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UNRWAへの資金提供の打ち切りは道義に悖り害を為す

UNRWA、さらにはその人道的支援の受領者まで罰することは道義に悖り甚大な害を為す(資料画像 / AFP)
UNRWA、さらにはその人道的支援の受領者まで罰することは道義に悖り甚大な害を為す(資料画像 / AFP)
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07 Feb 2024 10:02:26 GMT9
07 Feb 2024 10:02:26 GMT9

戦時下において他人の瑕疵をあげつらい自らの不正への注意を逸らすという戦術は、戦争そのものと同程度に長い歴史を有している。1月最終週、イスラエルの広報機関は、中東に居住するパレスチナ難民への人道支援をこれまで75年間にわたって担ってきた組織に対してこの戦術を用いた。

2023年10月7日にハマスが実行した虐殺に国際連合パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員12人が直接的に関与していた事実の発覚とそれに対するイスラエルの怒りは当然であり、正当だ。UNRWAという組織の歴史において、これほど厄介で破壊的な暴露は言うまでもなく前代未聞だ。しかし、UNRWAへの資金提供の停止の呼びかけと、いくつかの政府が表明したその呼びかけへの支持は、短絡的で思慮に欠ける反応である。現在の、そしてこれまでの戦争の犠牲となってきた多くのパレスチナ人たちが最も切実に支援を必要としている現在、UNRWAへの資金提供の打ち切りは、パレスチナ人たちを裏切る事に等しいのだ。

UNRWAに対するイスラエルの制御不能な攻撃が、ハマスの2023年10月7日のテロ攻撃の実行犯にUNRWA職員複数が含まれていた、あるいはその襲撃の一部として拉致された人質の隠蔽に協力したとの暴露に端を発していたのであれば、イスラエルによる激しい糾弾に同調する声もあったかもしれない。しかし、現況は、長年にわたる悪意に満ちた非難の下地が有った上で生じているのであり、そうした非難の多くにはそもそも根拠すら無いのである。

テロリストと共謀しているとされ、パレスチナ難民の悲劇を永続化し、腐敗し、資金提供者に対して価値が無く、そして全般的に反イスラエル的であるとして、UNRWAは、その存在そのものを非難されてきた。UNRWAは、難民の窮状と法的地位についての満足出来る解決策を含め、イスラエルとパレスチナの紛争を終結出来なかった政治的失敗(イスラエルに主な責任がある)のスケープゴートにされてきたのだ。

こうした国々が、ガザ地区の住民にとって最悪の時期に、UNRWAへの資金提供を打ち切る理由は無い。

ヨシ・メケルバーグ

国連職員のテロ行為への参加は容認出来ようはずがない。UNRWA上層部の今回の対応は完全に正しいものだった。UNRWAのフィリップ・ラザリーニ事務局長は。即座に、「人道支援を提供する政府機関としての能力を守るために、当該スタッフたちの契約を直ちに解除し、真実を明らかにするための調査を遅滞なく開始する決定を下しました」と発表したのだ。

この対応は、イスラエル側から提供された情報に基づき独自の内部調査が完了する以前に下された決定によるものではあったが、UNRWAへの期待を満していた。とはいえ、倫理的、現実的理由により、2023年10月7日の襲撃に多くの職員が関与したとの報に接したUNRWA上層部と国連機構全体が受けた衝撃と動揺は想像しようもないほどのものだっただろう。

イスラエルのUNRWAへの長期にわたる敵意を鑑みると、イスラエルの報道官たちがUNRWAへの資金提供停止を要求する際に見せた計算ずくの即座のヒステリー発作に意外さは皆無だった。しかし、イスラエルは、自軍がガザ地区で戦っている敵が一体誰なのかについて混乱を来しているように見受けられる。イスラエルにとっての敵は、ハマスなのか、あるいは既に難民だったにも関わらずこの恐ろしい戦争によって再び退避する事を余儀なくされた人々に、避難所や医療支援、食料、水、そして何らかの尊厳を提供しようと自らの命を危険に晒しながら最善を尽くしている人道活動家たちなのだろうか?

