Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

イスラエルの抗議活動はパレスチナ人の救いではない

イスラエル政府の司法改革法案に抗議するテルアビブの群衆。2023年3月11日(ファイル/AFP)
イスラエル政府の司法改革法案に抗議するテルアビブの群衆。2023年3月11日(ファイル/AFP)
Short Url:
13 Mar 2023 07:03:54 GMT9
13 Mar 2023 07:03:54 GMT9

週末、イスラエル全土で何十万もの人々が反政府デモに参加する中、この運動がイスラエルの軍事占領とパレスチナにおける人種隔離政策に反対するより広範な闘争にどう影響するか、あるいは融合する可能性があるのか、という質問が生じ始めた。

親パレスチナのメディアは明らかに興奮気味に、ハリウッドセレブたちの発言を紹介した。例えば、俳優のマーク・ラファロ氏が「(イスラエルのベンヤミン)ネタニヤフ首相の新強硬右翼政権に制裁を加えるべきだ」とツイートしたことなどだ。

現在の論争と大規模な抗議活動の中心にいるネタニヤフ首相は先週、イタリア政府との会談を含め、同地を3日間訪問した際、ローマまで飛んでくれるパイロットをなかなか見つけられなかった。このイスラエルの指導者に対するイタリア側の反応も、同様に冷淡なものだった。イタリア人翻訳家のオルガ・ダリア・パドア氏は、ローマのシナゴーグでのネタニヤフ首相のスピーチの通訳を拒否したと伝えられている。

イスラエルは真の民主主義国家であり、「中東で唯一の民主主義国家」であるという詐欺的主張を暴露するために、ネタニヤフ首相の極右政権に対する反発を戦略的に利用すべきことは理解できる。とはいえ、ネタニヤフ氏が権力を握る数十年も前からすでに存在している、イスラエルの本質的に人種差別的な制度を正当化しないよう、注意する必要もある。

同首相は長年、汚職事件に巻き込まれてきた。3度の厳しい選挙戦を経た2021年6月、依然人気は高かったものの、イスラエル政治を舵取りする権力の座を失った。しかし、2022年12月29日に返り咲く。今回は、アリエ・デリ氏、ベザレル・スモトリッチ氏、イタマール・ベングビール氏といった、イスラエル人から見てもさらに腐敗した人物を従えて復帰した。

抗議活動は、イスラエルの占領や人種隔離政策とはほぼ無関係で、パレスチナ人の権利にも関心がない

ラムジー・バルード

これらの人物には、同盟に加わるそれぞれの理由があった。スモトリッチ氏とベングビール氏の関心は、ヨルダン川西岸の違法入植地の併合から、国家に「不忠節」とみなされるアラブ系政治家の国外追放まで多岐にわたる。

ネタニヤフ首相は右派のイデオローグではあるが、できるだけ長く権力を維持しつつ、自分と家族を法的トラブルから守るという、個人的野心のほうにより関心がある。単純に刑務所の外にいたいのだ。それで、フワラ、ナブルス、ジェニンその他の場所の場合のように、ヨルダン川西岸のパレスチナ人に対して軍事力や入植者による暴力を自由に行使できるようになった、盟友たちの危険な要求を飲む必要もある。

しかし、ここ数年で最も堅固なネタニヤフ政権には、パレスチナの町々を「一掃」するにとどまらない、さらに大きな目標がある。司法制度を変えて、イスラエル社会そのものを変革したいのだ。この改革は、イスラエル最高裁判所の司法審査権を制限し、政府が司法人事をコントロールできるようにするものだ。

イスラエルで行われている抗議活動は、イスラエルの占領や人種隔離政策とはほぼ無関係で、パレスチナ人の権利にも関心がない。彼らを率いてるのはイスラエルの元指導者たち、例えば、エフード・バラク元首相、ツィピ・リブニ元大臣、ヤイール・ラピード元首相、野党党首などだ。2021年6月から2022年12月までのナフタリ・ベネット=ラピード政権時代には、ヨルダン川西岸で数百人のパレスチナ人が殺害された。国連中東和平プロセス特別調整官、トー・ウェンズランド氏は昨年を、ヨルダン川西岸にとって2005年以来「最も致命的な」年と表現した。同政権下でユダヤ人の違法入植地は急速に拡大し、ガザは日常的に爆撃された。

イスラエル社会は、ベネット=ラピード政権が行ったパレスチナにおける血なまぐさい違法行為にほぼまったく反対しなかった。占領地における政府の行動のほとんどを承認してきたイスラエル最高裁判所に対しても、人種隔離政策の認定や、そのすべてが国際法違法である、ユダヤ人入植地の法的正当化に関して、反対の声はほとんど上がらなかった。イスラエルが自らを「ユダヤ人国家」と限定し、ヨルダン川と地中海に挟まれた広大な土地を共有するアラブ系イスラム教徒やキリスト教徒をすべて排除した「国民国家法」を可決した際にも、最高裁が承認印を押した。

イスラエルの司法制度がパレスチナ人の側に立つことはほとんどなく、時折小さな「勝利」が記録されたとしても、全体的な現実が変わることはまずなかった。この国の司法制度とされるものによって、イスラエルの不公正と戦おうとする人々の必死の努力は理解できるが、そうした言葉は、イスラエルの現在の抗議活動がパレスチナ人にとって何を意味するかについて、理解の混乱を招いてきた。

事実、大勢のイスラエル人が街に繰り出すのは今回が初めてではない。イスラエルは2011年8月に、ある人々がこの国自身の「アラブの春」と呼ぶものを経験したが、それはイデオロギーの明確な違いや政治的利害による階級闘争であって、並行して行われている、平等、正義、人権を求める闘争と重なることはほとんどなかった。

社会経済的な二重闘争は世界の多くの社会に存在し、それらの混同も起きてきたが、イスラエルの場合には、抗議行動の結果がどうであれ、根拠のない楽観主義を促進したり、パレスチナの自由のために戦う人々の士気を弱めたりする可能性があるため、そうした混同は危険である。

パレスチナ人に対する国際法違反、恣意的逮捕、超法規的処刑、そして日常的な暴力は、そのほとんどがイスラエルの法的枠組みの中で行われており、これらの行為はすべて、最高裁判所を含む同国の裁判所によって完全に認可されている。これはつまり、たとえネタニヤフ首相が司法制度の支配に失敗したとしても、パレスチナの一般市民は引き続き軍事法廷で裁かれ、住宅の取り壊しや違法な土地の収奪、入植地の建設が日々承認されていくことを意味する。

現在の抗議行動への適切な関与の方法とは、イスラエルは法と秩序の国であり、パレスチナにおける行動と暴力のすべては、いかに残酷で破壊的であっても、国家の法的枠組みに従って完全に正当化されるという幻想を維持しようとして、政府が司法制度をどのように利用しているかを、引き続き暴露してゆくことだ。

そう、イスラエルに制裁を下すべきである。司法制度を利用しようとするネタニヤフ首相の試みのゆえにではなく、人種隔離政策と軍事占領のシステムが、国際法を完全に無視し、それにまったく違反しているからだ。イスラエル人が好むと好まざるとにかかわらず、占領され抑圧されている国家にとって唯一重要な法とは、国際法なのである。

  • ラムジー・バルード氏は、20年以上にわたって中東について執筆してきた。国際的に活躍するコラムニスト、メディアコンサルタント、数冊の本の著者であり、comの創設者である。ツイッター:@RamzyBaroud
特に人気
オススメ

return to top