾール県、ハサカ県南部の様々な地域に散らばったテロ細胞に頼っている。特にバディアでは、連合軍、SDF、政府軍などによる支配が完全に行き届いていない地域に細胞が存在している」
ダルウィッシュ氏によると、ダーイシュは裕福な住民や国際・国内NGO関係者を脅して金銭を強要することで組織を維持している。オートバイや二カブ(黒いベール)でカモフラージュして民間人の中に紛れ込もうと試みているという。
ダーイシュは政府支配地域とSDF支配地域の両方で攻撃を行っている。これらの攻撃は「プレゼンスと力を維持していることを示すための」試みだとダルウィッシュ氏は言う。
シリアが分断されていることが対応を難しくしている。
SDFと同盟関係にある「北部民主旅団」の司令官であるアブ・オマル・アル・イドリビ氏はアラブニュースに対し次のように語る。「我々の地域にいるダーイシュの残党は潜伏細胞に限られており、我々の治安部隊や軍隊が国際連合軍と連携協力して直接対処している」
「シリアの他の地域ではダーイシュは依然として強力で、シリア体制の存続の一因となっているとともに、体制を支援するロシアおよびイランのプレゼンスを正当化する口実となっている」
アル・イドリビ氏は、イランがシリアにおける軍事的プレゼンスを高めることを正当化する口実としてダーイシュの存在が使われていると見ている。イスラム革命防衛隊、バスィージ、ハラカト・ヒズボラ・アル・ヌジャバ、カタイブ・ヒズボラ(イラクのヒズボラ)、バドル軍団、アブ・アル・ファドル・アル・アッバス旅団、シリア国民防衛隊、リワ・アル・コッズ、リワ・ファテミユン、リワ・ザイネビヨンなど、イランを後ろ盾とする親政府民兵組織は全て、ダーイシュが依然として最も強力な地域に展開している。
ダーイシュはシリアで領土を失って以降、国内各地の軍および民間の標的に対して1400回以上の攻撃を行い、3000人以上の死者を出した。
これらの統計は、「武力紛争発生地・事件データプロジェクト」がまとめた公開データセットから引用したものだ。それによると、これらの攻撃のうち320件以上は、アブ・バクル・アル・バグダディ氏の後継者としてダーイシュ指導者になったアブ・イブラヒム・アル・ハシミ・アル・クライシ氏が2022年に死亡した後に行われたものである。
シリアの通信社「ノース・プレス」の監視記録部門によると、国内におけるダーイシュの直接攻撃による死者は2023年上半期だけで262人に上り、その大半は民間人だという。
それに加え、ダーイシュは160人以上を拉致した。ダーイシュによる攻撃や拉致の犠牲者の多くはトリュフを採集していた人々だった。彼らは経済状況が困難な中、高値で売れるトリュフを採集するために、広大で危険なシリアのバディア地域を探索しているのだ。
シリアのバディアは広大な砂漠で、同国の14県のうち8県にまたがって国土の半分以上を占めている。この地域には反政府組織によって利用されてきた歴史があり、2003~2011年のイラク戦争の際にはイラクのレジスタンスが利用した。
大部分は広大で何もない岩がちな砂漠が広がり、人が住む集落がほとんどないという地理的特徴を持つバディアは、バグズから逃れてきたダーイシュが活動拠点とするのに理想的な場所だった。
この地域がイラクとの国境に近いことも同組織にとって魅力的だった。
「シリア内戦以前から、この地域は密輸業者が支配する地域としてよく知られていた」とダルウィッシュ氏は言う。「両国の国境検問所の間には大きな空白があり(…)シリア軍、SDF、イラク軍などによって管理されていないため、ダーイシュはこの地域を活動拠点としている」
同氏によると、ダーイシュは近年、両国間の密輸活動に役立てるために、イラクとシリアの国境地域で大規模なトンネル網を掘削しているという。
ダーイシュの脅威への対応を任務とする軍隊にとって、これらのトンネルは戦略上の頭痛の種となっている。
北部民主旅団司令官のアル・イドリビ氏は次のように指摘する。「シリアとイラクの間の地域の地理的特徴は、ダーイシュの移動のしやすさに大きな影響を与えている。特に、アル・ブカマルやアル・マヤディーンのイラン系民兵組織の支配下にある地域ではそうだ。これらの国境地域はテロ組織や民兵組織がイラクとシリアの間を移動するための中継地点となっている」
