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イラン外交が見せる二つの顔

2023年9月19日、ニューヨーク。第78回国連総会で演説するイランのイブラヒム・ライシ大統領。(AFP)
2023年9月19日、ニューヨーク。第78回国連総会で演説するイランのイブラヒム・ライシ大統領。(AFP)
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01 Oct 2023 02:10:27 GMT9

3月10日、サウジアラビアとイランが7年間の断絶を経て、北京で国交回復に合意したとき、世界は安堵のため息をついた。両国はまた、対話と和解への意欲を示した。

サウジアラビアは、北京での合意を真摯に捉え、平和と和解へ向けた動きを起こそうとしてきた。しかし、イランや、特にその地域における同盟国からのシグナルは、混乱とまではいかないまでも、統一されているとは言い難い。

3月の会談後、サウジアラビアとイランの外相は4月に北京で会談した。6月にはサウジアラビア外相がテヘランを訪問し、8月にはイラン外相がサウジアラビアを訪問して皇太子と会談した。9月5日にサウジアラビア大使がテヘランに到着したのは、新たな関係構築に向けた具体的な兆候であり、特に大使が両国の関係の新しい夜明けについて語ったことは重要だった。9月19日、イランのイブラヒム・ライシ大統領がサルマン国王およびムハンマド・ビン・サルマン皇太子に2通の書簡を送ったことが明らかになり、これもまた、関係改善の兆候であった。

これらの出来事を受けて両国が発表した公式声明は、ポジティブな点を強調し、物事が正しい方向に進んでいることを示している。しかし、両国がとった行動、という点においては、それぞれが異なっているように見える。

イエメンでは、サウジアラビアは4月に大使をサヌアに派遣、イラン系武装組織フーシ派と、国際的に承認された政府との仲介にあたった。数日間の集中的な話し合いの後、公的な進展はなかったものの、話し合い自体は前向きなものだったと言われている。9月14日から18日にかけて、リヤドはフーシ派のトップ交渉官モハメド・アブドゥルサラム氏率いる代表団を受け入れ、イエメン和平への道を支援する「ロードマップ」を目指して協議を再開した。このラウンドでも結論は出なかったが、参加者は前向きな姿勢を示し、協議はポジティブなものだったと述べた。

5月、サウジアラビアはアラブ連盟首脳会議を主催し、アラブ連盟におけるシリアの地位を回復させ、イランの緊密な同盟関係にあるシリア政府との協力のもと、シリア危機に対処するための努力を共同で主導した。

サウジアラビアは、イラクを湾岸協力会議(GCC)およびその他のアラブ世界への復帰させるための努力を続けた。6月には、イラクとサウジアラビアを中心とするGCC加盟国との緊密な結びつきを祝う祝祭の場で、GCCとイラクの電力網接続がサウジアラビアのダンマンから開始された。両国はすでに、政治・安全保障対話、貿易・投資協力、人的交流の再活性化を含む野心的な統合プログラムに合意していた。

サウジアラビアは、イランやその地域の同盟国との外交的アプローチや信頼醸成措置に加え、切迫した問題に対処するため、他のいくつかの面でも野心的な外交キャンペーンに乗り出している。サウジアラビア政府高官は、ロシアとウクライナの停戦、紛争の政治的解決、囚人や被拘禁者の交換を仲介しようとしている。また、ウクライナとロシアからの穀物輸出再開に向けた努力にも力を入れている。

イランと、イランが支援する地域全体の運動の中には、この新しい和解を受け入れず、それを弱体化させようとする暴徒的な勢力が存在する可能性の方が高いだろう。

アブデル・アジーズ・アルウェイシグ

スーダンにおいては、サウジアラビアが米国とともに紛争当事者間の仲介を行っている。「ジェッダ・プロセス」は、政治的解決に向けた交渉が行われている間、スーダンの暴力を終結させ、または少なくとも緩和し、人道回廊を確立し、政治的解決に向けた交渉を並行して行うための、これまでで最も有望なプラットフォームである。先週、サウジアラビアはニューヨークで、スーダンに対する人道支援活動を活性化させるためのイベントを開催した。

さらに野心的な取り組みとして、サウジアラビアは中東和平プロセスを再活性化するための持続的な努力を主導している。サウジアラビアはアラブ連盟やEUと協力、またエジプトやヨルダンとも連携して、一見不可能にみえる中東和平に活力を吹き込もうとしている。9月18日、サウジアラビアはニューヨークの国連総会で会合「平和の日」を開催、世界各国から約50人の外相が参加した。その目的は、パレスチナとイスラエルが和平合意に達した場合に、両者に最大の平和利益をもたらす「和平支援パッケージ」を作成することであった。

しかし、イランは新しい政策を全面的に支持しているようには見えない。イランの国家安全保障担当最高責任者アリ・シャムカーニ氏が、サウジアラビアとの国交回復の合意に署名してからわずか2カ月後の5月に解任されたことを不穏に思うオブザーバーもいた。さらに深刻なのは、イラン当局が大きな影響力を持つ地域における危機を打開しようとする同国の努力がほとんど認められないことだ。場合によっては悪化していることもある。

イエメンにおいては、最近の会談のポジティブな雰囲気にもかかわらず、主要なフーシ派指導者のレトリックに変化はない。停戦はおおむね維持されているが、停戦違反は増加している。9月25日、サウジアラビアとイエメン国境でフーシ派のドローンによる攻撃があり、バーレーンの軍人3人が死亡した。サウジアラビア主導の有志連合軍のスポークスマンは、最近国境地域では他の攻撃もあったと述べており、その中には発電所と警察署への攻撃も含まれていたという。

イラクでは、イランと同盟関係にあると思われる一部の政治家が、クウェートに関する古い虚偽の主張を繰り返し、2012年に締結された海洋境界条約を終了させるよう呼びかけ、対立を扇動し始めている。この条約は、両国によって2013年に批准され、2015年に国連に寄託されており、国際社会によって認められている。一部のイラン人は、サウジアラビア・クウェートが所有するドーラ・ガス田の領有権の主張さえ行っている。

3月にサウジアラビアと国交回復の合意を結んで以来、イランが取ってきたこれらの措置は、信頼構築に貢献するどころか、疑念と不審を引き起こすものである。

これらの二面性は、9月19日に国連で行われたライシ大統領の演説にも見ることができる。彼は地域における外交努力を賞賛し、近隣諸国との平和と対話に賛辞を贈った。しかし、故人となったイラン革命防衛隊のカセム・ソレイマニ司令官への熱烈な賛辞は衝撃的だった。さらに問題だったのは、イラク、イエメン、レバノン、シリアの人々の「抵抗」が「実を結んだ」という彼の主張だ。これらの国々は、イランが政治的、社会的、経済的、安全保障的に干渉してきた結果、実際にはひどい目に遭ってきた。ここで唯一の勝利者は、これらの国々を不安定化の道具に変えることに成功したイランである。

イランはローマ神話のヤヌスのように二つの顔を持っていると非難する者もいる。しかし、イランと、イランが支援する地域全体の運動の中には、この新しい和解を受け入れず、それを弱体化させようとする暴徒的な勢力が存在する可能性の方が高いだろう。イランの指導者たちは声を上げ、サウジアラビアとイランの関係改善努力を脱線させようとするこれらの扇動者たちを明確に非難する必要がある。

アブデル・アジーズ・アルウェイシグ博士はGCC政治・交渉担当事務次長である。本記事で述べられている見解は個人的なものであり、必ずしもGCCの見解を代表するものではない。X: @abuhamad1

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