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イスラエル・パレスチナ紛争:交渉失敗の75年史

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17 May 2023 12:05:52 GMT9
17 May 2023 12:05:52 GMT9

何故、これほどの長い年月、何十年間も、ここまで多くの苦しみを経ても、国際社会はイスラエル・パレスチナ紛争を解決できないのだろうか? これは、パレスチナ人たちが大惨事を意味する「ナクバ」の75周年という悲惨極まる記念日を迎えるにあたって、もっともな問いだ。この問いは、アラブニュース/YouGov世論調査の結果にも反映されている。この調査結果では、現状に対する悲観的な見方、国際社会への幻滅、二国家解決の可能性についての絶望感が強調されている。

この75年間をパレスチナ人たちが振り返る時、その思いは一層強くなる。パレスチナ国民にとってナクバとは、現在進行中の事象であり、今日なおパレスチナ国民を苦しめ続けている過程であり、イスラエルによる抑圧と剥奪を意味している。

それでは、何故平和はこれほど得難いものなのだろうか? イスラエル・パレスチナ紛争に対する国際的な注目が衰えたことはほとんど無い。国連安保理は、他のいかなる問題よりもイスラエル・パレスチナ紛争について議論を重ね、数十の決議案を可決してきた。そもそも、1947年の分割決議案は国連総会において選択されたのだ。

1967年以降、ほぼ全ての米国大統領が、何らかの和平案かその類を後押ししてきた。欧州諸国も何らかの役割を果たそうとしてきた。ノルウェーの場合は、政府関係者がオスロやその周辺で両国の仲介の労を取るところまで漕ぎ着けさえした。これほど関心を集めた紛争は世界を見まわしても他には無い。他の長引く戦争に巻き込まれてしまった不幸な人々は嫉妬の念を抱いているに違いない。

そう、注目の量では決してなく、注目の質が問題だったのだ。長い年月が有ったにせよ、それに見合った切実な政治的意志が、紛争当事者間以外に存在したことはほとんど無かったのである。

関係諸国がパレスチナ情勢を理解したことなど最初から無かった。そして、もっと悪いことに、気にすらしなかったこともあったのだ。1917年のバルフォア宣言の起草者たちは、パレスチナを訪れたことも無ければ、その成り立ちを理解したことも無かった。多くの政治家たちは、大抵の場合、現地の現実には目を向けず、聖書を参考書代わりにしていたのだ。

「民なき土地に土地なき民を」や「ゴリアテのようなアラブに立ち向かうダビデのようなイスラエル」、「砂漠に花を咲かせるイスラエルの技能」といったシオン主義的な神話が、あまりにも容易に鵜吞みにされてしまった。私は、この30年間に数十人の英国の政治家たちをパレスチナに案内してきたが、彼らが自らの想像とかけ離れた現実を目の当りにしてショックを受ける様子には毎度驚かされる。

第二に、関係諸国の政府関係者は良くても無知、悪ければ酷い偏見にまみれている。アーサー・バルフォア自身は反ユダヤ主義的だった。ロイド・ジョージは根本的に反イスラムだった。最初から植民地主義的なメンタリティーのせいで、尊重されなければならない権利を持った人々としてパレスチナ国民が扱われることなど無かったのだ。同様の状況は、今日でも、数多くの領域で根強く残っている。

ヨーロッパの政府首脳の数多くは、パレスチナにおいてユダヤ主義者の要求に応じることで、アラブ系パレスチナ人たちの被る影響などお構いなく、ヨーロッパでのユダヤ人に対する酷い仕打ちにより生じる良心の呵責から逃れようとした。ドイツはその好例だ。イスラエルの指導者たちは、ドイツの歴代指導者たちにナチス体制下での出来事への歴史的な罪悪感を思い出させ続けている。

第三に、シオニスト運動とイスラエルの指導者たちは、大国に狙いを定めた働きかけにおいて大きな成果を上げている。そうした働きかけの対象は、オスマン帝国に始まり、英国、そして自然と米国へと移った。パレスチナの指導者たちは、そうした方面の人脈はあまり無く、世界各国の首脳たちを説得する事も得意ではなかった。米国におけるイスラエルの効果的なロビー活動は特に1967年以降に実を結び、米国はイスラエルを中東地域における当然の同盟国と見做すに至った。

現在では、米国の政治家を志望する誰もが、イスラエルのロビー団体であるAIPACについて語り、日常的にこの団体への全面的な支持を表明する。

手短に言えば、イスラエルは常に善意ある関係者として理解されるという恩恵に浴してきたのだ。それが全く事実と異なる場合においてもである。トランプ大統領の政権下では、イスラエルの政権首脳部はほぼ何であれ可能で、入植地の拡大も思いのままだった。そこまで寛容では無い大統領の政権下では、イスラエル首脳部は控え目に振舞う必要が時折あったがそれ以上の遠慮は無用だった。米国は、まずイスラエル首脳部に話を通さずに、パレスチナ側に何かを提案することは決して無いようにしていたのだ。

