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イスラエルとガザの犠牲者に対する米国の「二重の」懸念は偽善によるものだ

ジョー・バイデン大統領とアントニー・ブリンケン国務長官は、罪のない民間人の殺害を終わらせるための停戦を呼びかけることを拒否している。(ファイル/AFP)
ジョー・バイデン大統領とアントニー・ブリンケン国務長官は、罪のない民間人の殺害を終わらせるための停戦を呼びかけることを拒否している。(ファイル/AFP)
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27 Oct 2023 09:10:57 GMT9
27 Oct 2023 09:10:57 GMT9

中東における政策、暴力、和平に対する米国のアプローチを定義するうえで、「二重」ほどふさわしい言葉はない。その理由は、米国がずっと前に、イスラエルが何をしようと、あるいは何を要求しようと、同国を支援しようと決めたことだ。米国とイスラエルの関係は偽善と例外主義に基づいている。すなわち、暴力に関する偽善と、イスラエルの利益を他より優先する例外主義である。

この二重の政策が最も顕著なのは、ガザ地区に閉じ込められている200万人の民間人に対してイスラエルが今も続けている残忍な攻撃に関してである。10月7日、過激派組織ハマスが同地区からイスラエルの標的に対して恐ろしい攻撃を開始し、イスラエル自体はもとより世界を驚かせた。この攻撃については誇張はあるものの、多くの罪のない民間人と非番のイスラエル軍兵士が殺害され、負傷し、拉致された。

イスラエル軍が同国のパレスチナ人に対する行いに関するあらゆるメディア報道を厳しく統制・検閲しているため、どこまでが真実でどこからが虚偽であるかを知るのは困難である。しかし、二重という言葉は即座に当てはまる。

例えば、米国はこの紛争に関するニュースに対して二重のアプローチを取っている。米当局者は、イスラエルがメディアプロパガンダキャンペーンで主張することならば何であれ疑いなく受け入れる。最終的に誇張あるいは全くの嘘であることが証拠によって示された時でさえ、それに固執する。暴力に対するこうした二重のアプローチには呆然とさせられる。10月7日にイスラエルを襲ったハマス戦闘員らは、1000人以上の民間人と300人のイスラエル軍兵士のを奪った。米当局はイスラエルと共にこの「大虐殺」に対する憤りを表明しつつ、イスラエル軍で軍務に就いていた人々を含む全ての死者を「犠牲者」と見なした。

米当局者は、イスラエルがメディアプロパガンダキャンペーンで主張することならば何であれ疑いなく受け入れる

レイ・ハナニア

ここで二重性が表面化する。その同じ米当局者らが、イスラエルによるガザ地区の民間人に対する空爆がもたらした、それより圧倒的に多い死者数を無視しているのだ。イスラエルの空爆は何百軒もの住宅、病院、モスク、教会を破壊し、6000人以上のパレスチナ人を殺害している。米国が停戦の呼びかけを阻止する限り、この数字は増加し続けるだろう。

ジョー・バイデン大統領もアントニー・ブリンケン国務長官も、罪のない民間人の殺害を終わらせるための停戦を呼びかけることを拒否している。これは、イスラエル人の命のことは気にするがパレスチナ人の命への関心に欠ける米国の二重政策を反映したものだ。その二重性を隠すために、バイデン大統領とブリンケン国務長官は民間人の殺害を止めることが必要だと表明したが、現在行われている唯一の殺戮はイスラエルによるパレスチナ人を標的とした無差別殺戮であることには言及しなかった。

米国の二重政策のもう一つの例は、イスラエルからの出国を希望する米国人の退避のためにバイデン政権が懸命になっていることだ。バイデン大統領は実際、イスラエルに要件を満たす能力やプログラムを公平に適用する意思があるのかという懸念があるにもかかわらず、イスラエル国民がビザなしで米国に入国することを可能にするビザ免除プログラムへのイスラエルの参加を迅速に認めた。一方でバイデン政権が行っていないのは、ガザ地区にいる米国人を退避させることだ。数百人の米国民がラファ国境検問所に身を寄せているにもかかわらずだ。彼らはこの検問所を通過できないが、米国は彼らを助けるために何もしていない。

