
リヤド / ニューデリー:エネルギー供給から食料安全保障まで、広範な分野で国際的な相互依存が高まっている現代、ある国家における決定や出来事の影響がその国家内だけに留まることは稀である。
インド国内での価格高騰を抑制するためにタマネギの輸出に40%の関税を課すというインド政府の最近の決定について考えてみよう。この決定の発表は、湾岸協力会議地域の輸入に依存している各国に野菜の供給の十分な確保に関する懸念を引き起こした。
世界最大のタマネギ輸出国であるインドの政府は、関税は「公共の利益」のためであり 12月31日まで課されると述べた。湾岸協力会議加盟諸国にとって、これは、家庭の台所の常備食材であるタマネギの価格変動に対して各地域の市場が備えておかなければならないということを意味している。
ベンガルールの公共政策研究教育機関であるタクシャシラ研究所の経済学専門家であるアヌパム・マヌール氏は、「タマネギは料理の基本的な材料です。そのため、インドが課す40%の輸出関税は、小麦と米のサプライチェーンが既に逼迫していることを考慮すると、(湾岸)諸国の食料インフレに拍車をかけることになるでしょう」とアラブニュースに語った。
経済複雑性観測所によると、UAEは4,170万米ドル相当のタマネギをインドから2021年に輸入している。UAEのこの年のインド産タマネギの輸入量は、国別で、第4位だった。
UAEのインド産タマネギの輸入量は近年増加している。2020年の貿易額は3,480万米ドルで、2019年の2,770万米ドルから大幅に増加した。この増加の要因は、UAEの人口増加とインド産タマネギの、通常は、比較的低い価格だったと考えられる。
新たな関税の賦課は、湾岸協力会議加盟諸国全域においてタマネギの価格上昇を引き起こし、やがてタマネギ不足が発生し、消費者と企業に影響を及ぼし得る。その結果、タマネギを普段の食事の重要な要素として日常的に摂取してきた家庭も、料理の習慣を変更せざるを得なくなる可能性がある。
インド政府は、上昇する国内価格の低下を目的として、国内供給を増加させるために、関税を課すのだと述べた。「タマネギの価格は過去3ヶ月間ジリジリと上昇していました」と、ムンバイに拠点を置くCRISIL マーケティング・インテリジェンス&アナリティクスの主任研究員であるプシャン・シャルマ氏はアラブニュー氏に語った。
「インド消費者庁のデータによると、8月19日のタマネギの価格は30ルピー(0.36米ドル)を越え、昨年より20%上昇したとのことです」
不安定な気候が農作物に与える影響も、インド国内で顕在化したタマネギの供給不足の一因だった。
「タマネギの主要産地であるマハーラーシュトラ州とカルナータカ州で2023年7月に降った大雨が、貯蔵されていたタマネギに損害を与えました」と、シャルマ氏は語った。「タマネギ業者は約250万トンのタマネギを貯蔵していたのですが、その内10%から20%が被害を受けたと推定されます」
「冬作期であるラビ期にインドのタマネギ需要の70%が生産され、通常であれば3月に成熟期となります。しかし、今年は2月に高温に見舞われ、季節外れの雨が3月に降りました。その結果、ラビ作物の成熟が早まり、今年のラビ作のタマネギの保存可能期間が6ヶ月間から5ヶ月間に短くなってしまったのです」
ラビ作物は9月上旬には払底する見込みで、そのため価格は一層上昇している。
タクシャシラ研究所のマヌール氏は、「価格上昇の影響はすぐに現れ、徐々に激しさを増すことでしょう」と語った。
「輸出関税のニュースは既に一般世帯や業者らに知れ渡っており、彼らはより高い買い注文を出し、それ自体が価格上昇へと結果するでしょう。タマネギの明日の市場価格は将来の値上がりを既に織り込んだものだというわです」
高い関税の賦課は前例が無いわけではない。インドは、2022年には国内価格を安定させるために小麦の輸出を禁じ、今年7月には米の出荷を制限し食用調理油の輸入関税を引き下げるなどの措置をこれまでも取ってきた。
「突然の供給不足は、特に農業や食品の分野では、これまでにも例がありました」と、マヌール氏は語った。「最近の例は、ロシアがウクライナに侵攻した際の世界的な小麦不足です」
「世界各国は、危機感に苛まされながらも、それに対処しました。備蓄分を使用した国もあれば、需要に応えるために生産量を増加させた国もありました。ここでも似たようなことが起こるでしょう。他のタマネギ生産国が価格上昇に対応し、供給量を増加させることになるでしょう」
