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サウジアラビアは社会の高齢化にいかに対応し得るか

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22 Jul 2023 01:07:08 GMT9
22 Jul 2023 01:07:08 GMT9

昨年、一編の報告書が発表された。この報告書は、サウジアラビアの人口動態が高齢化の初期段階にあることに警鐘を鳴らし、また、その社会的、経済的影響についても考察していた。

現在のところ、サウジアラビアはその人口の63%が30歳未満であることを誇りとしている。しかし、10年後には、変化は目に見えたものとなり、40、50、60歳を越えた人々の割合が高くなる。若年人口はサウジアラビアにとっての資産であり、生産性と経済成長の原動力である。とはいえ、それは、専門性や知識を有するより高い年齢層の人々が労働力において重要ではないということではない。つまり、私たちは、一方においては若い人口層の溢れる活気を活用することが必要であり、他方においては中高年や経験豊富な熟年、さらには引退した老年といった人口層をも活かすことが必要なのだ。これは、サウジアアラビアの発展のために、全国民のニーズに応え得る、多様で包括的な労働力と地域社会を形成するためなのである。

経営コンサルタント企業のストラテジック・ギアズによる報告書には、サウジアラビアの人口動態の変化と他のG20諸国における変化の過程についての調査結果が示されている。これは、サウジアラビアの状況を前提として、特に経済や労働市場、医療・福祉、住宅・インフラ、社会などにおいて、高齢化が国家や政策課題に与え得る潜在的、長期的影響に着目した報告書である。

世界的には総人口と高齢者の割合の両方が増加しており、その中には増加の程度が他よりも顕著な国々もある。サウジアラビアは、これまで、他の多くの国々に比べて、高齢化の進捗がはるかに遅かったが、G20諸国の中では出生率が最も低下している国々の1つである。これはつまり若年層の割合が減少していることを意味している。さらには、サウジアラビアの平均寿命は、1960年代以来、46歳から75歳へと2倍近い増加となり、2050年には83歳に達すると考えられている。

最近数十年間、サウジアラビアの社会的、経済的発展や公衆衛生や医療の進歩が平均寿命の延伸に寄与してきた。サウジアラビアにおける出生率の低下は、特に女性の教育水準の向上や労働への女性の参加の増加、生活費の上昇といった要因が晩婚化や晩産化、小家族化を通じて、人生目標の優先順位や社会通念の変化に繋がった結果である。

ストラテジック・ギアズの報告書は、サウジアラビアについては、高齢者人口への対応と潜在的な社会的、経済的影響を緩和するのに必要な対策の両方をすぐに開始するよう政策立案者に提言している。サウジアラビアの65歳以上の人口の全体に対する比率は他のG20諸国に比べて現在では最も低い(3.6%)ものの、2050年には人口の約20%を占めるようになると推定されている。これは、2022年の人口調査で人口の52.75%を占める25歳から54歳までの年齢層が、最大の年齢層であることからも明白である。

高齢者の増加は、労働者の減少と労働力の成長の鈍化に繋がり、人的資本に直接的な影響を与えることになる

マハ・アキール

ビジョン2030は、平均寿命を2030年までに80歳に延ばすことを目標に掲げ、その実現のために、より健康的な生活やライフスタイルといった生活の質に焦点を置いた、サウジアラビアの進路となる戦略や活動の大筋を示している。サウジアラビアは、出生率の低下への対応として、増加するワーキングマザーがワークライフバランスを保てるよう、育児支援や託児所、有給産休などによる支援を行うプログラムを開始した。

人口の高齢化の潜在的、長期的な影響を認識することが重要である。ストラテジック・ギアズによる報告書は、高齢者の増加が労働者の減少と労働力の成長の鈍化に繋がり人的資本に直接的な影響を与えることを強調している。これはヨーロッパ諸国が既に苦闘中の問題である。そして、ヨーロッパ諸国は移民によって労働力を補填しようとしている。

生産年齢人口の減少は一人当たり国内総生産の潜在成長率を圧迫する。その一方、定年退職年齢が不変で平均寿命が延びた場合、年金給付の申請者が増加し、年金と医療への公的支出が増加する。

しかし、高齢者人口の増加は、特に医療テクノロジー部門、また、交通、住宅、娯楽の領域で、満たされたていないニーズを満たす新たなマーケットの創出や起業の可能性に繋がる可能性を孕んでいる。現在の高齢者向け医療サービス、さらにはそうしたサービスや住宅、社会活動、スポーツ関連のアクセス可能性、年金生活者にも無理のない料金の高齢者向けコミュニティの利用可能性については、多くの課題が残されている。

労働市場については、ストラテジック・ギアズの報告書は、G20諸国の一部が行っている、柔軟な退職制度や年金のインセンティブを有する雇用制度を初めとする、60歳以上の人口層に対する政策の調整と適応に関する取り組みを紹介している。サウジアラビア人の多くは、残念ながら、定年退職後の生活から充実感を得ることが出来ないでいる。彼らは、仕事やボランティアをしたり、活動的に過ごすことがまだ出来るにも関わわらず、(成長した子供が独立したり、完全に転居してしまったりした)家庭においても、あるいは社会的にも、ショッピングモールの中を歩き回ったりカフェで社交に勤しむ以外にすることが無く、空虚感に襲われているのである。全年齢を対象とし、家族での加入が可能で、適切な活動とサービスを低料金で提供している社交クラブは存在しない。サウジアラビアの成人の多くに見られる着座時間が長い生活様式や不健康な食生活に対しても、慢性疾患や障害を予防するために、何らかの対応が必要とされている。

社会における高齢者とは、私たちの父母や祖父母世代の人々である。彼らは、自身の国家のために尽くしてきた名誉ある立派な市民たちであり、きちんとした、敬意のこもった、安全で安心な生活水準と思いやりのある環境を得ることが相応しい人々なのだ。貧困と戦い、不平等を緩和し、高齢者の社会参加を促進するための福祉制度や社会保護プログラムに加えて、ホームヘルプ施設や訪問看護、家事支援、高齢者クラブ、近隣支援体制、移動診療所や栄養相談といったインフォーマルケアの仕組みの提供を目的とした取り組みや計画をさらに多く起ち上げるべきである。

マハ・アキール氏はサウジアラビアのコミュニケーション、社会開発、国際関係の専門家。国連のシニア女性人材パイプラインのメンバー。

Twitter: @MahaAkeel1

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