ベイルート:シリア領内でここ数週間に実施されたイスラエルによるものと思われる一連の空爆により、イランの軍事顧問2人が死亡し、シリアの二大空港が一時的に使用不能となり、地域におけるエスカレーションの懸念が高まった。
イスラエルは長年にわたりシリアにおいてイランとの間の影の戦争を戦っているが、ここに来てそれが激化している。この1週間、シリア当局がイスラエルによるものだとしている空爆が連日のように実施されているのだ。
この攻撃の激化は、武装した男がレバノンからイスラエルに侵入したとみられる異例の事件や、先月のイランとその地域敵対国サウジアラビアの間の和解の後に起こっているものだ。また、ベンヤミン・ネタニヤフ首相の政府による司法改革計画をめぐるイスラエルの大規模な国内危機も背景にある。
隣国シリアにおけるイランの足場固めの阻止を宣言しているイスラエルは近年、シリアの政府支配地域内の標的に対して数百回の空爆を実施してきたが、空爆の実施を認めることはめったにない。シリア当局は、2023年に入ってから4月4日までの間にシリア領内で実施された10回の空爆(そのうち4回は5日間のうちに行われた)はイスラエルによるものだとしている。
イスラエルの最も親密な同盟国である米国も最近、シリアでイラン勢力といざこざを起こしている。米軍は3月下旬、シリア北東部でイランとの関連が疑われるドローン攻撃が行われ米国の請負業者1人が死亡し米国人6人が負傷したことを受けて、イラン革命防衛隊系の組織が使用しているシリア領内の施設に対する報復空爆を実施した。イランから支援をうけているイラクのある組織の関係者によると、この米国の空爆によりイラン人7人が死亡した。
米国とイランの間の攻撃の応酬はエスカレートしなかったが、イスラエルとイランの間のそれはエスカレートする可能性があると懸念する声もある。
12年におよんでいるシリア内戦の初期から、イランは軍事顧問数百人を派遣するとともに、イラクやレバノンなどの国々から自国が支援する戦闘員数千人を配備している。彼らの存在はパワーバランスをバッシャール・アサド大統領に有利な方に傾けることに貢献した。イランが支援する戦闘員はシリア内の様々な地域に展開している。
イスラエルは長年、イランがイスラエルの破壊を呼びかけていること、ヒズボラなどの反イスラエル武装組織を支援していること、核開発計画を持っていることなどを理由に、同国を最大の敵国と見なしている。イランは核兵器を製造しようとしているとイスラエルと欧米諸国は言っているが、イランはそれを否定している。
イランは、同国領内で行われた核科学者殺害や核施設破壊などの攻撃はイスラエルによるものだとしている。
シリアにおける空爆は、自国の北部国境近くに戦闘員が展開していることに対するイスラエルの懸念や、イランが誘導ミサイルなどの高性能兵器をヒズボラに移転しようとしているのではないかとの不安を反映している。2006年の34日間戦争が引き分けに終わって以降、イスラエルとヒズボラはどちらも全面戦争を避けてきた。13万発以上のロケット弾やミサイルを保有しているとされるヒズボラを、イスラエルは大きな脅威と見なしている。
レバノンの軍事専門家で元陸軍大将のヒシャム・ジャベール氏は、イランは約1800人の軍事顧問をシリアに派遣しており、その大半はシリア軍と共に展開していると指摘する。
シリアにおける空爆が増加し始めたのは、ダマスカス空港を一時的に使用不能にした1月2日の攻撃からだ。イスラエルの74年の歴史上最も右寄りの政権が発足した直後のことだった。
論争の的となっている司法改革計画をめぐってヨアヴ・ガラント国防相がネタニヤフ首相に公然と異を唱えるなど、イスラエル国内で大規模な抗議が行われているのをよそに、空爆は続いた。ネタニヤフ首相は一時、計画を批判したことを理由にガラント国防相を解任したが、後に撤回し、司法改革推進を1ヶ月後の国会再招集まで一時的に停止した。
両者はここ数日、何度も公の場に姿を見せ、あからさまに認めることはしないもののシリアでの軍事活動に言及している。
ガラント国防相は今週、「イランやヒズボラが我々に害を及ぼすことは容認しない。これまでも容認してこなかったし、現在も容認していないし、これからもそうだ」と述べた。「必要になれば、彼らをシリアから彼らのいるべき場所、つまりイランへと追い出すつもりだ」
イスラエルによるものとされるシリアにおけるここ数週間の空爆は、イラン関連の人物とインフラの両方を標的としたものだ。
ダマスカス空港とアレッポ空港に対して空爆が実施された。これらはシリアへの武器輸送の流れを阻止することを意図したものと思われるが、シリアとトルコを襲った2月6日の大地震の後の援助物資の輸送も妨げた。
2月19日、イスラエルによる空爆が地震後初めて報告された。シリアの首都ダマスカスの住宅地に対するこの空爆で少なくとも5人が死亡、15人が負傷した。反体制派活動家らによると、この空爆はイランの支援を受けた民兵組織を標的としたものだった。
イスラエル軍は3月中旬、レバノンからイスラエルに入国して車を爆破した疑いのある武装した男が同軍の兵士らによって殺害されたと発表した。イスラエル人1人が負傷したこの事件は国民を不安にさせた。当局は、この男はヒズボラあるいは直接イランによって派遣されてレバノンから侵入した可能性があると見ている。
この事件の数日後、パレスチナ過激派組織「イスラム聖戦」の司令官がダマスカス近郊の自宅アパートの外で射殺された。同組織は、この暗殺はイスラエルの工作員によるものだとしている。
ネタニヤフ首相は3月28日、ギリシャがイスラエルの情報機関モサドの支援を受けて、アテネの少なくとも1ヶ所のユダヤ人関連施設を狙ったテロ攻撃を阻止したと発表した。ギリシャ当局によると、パキスタン系とみられる2人の男がユダヤ人関連施設への攻撃を計画したとして逮捕された。
イスラエルは3月31日、ダマスカス南郊で空爆を実施し、イラン革命防衛隊の軍事顧問2人を殺害した。その数時間後、イスラエル空軍はシリアからイスラエルに入ったドローンを撃墜したうえで、この発射の背後にはイランがいると主張した。
イラン専門家でテルアビブのシンクタンク「国家安全保障研究所」の上級研究員であるヨエル・グザンスキー氏は、イスラエルのここ数週間の軍事行動強化は、レバノンからの侵入とされた最近の事件に対する反応かもしれないと語った。
また、3月31日の攻撃の後のようにイランが将校や軍事顧問が殺害されたことを迅速に認めるのは異例のことだと指摘した。迅速に公表されたことは、「イランはイスラエルによる攻撃に対して報復あるいは反応する」というシグナルである可能性があり、国外のイスラエル人が標的にされるかもしれないという。
イランの支援を受けたある地域組織の関係者の一人(この問題についてメディアに話す権限を与えられていないという理由で匿名を希望)は、イスラエルが空爆を続ければイランとその同盟者は報復を行うと警告した。
イランの半公式通信社であるタスニム通信は、イランの軍事顧問2人の殺害は「間違いなく報復を呼ぶだろう」という革命防衛隊の声明を伝えた。
AP