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今こそ世界が次の疾病パンデミックに備えるべき理由

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12 Aug 2023 05:08:28 GMT9

苦難、危機、不運、過ちといった要素は、最も貴重な見識をもたらすことが多い。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)は、その典型例だ。

ありとあらゆる苦難をもたらした新型コロナウイルスだが、今後発生しうる公衆衛生の危機に備えて各国が集団として、個人として踏まえておくべきステップを強調することにもなった。今回のパンデミックが過去のものになりつつありそうな今、世界中の政治的リーダーたちがこの教訓を真摯に受け止めるか否かを問いたいところだ。

この問いは些細なものではない。この数十年間、疾病の大流行によって為政者らがパニックを起こし事態を軽視するという流れが繰り返されてきた。だが、COVID-19がもたらした人、経済、社会の破壊を踏まえれば、私たちはこのパターンを打ち破ることができるし、打ち破らなければならない。

COVID-19によって私たちが学んだことがあるとすれば、それは気候変動、人間による野生生物の生息地の侵害、人口増加、都市化、低コストでの旅行といった要素により、私たちが近い将来さらなる破壊的なパンデミックに直面する可能性が高まっているということだ。2021年のある研究によると、毎年極端な伝染病が発生する確率は今後数十年間で最大3倍になることが明らかになった。この迫りくる脅威を軽減するために今決定的な行動を取らないのは、非常に無謀なことである。

2021年のある研究によると、毎年極端な伝染病が発生する確率は今後数十年間で最大3倍になることが明らかになった。 今決定的な行動を取らないのは、非常に無謀なことである。

ジョゼ・マヌエル・バローゾ

COVID-19がもたらしたもう一つの重要な教訓は、危機に対して素早く効果的に対処しつつ、同時に現行の医療ニーズにも対応できる能力を備えた強固な医療システムをあらゆる国が確保しなければならないということだ。今回のパンデミックではリソースの豊富な国でさえこの複雑なバランスを取ることに苦労し、結果的に数百万人の死者を出し、深刻な経済的損失を被った。

世界各国の政府は市民に対し、疾病監視、伝染病対応能力、一次医療サービス、医療従事者のトレーニングといった分野への大規模かつ持続的な投資を行う義務を負っている。こうした投資は経済的に豊かな国だけでなく、自国だけではそういった投資を行うことができない低所得国にも必要だ。

こうしたあらゆる要素は、豊かな国が重要な支援を行うことが必須であるということを強調するものだ。今回のパンデミックを通して、そういった国の政府はこの致命的な病原体にとって国境は関係ないことを認識し、「皆が安全になるまで誰もが安全ではない」というスローガンを繰り返した。だが、この高尚なレトリックにもかかわらず、低所得国は診断、ワクチン、治療、その他重要なサプライにおいて後回しにされることになった。Gaviワクチンアライアンス(私はその理事を務めている)も、2020年に設立したCOVAXファシリティがワクチンの囲い込みや輸出禁止を乗り越え、特に必要性の高い国々に大量のワクチンを出荷し始められるようになるまで数カ月待たなければならなかった。

ワクチンやその他重要な治療介入への公平なアクセスが実現可能な目標であるというのは朗報だ。次のパンデミックに備え、経済力にかかわらずすべての国が危機に対応するためのリソースを確保しておくために、各国政府が実行可能な措置がいくつかある。

COVID-19がニュースのヘッドラインを独占するようなことはなくなったが、私たちは公平なワクチンへのアクセスを確保し、パンデミック以前の無頓着な状況に逆戻りしないための政治的意思を維持することが不可欠である

ジョゼ・マヌエル・バローゾ

まずは、危機の最中に資金集めを行うのではなく、確実な資金供給が可能な革新的融資ツールを前もって準備し、すぐに展開できるようにしておくことだ。さらに、今回のCOVID-19危機は、世界のワクチン製造シェアの大半がグローバル・ノース に集中していることが、公平なアクセスを大きく妨げうることを明らかにした。そのことを念頭に、アフリカ連合委員会(AUC)とGaviは、アフリカ各地で数十カ所にワクチン製造施設を設置する取り組みを合同で行っている。この製造ネットワークは潜在的な供給のボトルネックを最小限に抑え、コレラをはじめとして現在の製造状況では需要が満たされていない疾病用の重要なワクチンの可用性を高めることができるはずだ。

世界保健機関(WHO)の加盟国で現在話し合いが行われているパンデミック協定をはじめとするイニシアチブは、パンデミックの防止と対応における公平性と有効性拡大の促進を保証するものだ。詳細に関する交渉は現在進行中であり、おそらくは2024年の世界保健総会の投票で合意に至るまで続くと見られるが、各国政府はこのプロセスに参加することで恩恵を受けることができるはずであり、承認された際には協定の順守に努めるべきである。

COVID-19がニュースのヘッドラインを独占するようなことはなくなったが、私たちは公平なワクチンへのアクセスを確保し、パンデミック以前の無頓着な状況に逆戻りしないための政治的意思を維持することが不可欠である。今の政治的リーダーたちは、より包摂的な世界秩序を培うという歴史的な可能性を手にしており、次の公衆衛生の危機が起きる前に大胆に行動する責任がある。それができなければ、私たちは皆、この3年間のトラウマを再び体験させられることになるだろう。

  • ジョゼ・マヌエル・バローゾ氏はGaviワクチンアライアンス理事、元欧州委員会委員長、元ポルトガル首相。© Project Syndicate 2023
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