その結果、これまでも現在も、米国は公平な仲介者ではない。アラブニュース/YouGov世論調査の結果では59% に及ぶ多数のパレスチナ国民が仲介者としての米国を信頼してないことが明らかとなったが、これは全く意外ではない。この数値がもっと高くないことがむしろ意外なのである。現在では、パレスチナ国民は、ロシアや中国を初めとする他の大国に仲介者としての役割をより強く期待している。

イスラエルの首脳部は、パレスチナ国民に真摯な申し出をした事も無ければ、パレスチナ国民に対して行った過ちを認めた事も無い。パレスチナの指導者たちは、国外の友好的な勢力どころか自国民とも疎遠になってしまった。

クリス・ドイル

第四に、パレスチナ国民の支持者たちは頻繁に分裂を繰り返してきた。イスラエルが大国の支持を得ている一方で、アラブ諸国やその他の国々はあまりにも簡単に分裂させられ、別々の方向へと向かってしまうことが多かった。イランを初めとするいくつかの国家は、パレスチナ問題の解決を図るのではなく、むしろ自国の利益のために利用しようとしている。

アラブの結束のピークは、2003年のアラブ和平イニシアチブ だった。この和平提案は、完全和平と引き換えに占領地からのイスラエルの完全撤退を求めるものだった。しかし、悲しいことに、この提案は、十分に強く十分に効果を発揮するほど推されなかった。今回の世論調査は、こうした分裂を目立たせたに過ぎないのだ。パレスチナ国民は、将来の選択肢についてまるで確信が持てないでいる。これが、国家としてのパレスチナの厳しい状況を反映しているのだ。二国家解決に賛成しているのは51%に過ぎず、圧倒的な支持を得ているとは言い難い。

第五に、この紛争の全くの非対称性である。イスラエルとパレスチナの関係性は、不均衡で一方的なものだ。1948年の時点でさえ、攻撃側のアラブ軍に対して、イスラエルはより強力な立場を占めていた。1967年には、イスラエルは6日間でアラブ軍を撃ち破っている。イスラエルは核保有国だ。

数十年間にわたって、イスラエルは、軍事的、経済的、外交的に地域の超強国であり続けている。そのイスラエルと対峙するパレスチナ人たちの大部分は、仕方なく国外に待避しているか、占領下か封鎖下に置かれているのである。パレスチナ国民にとってイスラエルとの闘争は、おそらくたった1つの方法以外では不可能である。それは法的な闘争だ。しかし、そうした闘いを行うのにさえ、パレスチナ人たちの前には外交的な障害が立ちはだかっているのだ。イスラエルの領土に関する要求は増々強くなり、同国の拒否主義は強固になる一方である。

第六に、国際社会は、イスラエルに対しては、自国の法律や決議を執行する取り組みを停止してしまっている。国連安保理や国連総会の決議、ジュネーブ第4条約、種々の人権条約へのイスラエルによる常習的な侵害は、国際社会の声明を、懸念から用心深い非難へと変化させるに過ぎない。

イスラエルの56年に及ぶ占領が合法か否かについて、国連総会が国際司法裁判所に法的見解を求めた時でさえ、米国や英国を初めとする主要国は反対票を投じた。自分たちは国際法の枠外で策動出来るということを知っているのならば、イスラエルの首脳部が真摯な提案を用意して和平交渉の席に着く理由は無い。

国際社会の何れの失敗も、紛争当事者たち自身の不履行や怠慢の罪を減じることはない。イスラエルの首脳部は、パレスチナ国民に真摯な申し出をした事も無ければ、パレスチナ国民に対して行った過ちを認めた事も無い。

パレスチナの指導者たちは、国外の友好的な勢力どころか自国民とも疎遠になってしまった。パレスチナ側は明確で現実的な戦略を大抵の場合欠いていた。ファタハとハマスの分裂は破滅的だった。

民間人に対して意図的に暴力を行使した人々は、いずれの側に属していようとも、和平の機会を後退させただけである。ヨルダン川西岸地区のパレスチナ人たちの半数以上が自らの指導者たちを信頼していないことを、この意識調査が示したことは不可解だろうか? 44%もの人々がファタハもハマスも自分たちの代弁者ではないと言っている。これは熟考してみる材料に他ならない。

現在の最悪な状況から脱却し前進するためには、国際社会が再び関与せざるを得ない。ただし、これまでとは異なる考え方に基づいた関与が必要とされている。米国は、仲介役の独占を放棄し、他の関係国や組織に十分大きな発言権を提供し、創造的な解決策に至る余地を開くべきだ。和平プロセスは、イスラエルによる占領の終結や難民問題の公正な解決、イスラエル人のみの優遇ではなく両国民の権利を尊重する解決策といった事項を必ず含む基本原則に基づいていなければならない。

  • クリス・ドイル氏はロンドンに拠点を置くアラブ・英国理解協議会(CAABU)のディレクターである。彼は、エクセター大学アラブ・イスラム研究を最優等で卒業後、1993年から、同協議会に勤務している。彼は、アラブ諸国への英国議会代表団を多数回企画し、随行している。Twitter: @Doylech
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