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パレスチナ人は、イスラエルと対峙するための新たな機会をどう使うか

2016年6月9日、ニューヨーク。イスラエルへのボイコットを支持する企業への投資を国家が禁止する法律に抗議するデモ参加者。(ゲッティイメージズ)
2016年6月9日、ニューヨーク。イスラエルへのボイコットを支持する企業への投資を国家が禁止する法律に抗議するデモ参加者。(ゲッティイメージズ)
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10 Mar 2022 10:03:24 GMT9
10 Mar 2022 10:03:24 GMT9

ロシアによるウクライナ侵攻は、パレスチナ人にイスラエルの嘘とプロパガンダに立ち向かう機会を与えた。しかし、効果的な広報戦略を展開するには、地道な努力が必要である。まずは、アメリカ国民に焦点を当てることから始めるべきだ。彼らは、占領、ボイコット、難民、超法規的処刑などの問題に対して、極度の反発と怒りの感情を示している。

これは、イスラエルによるパレスチナ自治区の占領、イスラエルの暴力によって生まれたパレスチナ難民に対する無神経さ、パレスチナの容疑者を先に殺し、質問は後にするというイスラエルの政策に直面した時のアメリカ国民の感情と矛盾している。

なぜなら、アメリカ人はイスラエルによるプロパガンダに染まっているからだ。パレスチナ人はテロリストであり、イスラエル人は犠牲者だという図式が、彼らの中に出来上がっている。

もしイスラエルがアメリカ人を殺しても、そこには気まずい沈黙が流れるだけだろう。しかし、もしウクライナでアメリカ人が殺されたなら、怒りと行動と変化を求める声が沸き起こるだろう。

ウクライナはまた、多くのアメリカ人にとって、「反ボイコット法」を可決しようとする動きに焦点を当てることになる。このような法律は、アメリカ人が政府からの報復を恐れることなく自己を表現する権利を保護するはずの国際法、そして米国憲法の両方の基本的な原則に反しているのだ。

パレスチナ・リーガルという団体の代表が先週、唯一の親アラブ的なアメリカの全国刊行紙である『中東問題に関するワシントン・レポート』が主催した会議で語ったところによると、32の州が、外国であるイスラエルに対するボイコットを違法とする法律を採択しているという。

その反面、アメリカ人は、モスクワにウクライナからの撤退を迫り、その軍事力を弱体化させる努力の基盤として、ロシアという別の外国をボイコットする呼びかけを強力に受け入れているのである。実際、ほとんどのアメリカ人は、この懲罰的措置がさらに進むことを望んでいる。

では、イスラエルとウクライナ戦争とでは、なぜ彼らの態度が違うのだろうか。親パレスチナ派の専門家で、このテーマで6冊の本を書いたマサチューセッツ大学のコミュニケーション学教授、サット・ジャリー氏は、これを「インプロパガンダ」、つまり「現実をひっくり返すこと」と呼んでいる。

1980年代、アメリカの主要なニュースメディアは、難民、ボイコット、超法規的処刑など、占領の核心部分すべてにおいて、イスラエルに対してもっと批判的だった。では、何が起こったのか。イスラエル人は一丸となり、私が今パレスチナ人に必要だと語っていることと、まったく同じことをしたのである。彼らは発する言葉を変え、ニュースメディアを「管理」することを学んだ。そして、プロパガンダは汚いやり口ではない、という考えを受け入れた。

ジャリー氏によれば、イスラエルがパレスチナ人を殺害した場合、報道は最初に必ず被害者と、その家族に同情することから始めるという。そして、人間らしく、同情的で、信じられるように見せかけてから、パレスチナ人がイスラエルにもたらす脅威を誇張するのだ。このプロパガンダ手法は「ハスバラ」と呼ばれている。

アメリカ人がパレスチナの権利を支持するのを阻んでいる理由は、問題や理念ではない。パレスチナ人はこのことを理解する必要がある。アメリカ人の目を、イスラエル・パレスチナ紛争の現実に向けさせるために、効果的な広報・教育キャンペーンを構築しなければならなからだ。本当の問題は、ほとんどのアメリカ人がパレスチナ人とその権利に関する虚偽の情報を信じるように強要され、あるいは「教育」されてきたということである。

