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アラブの若者の絶望は各国政府に大きな課題を突きつけている

多くの若者が、海外で高等教育を受けたり、より良い雇用機会を確保したりする手段として合法的な移住を選択している。(AFP通信)
多くの若者が、海外で高等教育を受けたり、より良い雇用機会を確保したりする手段として合法的な移住を選択している。(AFP通信)
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16 Aug 2023 01:08:54 GMT9
16 Aug 2023 01:08:54 GMT9

レバント地域と北アフリカでは、アラブの若者が絶望状態にある。これは潜在的に危険な現象であり、近い将来、彼らの母国にとって最も差し迫った課題となる可能性がある。

通信機関のASDA’A BCWが最近実施した「アラブの若者調査」によると、これら2つの地域ではアラブの若者の半数以上が、より良い機会を求めて積極的に国を出ようとしているか、出国を検討中であると答えている。移住願望が最も強いのはレバントの若い男女で、その割合は53%、続いて北アフリカの48%となっている。

過去6年以上の間に実施されてきた調査の中で、このように厳しい結果が出たのは今回が初めてではない。同機関が2020年に実施した世論調査によると、アラブ人若年層のほぼ半数が出国を考えたことがあり、レバントではその割合が63%に上った。BBCアラビック放送局の2019年の調査では、アラブ世界の多くの地域で若者の半数以上が母国を離れたいと考えていることが分かった。これは、湾岸協力理事会(GCC)諸国の若者の回答とは対照的である。GCC諸国では、移住を検討したことがあると回答したのはわずか4分の1強の若者で、ほとんどが「自国を離れることは決してない」と述べている。

若者の平均失業率が25%前後と世界で最も高い数値で推移している中東・北アフリカ(MENA)地域では、25歳未満の男女が人口の約60%を占めていることに注目しなければならない。移住の主な動機は職探しである。だが、紛争による政治的混乱や高騰する生活費、経済停滞といった他の理由もある。

MENA地域は、「アラブの春」がもたらした政治的、社会的、経済的混乱を始めとして、その後のダーイシュによる荒廃、新型コロナウイルスを理由とした封鎖措置の経済的影響など、一連の課題に悩まされている。ほとんどの国は未だ経済的に回復しておらず、目標は達成できないままである。気候変動などの外的条件だけでなく、不十分な統率力、蔓延する汚職、広がる経済的失敗に阻まれているのだ。これらは明確なプッシュ要因である。

「アラブの若者調査」によると、アラブ人若年層の77%が自国で汚職が横行していると答え、72%が就職が難しくなったと感じていると答えた。就職が難しいと答えた若者の数が最も多かったのは、レバノン(91%)とヨルダン(90%)だった。

レバントと北アフリカの多くの若者は、海外で高等教育を受けたり、より良い雇用機会を確保したりする手段として合法的な移住を選択している

オサマ・アル・シャリフ

レバントや北アフリカの国々で、違法および合法的な移住率が急増しているのも不思議ではない。合法的な移住先として最も人気があるのは米国、カナダ、オーストラリア、英国、ニュージーランドだ。また、北アフリカ諸国は伝統的に、主に西アフリカとサハラ以南のアフリカからヨーロッパを目指す不法移民の通過国である。しかし現在では、より良い暮らしを求め、地中海を渡る危険な旅を厭わない北アフリカ人が増加している。

これらの若いアラブ人たちは、人身売買、搾取、危険な海上横断などのリスクに直面している。当局に捕らえられた場合、逮捕や本国送還のリスクもある。レバントと北アフリカの多くの若者は、海外で高等教育を受けたり、より良い雇用機会を確保したりする手段として合法的な移住を選択している。人口減少と労働力不足に向き合っているイタリアとドイツは、MENA地域の若く技能を持つアラブ人に対し、毎年何千件もの就労ビザを発行するようになっている。

専門家の中には、送金流入の増加など、移民には経済的価値があると考える者もいる。しかしこの傾向は、結果として「頭脳流出」と熟練した労働力の喪失を招くものである。それが移民の出身国の経済成長と発展を妨げ、悪影響を生じる可能性がある。

より重要なのは、移住を望みながらも実現できない人々が不満と怒りを募らせ、自国で大規模な抗議行動を引き起こすかもしれないいう事実である。若者の失業は、政治指導者が直面しうる中で最も深刻な課題である。「アラブの春」の教訓を決して忘れてはならない。

若者による移住の真の持続可能な価値は、若い移住者が異なる経済や文化、思想、機会に触れた後で、自国へ引き戻された場合にのみ実現できる。移住期間に得た経験とスキルは、新しいベンチャー企業の創出や雇用機会、知識の移転を通じて、地域経済にプラスの影響を与えることができる。これまでのところ、息子たちや娘たちに帰国を促すだけの、十分な誘因を作り出すことに成功した国は北アフリカにもレバントにもない。高い失業率と腐敗認識が残っている間は不可能な話である。

一部の国々では、事態はさらに悪化している可能性がある。国際移住機関(IOM)は昨年、22,000人近くのエジプト人移民が主に海路でヨーロッパに到着したと発表した。EU諸国で亡命を求めている国籍の上位にエジプトが含まれていなかった前年から、著しい増加である。

昨年の数値はエジプトをトップに押し上げた。アフガニスタンや戦争で荒廃したシリアを含む、他のすべての国々からの不法移民数を追い抜いたかたちだ。アラブの若者を移住に駆り立てる原因は明らかになっている。一方で、見つけなければならないのは、命を奪い、経済を消耗させている大損失を食い止める解決策である。

残念ながら、すぐに使える魔法のような方策はない。しかし回復への道筋は、調査を受けたアラブの若者たちから示唆されている。10人中8人(85%)以上が、自由、平等、人権尊重などの普遍的価値をアラブ諸国は守らなければならないと述べているのだ。この意見は、調査対象となった3つの地域すべてで大半のアラブ若年層(北アフリカでは91%、GCCとレバントではそれぞれ81%)に共通していた。

  • オサマ・アル・シャリフ氏はアンマンを拠点に活動するジャーナリスト兼政治評論家。X(元ツイッター):@plato010
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