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シリア難民問題を操る悪意ある声

シリア難民の強制送還に抗議する活動家たち。2023年4月28日、レバノンのトリポリ。(AFP)
シリア難民の強制送還に抗議する活動家たち。2023年4月28日、レバノンのトリポリ。(AFP)
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01 May 2023 08:05:23 GMT9
01 May 2023 08:05:23 GMT9

アラブ国家であるレバノンとシリアは、複雑でしばしば厄介な、相互依存、同盟、激しい対立の歴史を共有している。

シリア体制はかつてレバノンを占領し支配しようとしたが、現在レバノン国民の多くはシリアから全く異なる形で占領されているとの不満を抱いている。約150万人の難民という形でである。

しかし、そのような緊張はより深い真実を覆い隠している。シリア人とレバノン人はいずれも非常に苦しんでいるということ、そして政治的利益のために両国民を互いに争わせようと計算高く企んでいる者たちがいるということだ。難民問題が突如としてレバノンのニューストピックの筆頭に押し上げられたのは何故か、そして人々を分裂させるこの問題によってどのような国家的優先事項への注意が逸らされることが意図されているのかと問うのは不当なことではない。

シリア人を最終的に本国送還することは、全てのレバノン人が理屈としては支持している。経済崩壊に苦しむレバノンは、パレスチナやイラクなどからもかなりの数の難民を受け入れており、難民による巨大な負担に耐えることができないのだ。世界銀行によると、レバノンは食料価格のインフレ率が世界で最も高い国だ(食品消費者物価指数が年間261%上昇)。

しかし、ドルーズ派指導者のワリード・ジュンブラート氏は、帰還するシリア人の安全を誰が保証するのかという重要な疑問を提起したうえで、難民を屠殺場に送り返すわけにはいかないと警告した。アムネスティ・インターナショナルも同様に、「シリア政府から拷問や迫害を受ける危険に晒さることが懸念されるため、難民のシリアへの強制送還を直ちに停止する」ようレバノンに求めた。

難民問題が狂ったように政治化されつつある中、レバノンのソーシャルメディアは突如として反難民的なヘイトスピーチ、噂、罵りで溢れている。シーア派とキリスト教の指導者らは、大半がスンニ派である難民が長期間滞在していることの政治的帰結を懸念している。パレスチナ難民に関連した制御不能な緊張が1975~1990年のレバノン内戦の主な引き金になったことを思い出して、歴史が繰り返されることを心から恐れている人々もいる。

利己的な各宗派の政治家らは冷笑的に緊張を煽っている。ある閣僚は、「我々は自国の中で難民になってしまう」と挑発的に警鐘を鳴らした。別の人物は分別もなくこう宣言した。「軍事的占領であろうが民間人による占領であろうが結果は同じだ。それは『より大きなシリア』、そしてレバノンの主権喪失である。我々は間違いなく外国国民からの侵略を受けているのだ」

よく見聞きする筋書きの一つは、100家族のシリア人が強制送還されるたびに200人のシリア人がレバノンで生まれると警告するものだ。他にも、欧米がトルコやレバノンを弱体化させるために難民の帰還を妨害しているというお決まりの非難も蔓延している。

ごく一部のシリア人も、避難先のレバノンの人々を公然と非難することで緊張に拍車をかけている。また、世界各地の例に漏れず、大量の貧しい難民は犯罪の増加などの社会問題を引き起こしている。シリア難民世帯の90%が医療、サービス、雇用に最低限しかアクセスできないまま極度の貧困の中で暮らしていることを考えれば、これは驚くべきことではない。シリア難民の子供の3分の1以上は学校に入学することさえできていないのだ。

しかし、これを口実に全てのシリア人を非難するようなことはしない知性と自尊心を持とう。心に傷を受けたシリア難民たちは、拷問され、家族を殺害され、強姦され、化学兵器で攻撃され、国家によるテロの標的となったのだ。シリアに帰って同じ苦しみをさらに味わうことを躊躇する彼らを、わずかばかりの共感を持って許そうではないか。

シリア人とレバノン人は永遠に共存していくよう運命づけられている。この存続の危機の時に我々がアラブの同胞をいかに支えるかは、いつまでも記憶され、その関係を何世紀にもわたって形作っていくことになるだろう。

バリア・アラマディン

レバノン人もシリア人も、皆生き残ろうと必死なのだ。だから、現在の苦境に関して本当に責められるべき者たちの方にメディアの注目を向け直そうではないか。腐敗した政治諸派がレバノン経済を破壊し、考えられる全ての国家救済手段を妨害したのはシリア難民のせいではない。レバノンの無数の危機に対処するために大統領と政府を選出する試みが、ヒズボラとその仲間によっていつまでも阻止されているのもシリア難民のせいではないのだ。真犯人は誰だろうか。

ソーシャルメディア上のフィアモンガリング(危機を煽る噂による情報操作)は現実世界に影響を与える。難民に対する暴力のエスカレーションや、様々な地域からシリア人を追い出そうとする自警行為だ。そのような挑発の背後にある悪意の意図に、国民は意識的になるべきだ。

過去2年間、難民を強制送還するための協調的な取り組みがエスカレートしてきた。しかし、多くの難民には帰る所がない。彼らの家は産業規模で破壊されたうえ、広大な土地や都市部はアサド一味に与えられたからだ。レバノンで最も難民が集中している場所の一つであるアルサールには、国境をまたぐカラムーン地方を追われた人々が多く住んでいる。同地方ではヒズボラが農地を奪い、地域を私的な領地として支配しているのだ。

この問題に関するレバノンとシリアの閣僚間の協調の度合いから伺い知れるのは、間違いなく忠実な人口集団であろうと、軍あるいは拷問部屋に直接送り込むことができる人々であろうと、アサド大統領は誰を帰還させるかを選ぶことができるだろうということだ。2月の地震の後、援助機関がシリアの被災地にたどり着くまでに数日かかった。体制が国境管理を悪用してアクセスを妨害し、地震被災者のための物資から不正に利益を得たためだ。

アサド大統領を再び受け入れようという風潮が高まりつつある。その人道に対する罪を過去のものとして扱うことで、同大統領が自分の残虐行為は正当化されたのだと思うことを許そうとしているのだ。アラブ諸国の外交官らはアサド大統領に対しイランから距離を取るよう要求したが、イランは過去12年間にわたって味方であり続けてきた唯一の地域同盟国だとの素っ気ない返事が返ってきただけだった。結果として、シリア内戦に終止符を打とうと必死な地域諸国が、見返りに何も得ることなく国交正常化を申し出ることになるリスクがある。アラブ世界と国際社会はシリア難民問題を解決したいのであれば、市民の権利と安全を保証する永久的な解決策を仲介するためにより熱心に取り組まなければならない。

「友人は選べるが家族は選べない」と言われる。シリア人とレバノン人は永遠に共存していくよう運命づけられている。この存続の危機の時に我々がアラブの同胞をいかに支えるかは、いつまでも記憶され、その関係を何世紀にもわたって形作っていくことになるだろう。ヒズボラがイスラエルを刺激して極めて不釣り合いな報復を行わせようと精力的に動いていることを考えれば、明日にはレバノン難民がシリアに押し寄せることになるかもしれない。因果は巡るのだ。

だから、我々が持ち合わせている寛容と共感をもう少し深く掘り出して、悪意ある声が我々を互いに争わせることを拒否しようではないか。

  • バリア・アラマディン氏は受賞歴のあるジャーナリストで、中東およびイギリスのニュースキャスターである。『メディア・サービス・シンジケート』の編集者であり、多くの国家元首のインタビューを行ってきた。
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