Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

気候移民問題に早急な対応が必要

「ストーム・ダニエル」など昨今の気候災害の分析から、中東および北アフリカ地域の気候移民に対する取り組みが見えてくる(AFP)。
「ストーム・ダニエル」など昨今の気候災害の分析から、中東および北アフリカ地域の気候移民に対する取り組みが見えてくる(AFP)。
Short Url:
03 Feb 2024 02:02:11 GMT9
03 Feb 2024 02:02:11 GMT9

気候変動による被害を抑えるための取り組みが世界中で行われているにもかかわらず、近年、気候変動が原因で発生した自然災害のせいで居住地から退避せざるを得ない人々が増えている。そのような人々を支援するための最善の方法について深刻な議論が交わされている。

気候移住は、自然災害や生態系の変化によって特定の地域が居住不能になり、人々が安全で持続可能な生活環境のために地域社会内部での移動、または外部への移動を余儀なくされたときに発生する。気候変動による避難の大部分は国内で起こり、避難民が災害後に帰宅できるチャンスがある場合も多い。しかし気候変動が予測不可能な方向に激化した影響で、居住不能になってしまう地域もある。

昨今の気候変動による災害分析から、中東および北アフリカ地域における気候移民の取り組み方が見えてくる。たとえば、2023年9月に発生した「ストーム・ダニエル」は、観測史上最も多くの死者を出した地中海熱帯様低気圧(地中海ハリケーン)と位置付けられている。これにより、約45,000人が避難を余儀なくされた。一方、モロッコやアルジェリアなどの地中海沿岸諸国では、2022年7月と8月に厳しい熱波に見舞われ、さらに山火事も続いた。そのためモロッコ北部の農村地域だけで9,500人が避難することになった。

国際NGO組織「国内避難民モニタリングセンター(IDMC)」は、世界中の自国内避難民に関するデータのモニタリングを専門とする機関で、昨年、気候移民の深刻さを示す統計を公表した。2008年以来、洪水、風雨、山火事、地震、津波、干ばつなど、気候変動による数々の現象および災害のために、なんと3億7,600万人が強制避難を余儀なくされている。

気候変動が自然災害の主要な原因であるため、気候難民の数は今後も増加すると予想される。

サラ・アル=ムッラ

2020年以降、懸念すべき上昇傾向が観察されている。2021年末から2022年末までに災害で国内避難した人々の数は45%増加し、3,260万人に達した。2022年には、中東と北アフリカ地域で干ばつ、山火事、洪水による避難者が305,000人にまで達し、前年よりも約25%増加した。

気候変動が自然災害の主要な原因であるため、気候難民の数は今後も増加すると予想される。経済平和研究所によると、最も悲惨な状況では2050年までに最大12億人が自然災害で避難することになる可能性があるという。

気候難民が危険な移住の旅をたどる中、彼らが直面する課題はさまざまな形で現れる。気候難民は、食料、水、衛生、住居、医療、教育の恩恵を十分に受けられないなど、複数面で基本的人権を侵害されることになる。突然移動せざるを得なくなった気候難民は、生計を失ったり持続可能な雇用を確保できなかったりする。それが、結果として心身の健康に悪影響を及ぼす。社会的つながりや地域の絆の断絶も、孤立、不安、鬱状態を引き起こす要因となる。さらに法律の抜け穴により、気候難民は完全に保護されないことが多く、虐待、差別、搾取、強制労働、人身売買などの被害に遭いがちである。

気候移民の課題に対処するには、障害を克服し目標を達成するために大きな方針転換が必要だ。気候移民の権利と尊厳を保護するために、国際的な重要組織や地域のコミュニティ組織が協力することで方針はより強化されるだろう。将来に向けた見通しをつかむには、各コミュニティにおける気候移民の根本原因を理解することが必要だ。その後、それらの要因を軽減するために尽力しなければならない。

長期的な気候変動対策戦略は、適応計画と環境保全に特に焦点を当て、持続可能で回復力のある未来を想定すべきである。プログラムには、生産性を向上させる農業技術への投資も含めると良い。それによって食料安全保障のリスクが低減するだろう。同様に、持続可能な水資源管理のガイドラインにより、すでに水不足の地域では水を保全し、清潔な水へのアクセスが改善される。一方で干ばつや洪水の影響を緩和することもできる。

将来に向けた見通しをつかむには、各コミュニティにおける気候移民の根本原因を理解することが必要だ。

サラ・アル=ムッラ

短期的には、政府は気候現象の監視と迅速な警報の発信を担当するデータセンターを設立し、迫り来る気候関連の災害について地域住民に警告を与えるとともに、適時避難と準備に対応できるよう調整すべきだ。社会保護プログラムは弱者支援の基盤である。一方気候リスクについて地域社会に知識をもたらし、持続可能な慣行を促進するコミュニティ啓発プログラムも重要だ。さらに肝心なのは、災害後に個人が生計を立て直し、地域社会を再建する能力を身につけるためのスキル開発プログラムの展開である。

必要不可欠なのは、気候移民の権利とニーズを保護する法的枠組みについて、国内および国際的なレベルで議論を行うことだ。1951年に締結された現行の難民条約は、人種、宗教、国籍、特定の社会集団への所属、政治的意見によって迫害される個人にのみ適用される。気候関連のリスクは、難民認定される根拠と認識されていないのだ。

各国の関係者は、安全で秩序正しく尊厳ある移住を円滑に行うための移民管理の明確な計画を立てるべきだ。気候変動の多大な影響を受けている地域から、より安全で回復力のある場所へ人々が移動できるよう、政府、人道支援団体、地域社会が計画的な移転構想をまとめると良いだろう。

気候変動の影響を受けて荒廃したコミュニティの再建を支援すれば、国外避難を余儀なくされる人々は減少するだろう。十分な財政資源を確保すれば、中東および北アフリカ地域全体で脆弱な地域の気候対策インフラを強化し、自然災害で荒廃した地域の再建に資金を提供できる。これらの重要なプログラムを実現するためには、政府機関、市民社会、学界、民間セクターの緊密な協力が不可欠だ。

気候変動の脅威が増大する中、効果的な気候移民政策の推進が不可欠である。そのような政策があってこそ、環境変化によって移動を余儀なくされた個人やコミュニティを保護し、権利を守り、持続可能な再定住先を確保することが可能になるのだ。

  • サラ・アル=ムッラ氏は、人間開発政策と児童文学に興味を持つアラブ首長国連邦の公務員。連絡先はwww.amorelicious.com
topics
特に人気
オススメ

return to top