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気候変動 中東が行動を起こす時

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28 Dec 2023 04:12:49 GMT9
28 Dec 2023 04:12:49 GMT9

気候変動が転換点を迎えようとしている今、アラブ世界は岐路に立たされている。かつては遠く、漠然とした脅威であった気候変動が、今やこの地域の懸念の最優先事項に浮上し、経済、社会、地政学的安定の将来に長い影を落としている。すでに政情不安、経済変動、紛争に悩まされているこの地域は、今、既存の課題を悪化させ、新たな課題を提示するエスカレートする気候危機に直面している。

統計は厳しい状況を示している。国連は、各国が現在の軌道を進み続けた場合、今世紀末までに世界は約2.5℃温暖化し、パリ協定で定められた1.5℃をはるかに超える可能性があると警告している。このような気温の変化は一見小さなものに見えるが、壊滅的な結果をもたらすだろう。アラブ地域はすでに、徐々にエスカレートする影響の最前線にある。すでに複数の国が、厳しい熱波、干ばつ、塩水の浸入、砂漠化、かつてかつて肥沃だった文明発祥の地を荒らす砂嵐の急増などに大きな打撃を受けている。

財政面だけを見ても、そのコストは莫大であり、増加の一途を辿っている。気候変動は地球規模の脅威であるが、特に中東とその隣接地域は厳しい現実に直面している。世界平均の2倍の速さで気温が上昇し、降雨量は現象し、その予測も難しい。過去30年間だけでも、気温と降雨パターンの劇的な変化は、アラブ地域全体の一人当たり所得や、国の産業構成や雇用に大きな影響を与えてきた。

その一方で、気候に起因する災害によって、中東・北アフリカ地域の国内総生産(GDP)は1.1%の恒常的な損失を被っている。インフレや失業といった既存の社会問題によってこれらの逆境の経済的負担が増幅されるため、この数字は今後上昇する可能性がある。

さらに最近の研究では、気候変動が、壊滅的な新型コロナウイルス感染症によるパンデミックからいまだ回復していない公衆衛生をさらに損ない、貧困を悪化させ、不平等格差を拡大させる可能性があるとの見方が強まっている。その結果、社会政治的な風景に緊張をもたらし、不安定さを持続させ、場合によっては紛争を引き起こすことがある。これにより、現在脆弱な国々が将来的に失敗国家となる可能性がある。

9月にリビアのデルナで発生した災害は、気候変動がもたらす経済的影響が、紛争や統治の失敗により疲弊した国家において特に顕著になることを示す最新の例である。その結果、これらの国家は、気候関連の天候ショック後の生産損失が4倍も高くなり、その頻度と強度はさらに悪化する可能性が高い。自然災害とは別に、気候変動が地域の水の安全保障と食糧生産を悪化させ、国家の失敗やテロリズムと暴力的な過激主義の温床を作る可能性を示す警告や証拠が増えている。

世界で最も乾燥した地域では、気候変動に関連した水不足は特に深刻だ。淡水供給の減少により、アラブ諸国は2050年までにGDPの6~14%を失う可能性があると推定されている。ある年、アラブ地域は水不足だけで120億ドルのGDP損失を被ったが、これは対応の遅れが招いた結果であり、このまま放置すれば、北アフリカの1億人もの人々が危険にさらされる可能性がある。

しかし、このような困難の中にもかかわらず、アラブ地域は気候変動外交の世界的リーダーとしても台頭している。ドバイで開催された重要なCOP28を含め、同地域では気候変動サミットが相次いで開催されている。こうしたサミットに対する批判はあるが、地域(そして世界)にとって、国境を越えた協力を推進し、気候変動対策への不屈の決意を示し、手がけるべき課題の規模とその緊急性を強調するための重要なプラットフォームであることに変わりはない。

現在、「緩和」と「適応」の取り組みは大幅に不足している。行動と支援は断片化しており、逐次的であり、特定の分野に集中し、いくつかの分野が軽視されている。時計の針が刻々と進む中、地球の現在の軌道は、依然として世界の気温を大幅に上昇させるものだ。既存のコミットメントを達成した場合でも、今世紀末には約2.5℃の気温上昇をもたらすが、現在の政策を変えない限り3℃の上昇になる。

証拠として、2023年3月と6月には、世界の平均気温が一時的に重要な1.5℃の閾値を超えた。

地域は気候介入を効果的に優先順位付けする必要があり、そうしない場合は、本末転倒の――馬の前に馬車を取り付けるような――リスクを冒すことになる。

ハフェド・アル=グウェル

気温上昇の主な要因は、温室効果ガスの排出量の増加であり、特に化石燃料からの排出量が全体の75%以上を占めている。2022年、排出量はパンデミック以前のレベルを超えたが、世界各国政府は2030年までに化石燃料の生産量を2倍にする計画を立てており、これは地球温暖化を1.5℃に抑えるための、持続可能な量をはるかに超えている。パリで設定された、この温暖化のしきい値を超えないためには、世界の排出量を2010年のレベルと比較して、今後7年間でほぼ半減させ、2050年までにネットゼロにする必要がある。

