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シリア再建は地域に大きな利益をもたらす

国際社会がシリアの再建に注力することで、間接的にシリア難民問題の解決にもつながるだろう(ファイル/AFP)
国際社会がシリアの再建に注力することで、間接的にシリア難民問題の解決にもつながるだろう(ファイル/AFP)
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12 May 2023 12:05:00 GMT9
12 May 2023 12:05:00 GMT9

国内紛争の長期化は、その国のインフラ、経済、安全、国民の生活水準に壊滅的な影響を与える。紛争が終結しても、その国や経済、インフラを再建するのに長い年月がかかる。その一例が、今もなお現代最悪の人道危機に見舞われているシリアである。

2月に発生した地震により、シリアでは推定51億ドルの被害が発生、12年以上にわたる内戦による状況をさらに悪化させた。ユニセフによると、地震による被害以前から「経済危機の悪化、局地的な敵対行為の継続、大量の避難民、荒廃した公共インフラ 」により、シリアの人口の3分の2以上が人道支援を必要としているという。

ユニセフは先月、「現在、シリアは壊滅的な地震と余震による深刻な人的/物的被害にも直面しており、人々は食料、水、シェルター、緊急医療、心理社会的支援を緊急に必要としている状況です。約90%の家庭が貧困状態にあり、50%以上が食糧難に陥っています。経済危機は、消極的対処メカニズムを悪化させ、特に女性が家長である世帯に影響を与え、同時にジェンダーに基づく暴力や子どもの搾取の常態化を助長します。」と発表。

シリアの復興費用は最大1兆円と試算されている。紛争の長期化は、同国のインフラや経済に大きなダメージを与え、極めて深刻な影響をもたらした。また、複数の闘争が多発的に発生したことで、紛争が長期化した。多くの反政府勢力が、政府に対してのみならず、互いに対立し、他国の代理勢力や 民兵組織も内戦に参加するようになった。一方、アメリカなどの欧米諸国とロシアや中国との間では、解決に向けた世界的な膠着状態が続いている。また、紛争中にはさまざまな場面で、ダーイシュなどの世界的なテロ集団が脚光を浴びるようになった。

紛争の長期化は、同国のインフラや経済に大きなダメージを与え、極めて深刻な影響をもたらした。

マジッド・ラフィザデー博士

しかし、10年以上の混乱期を経た今、複数の理由から、国際社会がシリアの再建に役立つ施策に焦点を当てることが重要となっている。

まず重要なのは、一国の経済がこれほど大きな影響を受けた場合、その地域の他の国にも悪影響が及ぶということである。2020年の世界銀行の報告書にある通り、シリアの紛争は「同国の隣国であるマシュリク地域に経済的、社会的に大きな負担を強いている」のだ。2011年以降、年間国内総生産の平均成長率は、シリア紛争の影響のみにより、実質ベースでイラクで1.2ポイント、ヨルダンで1.6ポイント、レバノンで1.7ポイント低下した。この減少幅は、3カ国合計で紛争前(2010年)のGDPの11.3%に相当する。」

さらに、「その影響は複数のチャネルを通じて伝播した。シリアを経由する中継貿易が減少し、観光などのサービス輸出が停滞する中、貿易ショックがGDPに及ぼした限界効果は、ヨルダンでマイナス3.1ポイント、レバノンでマイナス2.9ポイントに達した。」と付け加えている。

言い換えれば、シリアの再建復興に向けた動きは、シリア国民の生活水準を向上させ、国全体に広がる貧困に対処するだけでなく、近隣諸国、特にイラク、レバノン、ヨルダンの経済的展望を改善するための支援となるだろう。

第二に、シリアに向けられた資金援助や融資が、結局はシリアの復興に活用されないのではないかという懸念もあるだろう。しかし、世界の金融機関が状況を監視し、民間部門と協力することで、この問題は解決できる。シリアの民間部門の拡大を支援することも重要な一歩となるだろう。

紛争が勃発する前、世界銀行グループはシリアに対し、「民間部門の開発、人材開発、社会保護、環境のサステナビリティに関する技術支援や アドバイザー業務を通じた支援を提供した。2011年の紛争勃発後、世界銀行によるシリアへの支援活動やミッションはすべて停止されたものの、世界銀行は、国際社会のさまざまなメンバーと協議しながら、紛争がシリアの人々や経済に与える影響を見守ってきた。これは、経済的・社会的な観点からシリアに関する国際的な見解を伝え、合意後の復興作業が必要となった場合にその準備に役立てることができる。」

第三に、貧困や紛争にあえぐ国家は、テロや民兵組織が成長し、勢力を拡大し、国や地域に損害を与えるのにうってつけの場所であるため、シリアを再建することは、同国の安全保障を促進することにつながると言える。

国際社会がシリアの再建に注力することで、シリア難民問題の解決にもつながるだろう

マジッド・ラフィザデー博士

最後に、国際社会がシリアの再建に注力することで、間接的にシリア難民問題の解決にもつながるだろう。12年以上の紛争状態が続いたシリアは、依然として世界最大の難民問題を抱えている。国連難民高等弁務官事務所は3月に、「1400万人以上のシリア人が安全を求めて故郷を追われた。680万人以上のシリア人が自国内で避難生活を続けており、人口の70%が人道支援を必要とし、人口の90%が貧困ライン以下で生活している。」と報告している。

この問題の解決に協力することにより、レバノン、トルコ、ヨルダン、エジプト、イラクなどの国々にも極めて大きな効果が期待できる。国連難民機関によると、「シリアに隣接する5カ国に約550万人のシリア難民が住んでおり、ドイツは85万人以上のシリア難民を抱える最大の非隣接受け入れ国である。」

つまり、国際社会は、深刻な貧困と人道的危機、経済と治安の悪化に対処するために、シリアのインフラ再建を支援する施策に注力するべきなのである。それが周辺国の経済や安全保障にも良い影響を与え、この不安定な地域の安定につながるだろう。

  • マジッド・ラフィザデー博士は、ハーバード大学で教育を受けたイラン系アメリカ人の政治学者である。Twitter: @Dr_Rafizadeh
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