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大量虐殺で提訴されたイスラエルの形勢は不利

イスラエルの爆撃で負傷したパレスチナ人の子どもたちがガザ地区ラファの病院で治療を受けている。(ロイター写真)
イスラエルの爆撃で負傷したパレスチナ人の子どもたちがガザ地区ラファの病院で治療を受けている。(ロイター写真)
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06 Jan 2024 04:01:04 GMT9

ガザ戦争中のイスラエルの行為に対し、多くの活動家がどこかの国が立ち上がって1948年のジェノサイド条約(集団殺害罪の防止及び処罰に関する条約)を発動するよう求める中、12月29日にその一歩を踏み出したのは南アフリカだった。この提訴がイスラエルによるパレスチナ人への侵略を止める、画期的な一手となる可能性があるため、現在、ハーグの国際司法裁判所(ICJ)に世界中の視線が注がれている。

米国人で国際法教授のフランシス・ボイル氏は、南アフリカが提出した84ページにわたる文書を慎重に検討し、南アフリカが確実にイスラエルに勝利すると結論付けた。ボイル氏は1993年、ICJにおいて、ユーゴスラビア連邦共和国を相手にボスニア・ヘルツェゴビナでの大量虐殺の提訴を実現させた人物である。

南アフリカでの審問は1月11日~12日に行われる。イスラエルに対し、大量虐殺に等しいとみられるすべての行為を停止する命令が1週間以内に出される可能性がある。パレスチナ人に対する侵略を停止する命令となりそうなのだ。ジェノサイド条約の第1条では、条約のすべての締約国に対し、停止命令が出されたら即刻、大量虐殺が行われないようにすることを求めている。

ネタニヤフ政権の大量虐殺の意図は非常に明白であるため、この提訴は強力な対応である。1948年に国連が定義した大量虐殺という犯罪は、「国民的、民族的、人種的または宗教的集団の全体または一部を破壊する意図」をもって行われる行為である。ブラウン大学でホロコーストとジェノサイドを研究しているオメル・バルトフ教授によると、大量虐殺の意図は通常、民族浄化の後には通常、大量虐殺が続く。11月に掲載されたニューヨーク・タイムズ紙の論説の中で、バルトフ氏はナチスドイツにおけるユダヤ人の場合について言及した。当初、ナチスの計画はドイツ領土からユダヤ人を排除することだったが、後にユダヤ人の絶滅が目的となった。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相が率いる人種差別的なイスラエル政権は、南アフリカによる提訴において十分な証拠の宝庫となっている。イスラエルの閣僚らが、ガザの住民に対して何をしたいのかを明確かつ詳細に述べている。彼らはガザの住民をシナイ半島に移送したいと率直に言っているのだ。今週、コンゴ民主共和国が追放されたガザ住民を受け入れることを目的に、同国と秘密会談を行っているという報道もあった。その間も、イスラエルはガザを完全に破壊し、人が住めないところにするための作戦を続けているのだ。提訴内容は明確である。もし命令が出れば、ジェノサイド条約締約国の153カ国はその命令に従わなければならない。ICJは国連における最上位の司法機関だからだ。

ベンヤミン・ネタニヤフ首相が率いる人種差別的なイスラエル政権は、南アフリカによる提訴における十分な証拠の宝庫となっている

ダニア・コレイラト・ハティブ博士

この提訴をさらに強力なものにしているのは、提訴したのが南アフリカという事実である。ICJに提訴したのがなぜアラブ諸国やイスラム教国家ではなかったのかについて、眉をひそめる人もいる。しかし、アラブ諸国以外、イスラム教国家以外の国であることは有利なのである。パレスチナがこんなにも世界中から支持を集めているのは、問題がイスラム教の問題でもなく、アラブの問題でもないと思われているからだ。パレスチナの問題は社会正義と人間の尊厳の問題とみなされているのだ。世界的に有名なハリウッド映画の監督オリバー・ストーン氏は、正義、平和、バランス、基本的な人間の良識に関わる問題であると説明している。

南アフリカはパレスチナ人の最善の擁護者だ。同国の国民は、先住民を従属させた植民地政権によるアパルトヘイトに苦しんでいたからだ。現在、パレスチナも同じ状況にある。ヨルダン川西岸地区では、イスラエル人入植者はイスラエルの法の下で生活し、パレスチナ人はイスラエルの軍事支配下におかれている。住民が人種に基づいて区別され分離される、このような二重の法制度は、アパルトヘイトがどのようなものであるかをわかりやすく示している。

実際に、一部の学者や政治家がヨルダン川西岸地区の「バンツースタン化」について発言している。先住民が人口が密集した飛び地に住まざるを得なかったアパルトヘイト時代の南アフリカと似ているというのだ。だから、キリスト教徒が多数を占める南アフリカがICJに提訴したのは、不正義に苦しみ、アパルトヘイトを「二度と繰り返さない」と誓った国としての行動なのだ。

もし逆に、イスラム教徒が多数を占める国が提訴していたならば、政治問題化していただろう。人種差別的な政治家は、イスラム教国家が世界に自国の願望を押し付けるための提訴だと解釈しただろう。しかし、南アフリカが提訴したのだから、偏見をもつ人もさほど文句も言わないだろう。パレスチナ人を強制退去させて「親ハマス」の国々に移送すべきと露骨な要求をする、ニッキー・ヘイリー前国連大使のようなひどい政治家も、ICJから大量虐殺の呼びかけとみなされかねない発言をする前に、もう一度よく考えてみるだろう。

現在の世界秩序の守護者と思われているらしい米国の立ち位置を見るのは、興味深いことになるだろう。米国は大量虐殺の告発からイスラエルを守るために、国連の最上位の司法機関に従わないつもりなのだろうか。イスラエルが責任を問われないまま行動することを、まだ容認するのだろうか。ボイル氏によれば、米国はジェノサイド条約第3条E項に基づき、大量虐殺の「ほう助と教唆」に関与している可能性があるという。米国が国際法を遵守するのか、それとも同盟国イスラエルのために国際法をねじ曲げるのかを見極めるための試金石となりそうだ。フランスはすでに、ICJから出されるいかなる命令にも従うと発表している。

もし米国が大量虐殺の共謀で告発された場合、米国民がどのように反応するのかを見るのも興味深いことになるだろう。おそらく停戦を求める声は高まるだろう。今年は選挙の年だから、バイデン政権に対する圧力も高まるだろう。イスラエルがICJの命令に逆らおうとしたときに、できれば米国がイスラエルに対し停戦を強制せざるを得なくなっていることを願う。つまり、あらゆる指標はパレスチナ側が有利と示している。今我々がすべきことは、成り行きを見守るだけである。

  • ダニア・コレイラト・ハティブ博士は、ロビー活動に重点を置く米国とアラブ諸国関係の専門家。トラックII 外交に注力するレバノンの非政府組織「協力・平和構築研究センター」の共同創設者。
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