このようなイランを後ろ盾とする親政府民兵組織の大規模なネットワークがシリア中部に展開している一方で、シリア政府はバディアのダーイシュ残党への対策を真剣に考えていないのではないかとアル・イドリビ氏は疑っている。
「ダーイシュはシリアのバディア地域を自由に動いている(…)それへの対策が真剣になされていないのは、これらの地域がシリア政府とその同盟勢力の管理下にあるからだ」
シリア政府軍は2019年末にバディア地域から撤退し、反体制派とイスラム主義組織の連合軍に占領されたイドリブの奪還を目的とした新たな攻勢に注力した。イドリブでは2020年に停戦が宣言されたが、一方のバディアはダーイシュのシリアにおける新たな潜伏場所となっていた。
アル・イドリビ氏は次のように語る。「シリア政府支配地域と(北部及び東部シリア)自治行政区の間には広大で入り組んだ地域が多くあり、それらの地域には自然の越境地点、陸上ルート、河川ルートがたくさんある」
「そのため、ダーイシュはシリア北部・東部の我々の地域に侵入するために容易に移動することができる。(…)また、(ダーイシュは)我々の地域内にいる潜伏細胞からの支援を受けて、(この地域で)時々テロ活動を行っている」
現地の軍人や民間の観測筋は、シリア政府による支配が緩いバディア地域だけがダーイシュの拠点ではないと警鐘を鳴らしている。民兵組織の連合軍「シリア国民軍(SNA)」が支配する同国北部や北西部の地域も、何年も前からダーイシュにとって比較的安全な地域となっている。
アル・イドリビ氏は続ける。「社会・経済・生活レベルでの不安定さだけでなく、いわゆる(シリア)国民軍やテロ組織アル・ヌスラ戦線の諸派閥が支配する占領地域において武装組織、過激主義イデオロギー、非人道的犯罪行為、自由の抑圧などが拡大していることが、ダーイシュをはじめとするテロ組織の指導者らや首長らの生存・存在に必要な培養器・温床となっていることは、明白な事実となっている」
連合軍は2019年以降、SNA支配地域のダーイシュを標的とした空爆やドローン攻撃を13回以上実施した。直近の攻撃は今年4月にアフリン地域のジンディレス近郊の村で行われ、ダーイシュ司令官1人が死亡した。
アソ・ニュース・ネットワークは2021年、SNA関連組織の中にいるダーイシュ幹部95人のリストを作成して報じた。
ダルウィッシュ氏によると、アソ・ニュース・ネットワークによるさらなる調査で、2022年にダーイシュメンバーを収容するハサカの刑務所で発生しSDF戦闘員や民間人121人が死亡した反乱が、SNA支配下のラース・アル・アインに潜伏していたダーイシュ勢力によって支援されていたことを示唆する情報が発見された。
この調査では、ダーイシュメンバー数世帯が悪名高いアル・ホル難民キャンプから逃れてラース・アル・アインおよび隣接するタル・アブヤドに定住していたことも分かった。
米中央軍の司令官であるマイケル・クリラ将軍は23日、シリア北東部のアル・ホル難民キャンプおよびアル・ロジ難民キャンプを訪問し、SDF幹部と会談してダーイシュ掃討作戦について振り返った。
クリラ将軍は声明の中で次のように述べた。「米国、SDF、国際連合軍は、ダーイシュの永続的打倒に引き続き注力・コミットするとともに、シリア北東部の難民キャンプにおける人道・治安上の課題に対処する」
SDFと連合軍はテロとの戦いを続けているが、シリアにおけるテロ問題の解決策は政治的なものだとアル・イドリビ氏は言う。
同氏は次のように語る。「シリアから決定的にテロをなくすための真の解決策としては、2015年に(国連)安全保障理事会が決議第2254号として全会一致で承認したシリアにおける政治的解決策を実行に移すことが必要だ」
「民主主義の適用は、過激主義やテロの根源を断つための理想的な解決策だ(…)専制とテロは不可分であり相互に依存しているからである。一方の存続にはもう一方が必要なのだ」