インド政府が今回の輸出関税は年末までの適用だと明言していることから、いずれの価格上昇も一時的なものであると楽観視されている。
「タマネギの価格の上昇は短期的だと予想されています」と、CRISIL マーケティング・インテリジェンス&アナリティクスのシャルマ氏は語った。「消費者が上昇した価格の影響を受けるのは、(輸出制限が課されなかったとしても、9月下旬か10月上旬までの)収穫の少ない時期の間だけだと見込まれます」
「10月以降のカリフ期(モンスーン期、または秋季)とカリフ期後半には、収穫物が市場に出回るようになり、価格は通常の水準まで下落する見込みです」
とはいえ、輸出政策の突然の変更は、輸入国側による信頼度の一層高い供給元の検討に結果し得る。
インドと湾岸協力会議加盟諸国のより広範な経済的関係性という観点からは、「今回の措置は、短期的なものに過ぎず、貿易の動向に影響を与えることはありません」と、ニューデリーにあるジャワハルラール・ネルー大学国際貿易開発センターのアジート・クマール・サフー准教授はアラブニュースに語った。
「タマネギが諸外国との国際収支に影響を与え得るとは、私には考えられません。しかし、他国の消費者へのタマネギの供給に限界が生じ、タマネギの価格が上昇することに疑いの余地はありません。とはいえ、それもほんの短期間のはずです」
同じジャワハルラール・ネルー大学のムダシル・クマール准教授も、同様に、インドと湾岸協力会議加盟諸国の貿易関係は今回のタマネギ危機に関わりなくより強固になり続けると確信している。
「短期的には湾岸協力会議加盟諸国の食料輸入額が増加する可能性が高いものの、食料輸入は各国の農業生産や市場管理政策次第で変動するものなので、長期的な貿易関係が影響を受ける可能性は低いはずです」と、クマール准教授はアラブニュースに語った。
アラブ諸国にとって、食料安全保障は懸念事項であり、タマネギ輸入の現況はサプライチェーンの信頼性について深刻な疑問を提起している。とはいえ、タマネギの一時的な不足から大規模な問題が生じることは無さそうである。
「今回の件が食料安全保障に影響を与えることは無いでしょう。言ってみれば、タマネギは風味付けのためのものであって、純粋に栄養価の高い食物というわけではありません」と、タクシャシラ研究所のマヌール氏は語った。「つまり、湾岸協力会議加盟諸国の人々は、味気ない食物を口にすることになるかもしれませんが、食料安全保障に対する脅威を感じることはないはずです」
それでもなお、アラブ世界の主要なタマネギ輸入国は、将来この脆弱性がもたらし得る負の影響を軽減するために、タマネギの調達先を多様化する戦略や、さらには自国内でのタマネギ栽培の強化する戦略について検討を開始する必要に迫られているのかもしれない。
「あらゆる国がこの問題に真剣に取り組む必要があります。特に食料品や救命薬品、石油製品などについてです」と、ジャワハルラール・ネルー大学のサフー准教授は語った。
「調達方法の代替手段を見つけない限り、将来非常に厳しい状況に陥るはずです。特に食料や水、エネルギーについては、あらゆる国が自給自足を達成する必要があります」
幸いなことに、サウジアラビア並びに他の湾岸協力会議加盟諸国は、サプライチェーンを混乱から守る戦略を構築することでまさにそれを実行しているようである。
サウジアラビアの経済専門家で金融アナリストのタラート・ハフィズ氏は、「サウジアラビアは、最近、こうした事態に対処するために、食料安全保障のための部局を起ち上げました。他の湾岸協力会議加盟諸国でも類似した取り組みがいずれ進められると、私は予想しています」とアラブニュースに語った。
消費者に対する補助金の提供や予備的なタマネギ供給者の国際的な拡大を初めとして、湾岸協力会議加盟諸国の政府が輸出関税の影響を軽減するために利用可能な方策は多数存在する。しかしながら、ただ単に他の供給者に切り替えるだけでは長期的な解決策にはなり得ない。
「他のタマネギ輸出国であるパキスタンや中国、エジプトは、今回の事態に反応して、タマネギの輸出価格を引き上げると予想されます。こうした国々にも輸出分の余剰は限られており、また、供給の中断が突然であるからです」と、タクシャシラ研究所のマヌール氏は語った。
「短期的には供給不足が予測されていますが、価格の上昇により次の農業生産サイクルでは生産量が増加する可能性があります」