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「高齢化が進むアジア」は中東に課題と機会をもたらす

「高齢化が進むアジア」では、2050年までに生産年齢人口が2億5000万人減少する可能性がある。(AFP)
「高齢化が進むアジア」では、2050年までに生産年齢人口が2億5000万人減少する可能性がある。(AFP)
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09 Dec 2023 05:12:26 GMT9
09 Dec 2023 05:12:26 GMT9

理想的な世界では、中東の若者たちは、急速に高齢化が進む日本のケアのため、同地に飛び立つことになるだろう。人道的な努力の見返りに、彼らは膨大な知恵を吸収し、素晴らしい文化を体験し、そしてもちろん、技術についても何かを学ぶことだろう。おそらく、アジアが老いをどう祝福しているかからも教訓を学ぶことができる。そうなれば、青年層が多い地域が、世界で最も急速に老いゆく国々を補完することになる。

現時点では、それはSF映画のワンシーンのように思える。しかし、一見奇抜な考えも常に馬鹿げているわけではない。それは、私たちを取り巻く世界をよりよく理解するために役立つこともある。上で描いたシナリオは、「新時代の頂点に立つアジア(Asia on the cusp of a new era)」と題されたマッキンゼーの最近のレポートに根拠がある。同レポートはアジアには大幅な成長を促すだけの人口がまだ残っていると主張し、これを「運命としての人口動態」と定義している。とはいえ、高い生産性を誇る「環太平洋」地域では、高齢化の逆風は最も激しい。

農村部からの若い移住者に助けられ、アジアは伝統的に農業から工業へのシフトを支え、経済成長、都市化、人口動態の変化、環境への影響を引き起こしてきた。状況を整理すると、2050年までにインドと中国の都市だけでさらに6億人が暮らすことになる。しかし、レポートが概説しているように、「中国と先進アジア」は急速に高齢化が進んでおり、より深刻な変化の兆しが見えてきている。

では、このことが大陸やそれ以外の地域にどのような影響を与えるのか?高齢化によってアジアは、第一段階の高齢者扶養比率の上昇という課題への対処とは別に、労働者がいる場所に仕事を移す必要がある。高齢化によって労働人口が減少すると、バリューチェーンは通常、生産レベルを維持するために若い人口を抱える地域にシフトする。そのような再編成には、インドネシアやインドなど、若い人口を持つ国々へ特定の産業を移転させることが含まれるかもしれない。言い換えれば、日本や中国の損失は、インドやインドネシアの利益になる可能性がある。

技術革新と自動化は、高齢化による労働力不足を補うことができる。教育、訓練、労働者のスキルアップへの投資は生産性を向上させることができる。また、雇用のマッチングや流動性の向上など労働市場の効率化は生産性の課題への対処に役立つ。しかし、より望ましい選択肢は、こうしたシフトを促進し、国境を越えた商品、資本、労働力の移動を容易にするために、地域経済統合を拡大することであろう。いずれにせよ、先進アジアと中国、すなわち「高齢化が進むアジア」では、2050年までに生産年齢人口が2億5000万人減少する可能性がある。

先進アジアと中国では、2050年までに生産年齢人口が2億5000万人減少する可能性がある。

エテシャム・シャヒード

一般的な考え方として、戦略的立地と豊富な投資資源を持つ中東は、こうしたバリューチェーンの転換において、特に物流と金融の分野で重要な役割を果たすことができるとされてきた。石油からの多角化を目指すこの地域の経済は、アジアとの貿易・投資機会の増加から恩恵を受ける可能性がある。その他にもいくつかの要因が注目されている。海外からの投資や技術をめぐる競争が激化する可能性はあるが、中東は急速に発展するアジアの経済にエネルギーを供給するため、その強みを活用することができる。

このようなバリューチェーンのシフトには、政治的・経済的安定が不可欠である。政情不安や経済が不安定な地域には、必要な投資が集まらない可能性がある。また、特定の産業や外資に過度に依存することで、経済的な脆弱性が生じるリスクもある。環境の持続可能性も懸念事項のひとつだ、急速な工業化は、適切に管理されない場合、汚染の拡大や資源の枯渇につながる可能性がある。

アジアと中東の間に存在する人口動態の相乗効果は極めて重要である。これには労働力の移動、経済的相互依存、文化交流、教育協力、投資の流れ、観光、医療、政治戦略における相互影響などが含まれる。これらの相乗効果は、両地域にとって重要な意味を持つ複雑で発展的な関係を反映しており、移民、経済政策、文化交流、開発戦略に影響を与えながら、ダイナミックな相互作用を生み出している。

労働力の移動は、両地域間の最も重要な人口動態の相乗効果の一つである。中東、特に湾岸協力理事会(GCC)地域の多くの国々は、歴史的にアジア諸国からの労働力に依存してきた。アジア諸国が高齢化社会に直面する中で、ヘルスケア、特に高齢者ケアと医療技術の分野での協力の可能性があり、それは中東諸国が医療インフラを整備する際に利益をもたらす可能性がある。

注目すべきは、多様性に富む中東と同様に、少なくとも5つのアジア諸国がそれぞれ異なる軌道をたどるということだ。マッキンゼーのレポートが強調しているように、アジアは「市場の時代」において、人口動態のスイートスポットに位置していた。1990年から2022年の間に、世界の生産年齢人口増加の55%はアジアで起こった。さらに、この地域の生産年齢人口は、世界の平均を上回るスピードで増加した。指標が変化し、他の基礎的な要因が影響を及ぼすと、多少の不安定さが生じることは避けられない。しかし、困難に直面している中東は、「高齢化が進むアジア」が回復することを望んでいる。

「高齢化が進むアジア」は中東に課題と機会の両方をもたらす。労働力と経済の相互作用という点で、課題はさまざまな可能性とともに存在する。これには、イノベーションの推進、新たな二国間関係の育成、ヘルスケアやその他の分野における経済の多様化と発展の促進などが含まれる。中東諸国がこのような力学をどのようにコントロールし、活用するかによって、その社会経済的景観への全体的な影響が決まるだろう。

  • エテシャム・シャヒード氏はインド出身の編集者でUAE在住の研究者。 X: @e2sham
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