Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter
  • Home
  • 未分類
  • 新型コロナウイルス感染拡大で高まる金正恩氏の政治リスク

新型コロナウイルス感染拡大で高まる金正恩氏の政治リスク

北朝鮮の指導者金正恩氏(左)の資料写真。2019年撮影。(AFP)
北朝鮮の指導者金正恩氏(左)の資料写真。2019年撮影。(AFP)
Short Url:
18 May 2020 01:05:10 GMT9
18 May 2020 01:05:10 GMT9

ウバイ・シャフバンダル

【イスタンブール】新型コロナウイルスの大流行をめぐり報道が過熱する中、北朝鮮ネタは国際ニュース好きを惹きつけてやまない。

これまでは北のミサイル・核兵器計画に一貫して注目が集まっていたところ、今回は様相を異にする。北朝鮮の指導者、金正恩・朝鮮労働党委員長の健康問題に関心が集まったのだ。正恩氏は4月11日から21日間ほどわけもなく姿を消し、新型コロナに感染したか外科手術のミスの結果執務能力を失ったのではないかとの憶測に火が付いた。

5月の第1週に入り、正恩氏の動画が公開され同氏の体調をめぐる憶測が再燃した。そこでは正恩氏が平壌北方にある肥料工場の竣工式のテープカットに臨み、語りかける様子が映し出されていた。

正恩氏は近ごろまたぞろ失踪癖が出たようだ。2週間にわたり公の場に姿を現わしていないのだ。

中国と国境を接する複数の街で新型コロナが発生したことは、北朝鮮の将来にいっそうの暗雲となって立ちこめている。中国政府は、感染者の新たなクラスター発生によりパンデミック封じ込め策に遺漏が生じる恐れがあることから、東北地区にある吉林省の都市を封鎖している。

北朝鮮全域を新型コロナが席捲しているとみられることから、正恩氏は首都平壌を離れているのはまず間違いのないところだ。

北朝鮮が国内のウイルス禍を認めたがらないこと、脆弱な医療システムしかないこと、金氏の体制をおびやかせかねないようなことなら何に対してもいちじるしく鋭敏であることから、専門家の間では北朝鮮の主張する「感染者ゼロ」という文言は疑わしいとみている。2月にはロシアから北朝鮮へ新型コロナ感染症の検査キット1,500式が供与されていることも、北の主張の信憑性を殺ぐものだ。

北朝鮮ウォッチャーらによれば、中国からも同様のキットは供されたという。ユニセフや国境なき医師団といった救援団体も、北へ対し手袋、マスク、保護眼鏡、手指消毒剤を送ったとされる。

正恩氏には、肥満・タバコの吸いすぎ・深酒、また代々腎臓と心臓にトラブルを抱える家系という問題もあることから、仮にウイルスに感染することになれば重症化するリスクは高まるとも専門家らは考えている。

ドナルド・トランプ米大統領は正恩氏が息災であることを望むと公言している。北との和平交渉が無事に成立すれば申し分のない政権のレガシーとなるだけに、米国政府としても今もこれを重視している姿勢を鮮明にしている。

両首脳は1年前に南北朝鮮を分かつ世界でも最も堅牢な非武装地帯で対面、トランプ氏は現職中に北朝鮮入りした史上初の米国大統領となったわけだが、対話はそれ以来途絶えている。

北の核開発を軸とする和平交渉にこれで弾みもつくはずとの期待は当時高まっていた。

北が長期的視野に立った協議入りをする気があると見える徴候は今のところまだないが、朝鮮半島情勢を不安定化するような緊張や脅威についてはいちじるしく軽減している。

正恩氏はふらりと姿を見せたりまた隠したりといったていではあるが、ともあれ生きていることは間違いのないところだ。

この4月、正恩氏の生死をめぐり憶測が渦巻いたが、金正恩氏が仮に北朝鮮の指導者でなくなった場合にどんなことが起きるのか、世界に確たる知見をもつ者はないということがはっきりした。結局真相は誰にもわかっていない。