全体像の把握のために少し数字を確認してみたい。UNRWAはこの地域全体で約30,000人の意欲に満ちた職員を擁し、その内ガザ地区では約13,000人のパレスチナ人を雇用している。パレスチナ人職員のほとんどは難民である。イスラエル諜報機関が作成した調査資料によると、そのガザ地区の職員の内、190人がハマスまたはパレスチナ・イスラム聖戦の工作員で、他に1,200人がそうした組織と「関連」があるという。この場合の「関連」とは、家族や友人たちの1人以上がこうした組織のメンバーである可能性があるといった、何らかの意味がある(または全く無意味な)「関連」であり、それ自体はそのパレスチナ人をUNRWAで雇用しない理由にはなならない。

イスラエルの調査資料が正確だとしたら、そうした組織の工作員であるUNRWA職員は全体のごく一部に過ぎない。この問題には、確かに、対処が必要である。しかし、米国や英国、カナダを含む9ヶ国がガザ地区の住民にとって最悪のタイミングであるこの時期にUNRWAへの資金提供を停止する理由にはなり得ない。

イスラエルも、UNRWAへの資金提供の停止を決定した各国政府も、この戦争でUNRWAの人道支援担当職員の152人が既に死亡していることや、その多くは自身も難民であり、ガザ地区の難民人口が170万人で同地区の全人口の4分の3以上を占めていることには触れていない。避難民の中には、イスラエルの執拗な空爆や地上攻撃の結果、繰り返しの移動を余儀なくされている人々もおり、慢性的な収容力不足にも関わらず、UNRWAの施設と援助は彼らの唯一の頼みの綱になっている。

イスラエルは難民問題が忽然と消失することを望んでいる。UNRWAは、その存在自体が不愉快な備忘通知のようなものなのだ。

ヨシ・メケルバーグ

UNRWA関係者の一部に対するイスラエルの非難の激しさの背景には、より広範な意図が隠されている。それがUNRWAに向けられたイスラエルの計り知れない悪意の真の源なのだ。イスラエルは難民問題が忽然と消失することを望んでいる。UNRWAは、その存在自体が、パレスチナ難民問題や、この問題が引き起こされた際のイスラエルの立場、そして、それ以来ずっと未解決のままこの問題を放置しているイスラエルの姿勢を思い出させる不愉快な備忘通知のようなものなのだ。

ガザ地区の人々は、イスラエルが認めるか否かに関わりなく、戦争終結後もガザ地区に留まり続ける。さらに数多くの人々が現在難民となり、さらなる退避を余儀なくされている。こうした難民たちを保護し、人道援助を提供する事は国際社会の責任である。

UNRWAへの資金提供の停止を求めるイスラエルの呼びかけは、パレスチナ人対策の政策の中で最も長期にわたって継続されているこけおどしの1つである。何故なら、URWAが解体されてしまった場合、少なくともヨルダン川西岸地区とガザ地区において難民の福祉に責任を負わなければならなくなるのは他ならぬイスラエルだからである。そして、もし、医療サービスや教育、経済的援助、住居が奪われたとしたら、パレスチナ人たちの怒りは、何よりも第一に、当然かつ正当に、イスラエルに向けられることになるからである。

さらには、UNRWAの消滅は、難民にとっては数千に及ぶ雇用の喪失を意味する。そうした変化に付きもののあらゆる影響を別としても、彼らは将来のパレスチナ独立国家の根幹となる可能性が高い人々なのだ。そして、他のパレスチナ難民受入国にとってUNRWAへの資金提供の打ち切りは、既に広範な武力紛争の危機に瀕している地域をさらに不安定化させる要因にしかならない。

UNRWAの組織としての評判を失墜させた職員たちを、同機関が自ら処分する必要があることに疑いの余地は無い。しかし、UNRWA全体、さらにはその人道的支援の受領者まで罰することは道義に悖り甚大な害を為す。それは、数百万人に及ぶ罪の無い人々をさらに悲惨で苦しみに満ちた境遇に追い込むだけであり、その正当化は不可能である。そして、UNRWAの消滅を望む人々は、数百万人ものパレスチナ難民たちの幸福と、イスラエルと共存するパレスチナ人たちの自己決定への正当な願望を損なわない、実行可能な代替策を案出するという課題に決着をつけなければならない。

  • ヨシ・メケルバーグ氏は国際関係学の教授であり、王立国際問題研究所の中東・北アフリカプログラムでアソシエイトフェローを務めている。X:YMekelberg
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