この目標を達成し、気候変動によって増大するコストを削減するために、世界は包括的、協力的かつ緊急の行動をとる必要がある。その潜在的な利益が莫大であるだけではなく、中東の将来とその経済の回復力は、それにかかっているのだ。世界レベルでは、温暖化を2℃ではなく1.5℃に抑えることの累積利益は20兆ドルを超えると考えられている。しかし、これを実現するためには、例えば中東の政府は、気候回復力を十分に高め、2030年の排出削減目標を達成するために、GDPの最大4%を毎年投資する必要があるかもしれない。

この地域の緊迫した地政学的力学、経済的逆風、そして、対立する利害関係者間の協力を促進する能力が未検証であることを考えれば、これは困難なことのように思える。この背景には、自己中心的で利己的な中堅国家の台頭による、分断化の進行がある。アラブ諸国が計画目標の達成に向けてどのような道を歩むにせよ、民間資金をより多く呼び込むことは、資金ギャップを埋め、地域内経済の格差を是正する鍵となるだろう。各国政府は、他の介入策と並行して、燃料補助金改革の加速や炭素税の導入などの施策を実施することで、資金調達の負担を軽減することもできる。

例えば、UAEやカタールは再生可能エネルギープロジェクトへの投資を大幅に増やしており、モロッコ、ヨルダン、チュニジアなどの国々は水管理方法の改善に取り組んでいる。こうしたイニシアティブを取る措置は、気候変動の有害な影響を緩和するだけでなく、経済的にも大きな利益をもたらす。しかし、こうした努力はさらに拡大されなければならない。地域の現在の「緩和」と「適応」の政策を拡大・強化される必要がる。これには、当面の危機と気候変動の長期的な影響の両方に対処する、包括的な戦略が必要となる。

中東における将来の気候政策は、経済的なトレードオフを管理すること、そして、地域の経済、社会政治的構造、発展に対する気候変動の壊滅的な影響を軽減するための断固たる行動をとることの間で、バランスを取る必要がある。現在は具体的な進歩が見られるものの、中東の気候介入には大規模な計画に重点を置くよりも、現実主義がより求められる。実用主義と適切な規模の対応が不可欠である。地域は気候介入を効果的に優先順位付けする必要があり、そうしない場合は、本末転倒の――馬の前に馬車を取り付けるような――リスクを冒すことになる。

当初は関連性のないと思われた脅威が、気候変動によって引き起こされた災害によって複合化し、複雑な網の目のような課題へと発展する可能性がある。これは、経済全体の崩壊を危険にさらすことなしには解決できないだろう。さらに、仮にこの地域の貧しい国々に豊富な気候変動資金が用意されていたとしても、その焦点は緩和策や適応策には向かないだろう。それよりも、疲弊したセーフティネットへの圧力を軽減し、不平等な格差を是正し、インフラに投資し、失業――特に若者と女性の――に取り組むことで、ボラティリティを軽減することが急務となるだろう。気候変動への介入の優先順位をこれらの緊急の社会経済的ニーズと一致させない場合、市民の反感、不安、最終的には紛争を引き起こす可能性のある、優先順位の不一致につながる可能性がある。

排出量を大幅に削減し、世界の気候変動対策に貢献するためには、アラブ諸国はより野心的な緩和戦略を検討する必要がある。エコフレンドリーな産業イニシアティブに注力することで、排出量を削減するだけでなく、貧困撲滅や不平等格差の是正といった他の目標にも取り組むことが可能になり、明るい展望が開けるだろう。さらに、集団的かつ参加型の意思決定プロセスによって生み出される公正で公平な転換は、各国が化石燃料から脱却する際に、雇用や地域社会への破壊的な影響を軽減するために極めて重要である。そのためには、気候変動への適応行動、特に地域コミュニティのニーズや状況に応じた行動に関する報告の透明性を強化する必要がある。

もちろん、このような行動は、途上国を対象とした、気候適応のための資金調達の迅速な規模拡大と同時に実施される必要がある。気候変動に関連する「損失と損害」に対する基金の設立は有望な進展ではあるが、これまでに誓約された資金は、途上国が被る年間推定損失額4000億ドルのごく一部に過ぎない。

当面、中東は気候変動の緩和と適応に向けて、全体的で現実的、かつ包括的なアプローチを採用する必要がある。アラブ地域は、適切な戦略とその実行によって現在のギャップを埋め、気候変動対策に向けて決定的な一歩を踏み出すことができる。これらの行動を世界的な取り組みと一致させることで、中東はより持続可能で回復力のある未来への道を切り開くことができるだろう。

  • ハフェド・アル=グウェル氏は、ワシントンD.C.にあるジョンズ・ホプキンス大学高等国際関係大学院の外交政策研究所、ノースアフリカ・イニシアティブのシニアフェロー兼エグゼクティブディレクターである。
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