Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

GCC地域はAI利用の世界的リーダーとなったが、一方でリスクも

企業は、AI離職のリスクがある既存の労働者を再教育する方法も検討すべきだろう。(画像:Shutterstock)
企業は、AI離職のリスクがある既存の労働者を再教育する方法も検討すべきだろう。(画像:Shutterstock)
Short Url:
16 Feb 2024 06:02:03 GMT9
16 Feb 2024 06:02:03 GMT9

生成AIは、今週ドバイで開催された世界政府サミットで最もホットなトピックの一つとなった。これは不思議なことではない。2022年11月にChatGPTが発表されたことで、世界中で生成AIに対する熱狂的な関心が沸き起こり、以来、関心は高まる一方だ。

しかし、湾岸協力会議(GCC)地域ほどこのテクノロジーに期待を寄せている地域はない。例えば、アラブ首長国連邦とサウジアラビアでは、それぞれ74%と68%の労働者が、少なくとも週に1回は何らかの形で生成AIを利用していると回答している。

これは、私の会社のシンクタンクであるオリバー・ワイマン・フォーラムが11月に25,000人以上の従業員を対象に19か国で実施した調査による。これより高かったのはインドだけで、83%だった。なお、世界平均はすでに55%と高かった。

GCC地域のこの高い利用率は、何年もかけて実現されたものだ。カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦は、ChatGPTが登場するはるか以前から、国家AI戦略の確立におけるリーダーであった。

この地域の国々は、生成AIの基盤モデルにも多額の投資を行っている。

しかし、GCC地域は生成AIの導入では世界をリードしている一方で、企業においてはツールを安全に使用するための従業員教育が必ずしも追いついていない。

調査データによると、アラブ首長国連邦とサウジアラビアでは、それぞれ61%と57%の労働者が、会社が提供するトレーニングは不十分だと回答した。カタールでは62%で、メキシコと並んで中国、シンガポールに次ぐ世界第3位である。

生成AIに対する労働者の強い関心と、時に不十分な企業の安全対策は、データ損失や誤情報から人材保持に至るまで、GCC地域のビジネスリーダーに潜在的なリスクをもたらす。

最も喫緊の課題は、企業が機密データを保護するための明確なガイドラインと質の高いトレーニングを提供することだ。例えば、アラブ首長国連邦の労働者の約92%が、生成AIツールを使用して会社のデータを漏洩したことがあると回答している。

データセットの分析、社内レポートの要約、会議メモの書き起こしなどの機能は、生産性の大幅な向上を約束するものだ。しかし同時に、ビジネスリーダーが迅速かつ積極的に管理しなければならないデータリスクももたらす。

GCC地域は生成AIの導入では世界をリードしている一方で、企業においてはツールを安全に使用するための従業員教育が必ずしも追いついていない。

ニック・シュトゥーダー

また、人材の問題もある。GCC地域の労働者は、生成AIとその生産性向上の可能性に強い関心を寄せているにもかかわらず、その結果に最も不安を感じている労働者でもある。

例えば、アラブ首長国連邦の労働者の約82%が、生成AIによって仕事がなくなることを懸念していると回答しており、これは世界平均の60%を上回っている。

従って、雇用主は生成AIが雇用や人員にどのような影響を与えるかについて透明性を確保し、労働者がいたずらに流出するのを阻止する必要がある。

テクノロジーによって仕事がどのように変わるかについて、明確かつ定期的な情報提供を行うことで、この問題に対処することができるだろう。

ある世界的なテクノロジー企業は最近、今後5年間で生成AIによって代替される可能性の高い職種を採用しないと決めたが、これは先見的な例として他の企業が倣うことができるものだろう。

企業は、AI離職のリスクがある既存の労働者を再教育する方法も検討すべきだろう。例えば、ある大手小売企業は最近、顧客のよくある質問に対応できるAIボットを導入したため、コールセンターの従業員をインテリア・デザイン・アドバイザーに再教育した。

このような課題を予見し対応することが、明確な達成目標を定めることと同様、政策立案において重要な役割を果たすことは明らかである。そのため、本地域の各国政府は、長年この変革に向けた計画を策定してきた。

カタールの国家AI戦略には、人材誘致戦略と雇用情勢の変化に関する柱が含まれている。2017年に策定されたアラブ首長国連邦の戦略には、強力なガバナンス、豊かなエコシステムの構築、世界トップクラスの研究の実現など、8つの主要目標が掲げられている。

サウジアラビアでは、「データとAIのための国家戦略」が明確な目標を掲げており、これには、データとAIへの投資を200億ドル呼び込むこと、データとAIに関する起業家精神を育み300社のスタートアップ企業を生み出すこと、科学的貢献において同国がトップ20に入るよう制度を強化することなどが含まれている。これらの目標はすべて2030年に向けて設定されたものだ。

賢く使えば、AIはグローバルな労働力がより多くの仕事をこなせるようにする強力なツールとなる。しかし、その可能性を最大限に引き出すためには、ビジネスリーダーは、労働者が安心し、効果的に教育を受け、将来に十分備えられるよう、必要なスキルアップ、明確な手順、透明性を提供する必要がある。

  • ニック・シュトゥーダー氏は、世界的経営コンサルタント会社であるオリバー・ワイマン・グループの社長兼最高経営責任者である。
topics
特に人気
オススメ

return to top