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デルナの悲劇はリビアの国家的和解のきっかけとなるか

リビアの人々は、この災害を再度注力して、安定への道を見いだすきっかけに変えるチャンスを手にしている。(AFP)
リビアの人々は、この災害を再度注力して、安定への道を見いだすきっかけに変えるチャンスを手にしている。(AFP)
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21 Sep 2023 12:09:24 GMT9
21 Sep 2023 12:09:24 GMT9

洪水に見舞われたリビア東部の都市デルナの至るところに、亡くなった人々の絶対的悲劇、行方不明の人々の恐怖、生き残った人々の絶望が漂っている。しかし、分裂状態にありながらも、リビアの各統治勢力は、自国を襲った惨禍に対処するため、当面は相違を脇に置くことに合意した。とはいえ、リビアの破綻国家としての運命は、同国の再建のための潜在力を解き放つ方向に変わるのだろうか。国民へ安定と、彼らの幸福と繁栄を見守りながら未来の予想可能な災害を回避する機能的組織を提供する方向に徐々に向かうのだろうか。

地球温暖化による悪影響を受けた可能性のある自然と、無関心、つまり、革命前後の当局による洪水対策壁およびダムのメンテナンス失敗が重なり、このリビアの長く無視され続けた地域がストーム・ダニエルによる鉄砲水の猛威にさらされてから、1週間以上が経過した。推定12万人以上の都市の全住民が必要な対策を講じて逃げるか身を守るかする前に、激流が地域全体を押し流し、数千人が死亡し、多くの行方不明者が出ている。

デルナは首都トリポリの900km東の涸れ川にあり、多くの地中海沿岸都市と同様に、熱帯低気圧とハリケーンの特性をあわせ持ち、「メディケーン」として知られるストーム・ダニエルのような季節的嵐の被害を受けやすい。科学者らは通常、個々の気象現象と長期的な気候変動とを直接的に結びつけることを避けるが、ストーム・ダニエルもまた、今後増えると予想すべき種類の嵐のひとつだ。その壊滅的な影響は、2023年が人類史上で最も暑い年となりそうな中、世界的な海面温度の上昇が地球全体の記録的な暑さにつながっているという、欧州連合(EU)の気候モニタリング事業「コペルニクス」による度重なる警告の内容と合致するものだ。そして、気候変動に関連する異常気象は、高度なインフラ、早期警告システム、強力な緊急対応サービスを欠いた、動乱の最中の貧しい国々で最も壊滅的な被害をもたらす傾向がある。デルナの場合がまさにこれにあたる。

デルナの惨事は、リビアのさまざま勢力間での10年以上にわたる血みどろの戦闘と権力闘争の結果でもある

モハメド・チェバロ

デルナのインフラは老朽化しており、過去10年に建てられた多くの建物は基本的な計画規制を無視したものだ。またデルナは、同地を広大な墓地へと変えてしまった今回のような予期せぬ災害への準備不足に陥っていた。

デルナの惨事は、敵対する国内、地域、世界の主体と同盟を結ぶリビアのさまざま勢力間での、10年以上にわたる血みどろの戦闘と権力闘争の結果でもある。彼らは、40年以上にわたって同国を支配していたかつての独裁者ムアンマル・カダフィ氏から国を引き継いだが、どちらかといえば同質的な自国の権力と膨大な石油資源を分担するための合意を形成できず、今ではリビアは、武装組織と政治主体の果てしない乱立のために破綻国家と見なされている。

リビアは現在、敵対する2つの主要陣営によって統治されている。一方は西部のトリポリを拠点とし、「国民統一政府」と呼ばれており、洪水で荒廃した同国東部の大部分を管理するもう一方の陣営は軍部の有力者ハリファ・ハフタル氏が支配している。2020年に合意された停戦は、旧国軍による首都トリポリ制圧の失敗後、何はともあれ同軍の国家再統一の試みを終結させた。

国内で意見の一致を欠いた状態と、ロシアによるウクライナ侵攻後により顕著となった複雑な地政学的分断を原因とする多国間レベルでの国際的空白の中で、デルナのリビア人たちは、死者を埋葬し、行方不明者を見つける手助けと、被災地域を清潔で汚染のない水の送水網に再びつなげるといった、破壊された重要インフラの修復に十分な寄付を、ひたすら願うしかない。

今リビアの人々は、この災害を長年にわたる暴力の終結に向けて再度注力するきっかけに変えるチャンスを手にしている

モハメド・チェバロ

カダフィ氏の支配下にあった時と同様に、デルナは無関心に苦しんできた。同地は前政権に反抗の温床と見なされていた。カダフィ氏の失脚後、この地域はダーイシュの手に落ち、苦難にあえいだ。その後、ダーイシュの関連組織はハフタル氏によって武力で排除された。しかし、内乱に苦しむあらゆる破綻国家と同様に、インフラへの投資は優先事項リストの下の方に追いやられた。デルナは今、この代償を払うことになっている。

災害はしばしば、人々を団結させる。各敵対勢力とロシア、トルコ、エジプト、湾岸諸国といった後援者が、今回の災害により、相違を脇に置き、国家と国民を未来の惨禍からより効果的に守れる形でリビアを統一する努力を強化する方向に進むことが望まれる。

リビアは資源不足ではない。地域の多くの不運な破綻国家のように貧しくはない。もしリビアの影の権力者たちが互いの相違を脇に置き、団結してデルナ再建だけでなく、国内各地の再建のために取り組むことができれば、同国はこの災害とそれに続く苦境を、チャンスに変えることができるかもしれない。

世界が先週リビアで目にした事態は、小さな自然災害が破綻国家にいかに劇的な影響をもたらすかの一例だと、多くの人々が述べている。今、リビアは岐路に置かれており、この災害を長年にわたる暴力、破壊、不和を終結させるために再度注力し、和解と安定への道を見いだすきっかけに変えるチャンスがある。

  • モハメド・チェバロ氏は英国系レバノン人のジャーナリストでメディアコンサルタント兼トレーナー。戦争、テロ、防衛、時事問題、外交の報道において25年以上の経験を持つ。
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