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止まらないシリアからの麻薬密輸 ヨルダンはアサド政権への不満を表明

2023年9月19日。ニューヨークの国連本部で開催された第78回国連総会で演説するヨルダンのアブドッラー国王。(ファイル/AFP)
2023年9月19日。ニューヨークの国連本部で開催された第78回国連総会で演説するヨルダンのアブドッラー国王。(ファイル/AFP)
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05 Oct 2023 01:10:39 GMT9
05 Oct 2023 01:10:39 GMT9

ヨルダンと北の隣国、シリアとの繊細な和解プロセスが、突然止まってしまったようだ。先月ニューヨークで開催された中東グローバルサミットでヨルダンのアブドッラー国王は、シリアのバッシャール・アサド大統領が自国からヨルダンへの麻薬密輸を止められないことへの不満を表明した。同サミットでアブドッラー国王は、ヨルダンへの麻薬や武器の密輸という「大きな問題」に関して、アサド大統領が完全に掌握しているかどうかはわからないと述べた。

「我々は、大量の麻薬がヨルダンに流入するのを阻止するために、国境で毎日戦っている」と彼は述べた。「そしてこれは、政権内部の一部の人間、イラン人、その代理勢力を含むすべての関係者が不正に行っている大きな問題なのだ」

その数日後、ヨルダンのアイマン・アル・サファディ外相はCNNの引用で、シリアからヨルダンへの中毒性アンフェタミン「カプタゴン」の密輸は、5月にアサド大統領がアラブ連盟に復帰するきっかけとなった国交正常化交渉以降、増加の一途をたどっていると述べた。

2011年の反体制蜂起とそれに続く内戦の勃発でシリアのアラブ連盟加盟が停止された後、ヨルダンは同国との関係正常化に踏み切った最初のアラブ諸国だった。アブドッラー国王はバイデン政権に対し、2021年の「政権交代」ではなく「政権再建」を受け入れるよう説得し、アサド大統領がシリアの正当な指導者であることを強調した。米国は同政権に制裁を課しており、また2014年以来、シリア民主軍(SDF)との同盟を通じてシリア北東部でダーイシュと戦うために、数千人の兵士を派遣している。

アブドッラー国王は、国家安全保障に影響を与えかねないシリア危機による将来の脅威から自国を守るため、必要なあらゆる手段を講じると警告している。

オサマ・アル・シャリフ

何度かシリアの首都ダマスカスを訪れ、アサド大統領と会談しているアル・サファディ外相は、アラブ連盟におけるシリアの議席回復と引き換えに、シリア危機を終結させるためのアラブ的解決策を提案していた。また、UAEは今年初めにアサド大統領をアブダビに招待し、サウジアラビアは同大統領に、5月にジェッダで開催されたアラブ連盟首脳会議に出席するよう招待状を出した。

しかし、その効果はなかった。アサド大統領は自国の危機を終わらせるためのアラブ的解決策に関与する意志を示さず、これまでのところヨルダンへの麻薬密輸を抑制するための行動も起こしていない。その結果、他のアラブ諸国もヨルダンに同調し、シリアとの協議を中断しているようだ。

欧米の報告によれば、ヒズボラ、同政権、そしてイランが関与する複雑な麻薬製造・密輸ネットワークには、年間500億ドル以上の価値があるという。一部の麻薬はヨルダンの地元流通業者に届くが、より大量の麻薬は湾岸地域やそれ以外の地域に流通している。

シリアは麻薬国家と化しているが、こうした活動からもたらされる大きな利益は、軍部や親イラン民兵の要人たちの懐に入っている。一方、シリア経済は崩壊の危機に直面している。

ヨルダンにとって、反体制派の支配下にあったダルアー県が2018年に奪還された後、シリアとの国境を再開することは、二国間関係を改善し、関係正常化への道を切り開くことを意味していた。ヨルダンのシリアとの370キロメートルに渡る国境線は、遮るものもほとんどない複雑な地形に沿っており、アブドッラー国王が軍隊の交戦規則を変更し、密輸業者を阻止するためなら何でもするよう命じるまで、密輸業者が行き来していた。ヨルダンは、シリア軍が密入国者を保護し、ヨルダンへの入国を容易にしたという証拠を提出すると共に、シリア政府に抗議した。

シリア南部の混乱と権力の空白はヨルダンにとって真の懸念材料であり、麻薬密輸はその一面にすぎない。

オサマ・アル・シャリフ

ヨルダン軍によると、同軍は2020年以降、数千件の密輸を阻止し、ここ数カ月でシリア側から飛来した数十機のドローンを撃墜したという。ヨルダン空軍は5月から8月にかけて、シリア南部に存在する、カプタゴン製造の疑いのある施設に対して2回の空爆を行ったとみられている。同国内部では、アブドッラー国王の厳しい言葉を受けて、さらなる攻撃が行われる可能性があると噂されている。国王は、国家安全保障に影響を与えかねないシリア危機による将来の脅威から自国を守るため、必要なあらゆる手段を講じると警告している。

アブドッラー国王は武器の密輸についても言及している。最近イスラエルは、イランがヨルダンを通じてパレスチナ武装勢力に武器を密輸していると非難し、諜報特務庁「モサド」に調査を命じた。

ヨルダンはまた、1カ月以上続いているスウェイダ県の内乱も注視している。アブドッラー国王は、新たな難民の波を受け入れることはできないと警告した。同国は約100万人のシリア人を受け入れているが、最近、彼らは帰国すべきだとの見解を示している。

数週間前、2人の政府寄りのコラムニストが地元メディアにヨルダンと麻薬戦争について書き、同国の不満に無関心なシリアに厳しい対応を求めた。その一人、マーヘル・アブ・タイル氏は緩衝地帯の創設に言及し、もう一人、マレク・アサムナ氏は「北部の国境を守るヨルダンを支援するための米国の提案」について書いた。

ある情報筋は、ヨルダンがシリア南部について、さらなる空爆を含むいくつかの選択肢を検討していることを確認したが、同国は「地上戦」のシナリオは避けているという。ドナルド・トランプ前米大統領の顧問を務めたこともあるワリド・ファレス氏は、スウェイダ県での出来事や、2人の米下院議員がシリアのドルーズ共同体の最高宗教責任者と接触していたことが明らかになったことで、米国がシリアに「フリーゾーン」を設置することを検討しているとツイートした。

ロシアはウクライナ戦争に掛かり切りであり、ヨルダンが歓迎していたシリア南部でのロシア軍のプレゼンスはもうないようだ。シリア南部の混乱と権力の空白はヨルダンにとって真の懸念材料であり、麻薬密輸はその一面にすぎない。シリア東部の砂漠地帯ではダーイシュの動きが活発化し、シリア南部では親イランの民兵が活動しているため、ヨルダンは常に警戒の手を緩めることはできない。

アル・サファディ外相は、あらゆる関係者と意思疎通を図るため、先月の国連総会の傍ら、イランのホセイン・アミラブドラヒアン外相と会談を行った。メディアの報道によると、両相はシリア危機とその解決について、改革と引き換えにシリア政権を国際社会に復帰させるという「ステップ毎」のプロセスに沿って話し合った。しかし、アル・サファディ外相はまた、「この危機が、ヨルダンと地域の安全に及ぼす脅威を阻止する必要がある」と強調した。

今のところ、ヨルダンとシリアの間の接触は保留されている。これは、ヨルダンが北の国境沿いで起きていることに対する忍耐が限界にきているというメッセージを伝えた後に起こったことである。

  • オサマ・アル・シャリフ氏はアンマンを拠点とするジャーナリストであり、政治評論家である。 X: @plato010
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