二重という言葉は国籍に対する忠誠心にも及ぶ。イスラエル人の多くは米国とイスラエルの二重国籍を持っている。民族的起源に関係なく、18歳以上のイスラエル人は全員イスラエル軍での兵役を求められる。一方、米国民には兵役義務はない。そのため、イスラエルと米国の二重国籍者が守らなければならないのはイスラエルだけであり、米国を守る必要はない。人質に取られている人々をはじめとする「イスラエルにいる米国人の命」に関する懸念を米国が表明する時、その問題には触れない。

米政府による懸念の表明のバランスが取れていないことは、あらゆるレベルにおける二重の道徳規範を反映している

レイ・ハナニア

パレスチナにルーツを持つ米国人であり、ベトナム戦争の時には誇りを持って米軍に従軍した私は、兵役を務めることを希望する米国人は外国の軍ではなく米軍でそうすべきだと考えている。

バイデン大統領もブリンケン国務長官も取り上げようとしない疑問は、ハマスに囚われている米国人人質は実際に米国人なのか、それとも二重国籍を持っていてイスラエル軍で兵役に就いているが米軍では就いていないイスラエル人なのか、というものだ。「米国人」という呼称の使用は適切なのだろうか。

最後に、紛争で死亡した米国人に関して、米国は紛れもない二重政策を取っている。イスラエル系米国人の命は神聖なものとされる。バイデン大統領もブリンケン国務長官も、彼らに関する懸念を繰り返し強く表明している。しかし、パレスチナ系米国人が殺された時、米政府はどのように反応してきただろうか。ほぼ毎回、彼らの悲劇的な運命に対しては弱い懸念しか表明していない。

昨年、2人の米国人がイスラエル軍兵士によって殺害された。2022年1月、ヨルダン川西岸地区のパレスチナの村において夜間に急襲が行われた際、パレスチナ系米国人のオマル・アサドさん(78)が激しく殴られ、目隠しされ、虐待された。彼はいかなるテロ活動にも関与していなかったため、面目が立たなくなったイスラエル政府は、調査を行ったうえで関与した兵士を罰すると述べた。イスラエル政府はそれから何ヶ月も後に、関与した兵士らは懲戒処分とするが起訴はしないと発表した

2022年5月には、パレスチナの都市ジェニンに対するイスラエルの急襲を記者として取材していたパレスチナ系米国人のシリーン・アブアクラ氏がイスラエル軍兵士に銃撃され死亡した。この殺人に関して裁判は行われていない。真相究明を求める厳しい言葉さえない。米国は、同氏が撃たれたのは事故だったとのイスラエルの主張を単純に受け入れた。

さらに遡ると、2003年に米国人活動家のレイチェル・コリー氏がイスラエル軍のブルドーザーによって轢き殺されたが、米政府は彼女の殺害について調査しなかった。2010年のガザ支援船団急襲事件では、マビ・マルマラ号に乗っていたトルコ系米国人のフルカン・ドガンさん(18)がイスラエル軍兵士らによって殺害された。2016年には、パレスチナ系米国人のマフムード・シャアランさん(16)がヨルダン川西岸地区の検問所を通過中にイスラエル軍によって殺された。

米政府による懸念の表明のバランスが取れていないことは、あらゆるレベルにおける二重の道徳規範を反映している。すなわち、イスラエルについては高いが、パレスチナ人についてはほぼ存在しない道徳規範である。

多くの人は認識している。イスラエル・パレスチナ紛争の文脈における二重という言葉が実際に意味するのは偽善であることを。

  • レイ・ハナニア氏は、受賞歴のある元シカゴ・シティ・ホールの政治記者であり、コラムニスト。個人ウェブサイトcomを通して連絡を取ることが可能。X: @RayHanania
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