この、アメリカの正義と道徳の欠如に対して、抗議し、叫び、感情的で怒りに満ちたレトリックを投げつけても効果はない。パレスチナ人が安らぎを得るには役立つかもしれないが、彼らには、その声は届かない。

広報活動において、効果的な戦略がある。それはメッセージを伝えたい人々が、活動家が信じていることではなく、聴衆が信じていることに焦点を当てることだ。物事を変えるために、自分自身に語りかけるのではない。聴衆の理解を変えるためには、聴衆の一人ひとりに対して語りかけるのだ。

本当の問題は、ほとんどのアメリカ人がパレスチナ人とその権利に関する虚偽の情報を信じるように強要され、あるいは「教育」されてきたということである。

レイ・ハナニア

パレスチナの問題は、2つに分けて考える必要がある。一つは、パレスチナ人自身が真実だと信じていること。もう一つは、アメリカの聴衆が真実だと信じていることだ。そして、後者をターゲットにする必要がある。

しかし、どの親パレスチナ派によるメディア・キャンペーンでも、これは一度も行われたことがない。その理由のひとつは、パレスチナ人があまりにも感情的であるからだ。彼らはアメリカ人の心理に情報を与えるという事柄よりも、自分たちが最も怒りを感じている事柄に焦点を合わせてしまうのだ。

何もないところから、何かを引き出すことはできない。結果を得たいのであれば、アメリカの聴衆を対象とした、精緻な世論調査が必要だ。そして、親パレスチナ派の活動家がばかばかしいと思うような問題でも、それを取り上げる必要がある。また、世論調査をしなくても、アメリカ人は次のようなことを信じていると予測できる。「パレスチナ人がユダヤ人を憎んでいるからこそ、和平を何度も拒否しているのだ」、「イスラエルは、アメリカ人が恐れるパレスチナのイスラム教徒と、パレスチナのキリスト教徒を区別して対策を練っている」、「パレスチナや中東のキリスト教徒はイスラエルの弾圧ではなく、イスラム教徒の憎悪の犠牲になっているのだ」、と。キリスト教徒である大多数のアメリカ人は、紛争のこのような側面を重視しているかもしれない。しかし、親パレスチナ活動家は、キリスト教徒とイスラム教徒を分けることを嫌う。

それどころか、親パレスチナ活動家はアメリカ人に間違ったメッセージを送っている。「私たちは皆、一つの民族だ。私たちは皆、一つの人間であり、赤い血を流している。我々は共に正義のために並んで戦うのだ」、と。それではキリスト教徒であるアメリカ人による、キリスト教徒パレスチナ人への同情を無効にしてしまう。

2001年9月11日の同時多発テロの後、実際に多くのアメリカ人が私のところにやってきて、こう言った。「君がキリスト教の信仰を捨てて、アラブになるなんて信じられない」と。そのような無知、もう少し寛大に言えば無理解に、どう対処したらいいのだろう。そのような状況において、怒りに満ちた反応をして、彼らの誤解を強化してはいけない。一歩下がって、その人が教育を受けるべき人であることを認識するのだ。その人が信じている他の誤解を知り、その人を脅かさない方法で誤解を解くメッセージを作るのだ。そうして、再教育し、理解してもらうのだ。

パレスチナ人は、メディアのメッセージを作る際に、自分たちの感情を抑えたことがない。その代わりに、彼らは感情の奥底からあらゆるものに反応し、そうすることでアメリカの聴衆の誤った認識を強化しているのだ。

それを乗り越えない限り、大多数のアメリカ人が嘘を見破り、パレスチナ人のための正義を支持するようになることはないだろう。パレスチナ人は正義に値する。しかし、悲しいことに、親パレスチナ派の活動家たちは彼らにそれを与えてこなかったのだ。

  • レイ・ハナニア氏は、受賞歴のある元シカゴ市役所の政治記者で、コラムニスト。お問い合わせは彼の個人的なウェブサイトcomまで。Twitter: @RayHanania
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