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宇宙分野における国際協力は不可欠

イノベーションと競争の時代を力づける宇宙企業の活気ある風景がある。(File/AFP)
イノベーションと競争の時代を力づける宇宙企業の活気ある風景がある。(File/AFP)
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15 Sep 2023 07:09:07 GMT9
15 Sep 2023 07:09:07 GMT9

イーロン・マスク氏がSpaceXによって宇宙の様相を変えたことは間違いない。それがNASAやその他米国機関の新たなアプローチのおかげであることもまた疑いの余地はない。米国が宇宙計画等に民間の再利用可能ロケットを利用するという点において、SpaceXは先駆者である。端的に言えば、NASAは自前のロケットを使うのではなく、国際宇宙ステーション(ISS)への補給ミッションや軌道への衛星打ち上げをアウトソーシングする決断を下したのである。

この思い切った試みは伝統との決別を意味する。NASAは起業家たちがニーズを満たし、民間産業が足掛かりを得られるような形で彼らを引き込んだ。これはNASA、そして宇宙産業全体のビジネスのあり方に重大な影響を与えた。宇宙産業時代の幕を開いたのである。だからこそ現在、イノベーションと競争の時代に弾みをつける大西洋両岸の宇宙企業による活気ある風景が生まれているのである。

積載量の増大とコストの減少は、Starlinkのような新しいビジネスをも可能にした。SpaceXのStarlinkは衛星を利用してインターネットサービスを提供している。Starlinkのウェブサイトの説明を読めば、SpaceXも創業者のイーロン・マスク氏も明らかにウクライナ戦争に巻き込まれることを予測していなかったことがわかる。Starlinkのサイトでは、世界初、世界最大の衛星コンステレーションであると説明されている。Starlinkは地球の低軌道上から、ストリーミング、オンラインゲーム、ビデオ通話等が可能なブロードバンドインターネットを提供している。

ロシアとの戦争でインフラが破壊されたことにより、ウクライナにとってはインターネット接続と通信手段の維持においてStarlinkの端末が不可欠であることが証明された。さらにStarlinkは、ウクライナ軍の活動にも使用されている。昨年2月以来、SpaceXによって数千台のStarlink端末がウクライナに提供されてきた。先週、昨年9月にウクライナ軍がクリミアのロシア軍に奇襲攻撃を仕掛けた際に、マスク氏が一時的にStarlinkのサービスを遮断したという申し立てがあった。これに対しマスク氏はX(元Twitter)にて、SpaceXはそもそもどこか特定の場所で起動されたということがないので、「何も遮断していない」と述べた。さらに具体的な説明として、マスク氏は次のように述べている。「政府当局からStarlinkの稼働範囲をセバストポリまで広げるよう政府当局から緊急要請がありました」、さらにマスク氏は次のように続けた。「もし私が彼らの要請に同意していたら、SpaceXが重大な戦争行為および戦争の拡大に明確に加担することになっていたでしょう」

イノベーションと競争の時代を力づける宇宙企業の活気ある風景がある

ハーリド・アブー・ザフル

この状況は、商用および民間の宇宙企業、さらには電気通信企業のテクノロジーがいかにして軍民両用の機能を持ちうるかを示している。つまり、このテクノロジーを保有している国には明確な優位性がもたらされるため、繊細な問題がつきまとうというわけだ。またこのことは、今の新たな時代において、民間企業が過去には存在しなかった国家レベルでの大規模な決断を迫られるようになっていることも示している。これは情報あるいはデマの拡散といったことに関して、大手ソーシャルメディアプラットフォームにも当てはまる。

さらに重要なのは、このことはあらゆる国が自国のインフラとサプライチェーンを守り、宇宙および衛星への独立したアクセスを維持できることの絶対的必要性を示しているという点だ。たとえば衛星やGPSの利用の重要性に目を向けた場合、こうしたアセットが攻撃を受ければ自動的に大半のアプリが機能しなくなり、金融システムにも影響を及ぼす。

これを独立性の問題とすると、現在欧州では打ち上げに使用するロケットがない。これは深刻な意味を持つ。米国の善意に依拠している地球衛星測位システム「ガリレオ」は、2024年以降も稼働を続けるのだろうか。欧州委員としてEUの宇宙政策責任者を務めるティエリー・ブルトン氏は、2024年のSpaceXの打ち上げか、2025年の「アリアン6」の打ち上げまで待つか、この秋に決断しなければならない。フランスのメディアはこれを、ブルトン氏がこれまで直面してきた中でも最も危険で複雑な問題のひとつだと評している。

商用および民間の宇宙企業、さらには電気通信企業のテクノロジーは軍民両用の機能を持ちうる

ハーリド・アブー・ザフル

ガリレオと「コペルニクス」の地球観測プログラムは、EUの旗艦宇宙政策だ。これらはより正確なナビゲーションと計時を可能にする重要なサービスを提供し、地球に関する貴重なデータをもたらしている。しかし欧州が宇宙へのアクセスを失えば、大陸全体が不安定な立場に置かれることになる。友好国にとっても、これはジレンマをもたらす。衛星は、情報活動や国家の防衛といった目的にも利用されている。つまり、これを他国に依存することは脆弱性をもたらす。だが、そうであるべきだろうか。

宇宙への打ち上げは非常に困難なタスクであり、協力国や友好国間での広範な協力があって然るべきだ。NASAは、活動モデルを変えてSpaceXが活動を始めるまで、2011年に自前の打ち上げを放棄して以来ロシアの「ソユーズ」ロケットに頼らざるを得なかったことを忘れてはならない。ウクライナ戦争をよそに、昨年NASAとロシア連邦宇宙局はISSへの飛行を一体化する悲願の協定に調印した。これによりロシアの宇宙飛行士が米国製の宇宙船で飛行し、同様に米国の宇宙飛行士がロシアのソユーズに搭乗することが可能になった。

アラビア語では、憎んでいるものでも、それが自分に合っていることがある、という言葉がある。あるいは、マスク氏の行動はウクライナの人々が考える以上に役立ったのかもしれない。そしてそれは、孤立や危険な意思決定を避けるという点で、国際協力にも当てはまるのではないか。宇宙という領域は、友人たちのパートナーシップと協力で語られるべきである。

  • ハーリド・アブー・ザフル氏は宇宙に注力する投資連合プラットフォームBarbican創業者。EurabiaMediaCEOAl-Watan Al-Arabi編集者。
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