米誌『フォーリン・アフェアーズ』がワシントンポストのアナ・ファイフィールド記者を引用する形で書いているところによると、正恩氏の首脳会談での映像を分析した韓国の複数の医師は、正恩氏は年齢に見合わぬ身体的弱点があると見立てているとのことだ。「金正恩氏はまだ36歳だが早死にする可能性には現実味がある。つまり、北朝鮮の指導者が交代する気運はいつでもあるということだ」。『フォーリン・アフェアーズ』へ寄せた記事でカトリン・フレイザー・カッツ氏とヴィクター・チャ氏はそう記している。

「その場合、誰が北朝鮮の手綱を握ることになるのか、あるいは新たな序列が権力固めに要する期間はどれほどのものになるのか、わかる者はいない」

正恩氏が後継者をはっきり決めないままふいに亡くなりでもし、その結果北の体制が急激に瓦解したり、あるいは党派抗争により内訌が起こったりでもすれば、世界全体の安全保障が窮地に陥ることは必定であろう。

北朝鮮分析の精緻さで声価の高い「38ノース」はこのほど、北朝鮮国内の急激な瓦解の危険性をはっきり示している。

「北朝鮮の体制瓦解にまつわって起きるあらゆる諸問題のうちでも、大量破壊兵器の使用ないし大量破壊兵器の国外移転は戦略におよぼす影響性としては最大のものになる」

「北朝鮮の保有する核化学生物(NBC)兵器は、その膨大な規模と複雑性から米韓同盟がその細目について完全に明快な知見を得ることは事実上不可能だ。さらには、軍部や個別の日和見主義者、体制指導部から離反する者、分離主義者らが大量破壊兵器を入手するかもしれない可能性も大いにある」

南北で突発的な事態が起きれば、韓国の首都ソウルは荒廃しその一千万の住民の生活は破綻し、大量の人命の失われる悲劇的な末路を迎えかねない。

トランプ氏はこうした緊迫した情勢がある中で大なたを振るいつづけ朝鮮半島を焦土と化すような戦争の勃発を防いでおり、これは評価できるだろう。

核弾頭を積んだ大陸間弾道ミサイルが米国の西海岸の主要都市に到達するといったまことに現実的な脅威も、北朝鮮との外交交渉を絶やさなければついには心配の種とならぬ可能性がある。

トランプ氏は金正恩氏と直談判するというキッシンジャー氏ばりの手法を採った。この結果、これを礎にこれまでの米政府の朝鮮半島政策は転換点を迎えたということになっているかもしれない。

[caption id="attachment_14901" align="alignnone" width="506"] 北朝鮮・平壌医科大で学生が体温測定を受けている。4月。(AFP)[/caption]

世界の過半をパンデミックが襲う中、両国間の外交を使った関与政策が今ほど求められているときはない。

両国関係の正常化、人道支援に加え交易の新たな動線を構築すること、さらには北朝鮮国民にその求めてやまない繁栄の新時代への道筋を示すこと。これこそが、米国と朝鮮半島の国民双方が長期にわたり安全を保証されるビジョンだ。

さらに言えば、北朝鮮を責任国家の仲間入りさせることができれば、北が長年提携してきたイランやシリアといった中東のならず者国家へ弾道ミサイルや核兵器の部品に関わる知見なり技術を渡さずにすむ最善の手段となるかもしれない。

北朝鮮との包括的和平交渉についてはしたがって、特に新型コロナが蔓延するこの時期、米政府は外交政策上の優先事項として引き続き模索すべきだ。

すっからかんの経済を抱える北朝鮮が今ほど世界からの投資や資金を求めているときはない。米国や韓国との交渉に入ることでそれは決して夢ではなくなる。

やるだけの価値はあるだろう。それは何もトランプ氏の大統領としてのレガシー作りというだけにとどまらない。これにより、長期にわたる地政学的不安定要因を一掃できる可能性もあるのだから。

特に人気
オススメ

return to top

<