Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

なぜレバノンに非常事態宣言が必要なのか

2020年4月27日、レバノンのベイルート北部にあるズークマスベで、反政府抗議運動者たちがレバノン軍と乱闘。(AP 写真)
2020年4月27日、レバノンのベイルート北部にあるズークマスベで、反政府抗議運動者たちがレバノン軍と乱闘。(AP 写真)
Short Url:
29 Apr 2020 04:04:59 GMT9

なぜレバノンに非常事態宣言が必要なのか

Dr. Dania Koleilat khatib

長い間予期されていた爆発が起こった。4月27日(月)夕刻、トリポリ市北部で暴動が勃発した。この一画はレバノンで最も見過ごされがちな地区の一つで、極めて裕福な政治家たちも何人か居住する。怒りに満ち腹を空かせた人々が、地元の銀行の正面を叩き潰して軍隊と衝突した。サイダなどのレバノンの他の地域でも暴動が起こり、市民たちがタイヤを燃やして道路を封鎖した。手のつけられない状況となっており、非常事態宣言を出して大幅な改革を行わない限り、社会の安定を取り戻すことはできそうにない。

3週間前、トリポリ在住の活動家で市の委員を務める私の知人から耳にしたところによると、悲惨な状況にあるバブ・アル・タッバネ(Bab Al-Tabbaneh)の住人グループがトリポリ市の当局に対し、「食料品の支援が得られないようなら暴徒化して店舗を強盗する」と通告してきたという。市民たちはもう限界にきている。通貨は暴落して日に日にその価値が下がり、食料品の値段の急騰でレバノンは奈落の底へ落ち込んでいる。今現在、政府には現実が把握できていない。政府の官僚たちは自分の取り分の奪い合いに忙しく、実は取り分など 残っていないことにも気づいていない。

一番最近の議会では、政治家たちは議論すべき最重要事項のほとんどを避けて通った。腐敗した政治家たちを裁くための法案は棚上げとなっており、外出禁止令や悪化の一途をたどる経済状況のために生計を立てることのできなくなっている未亡人、極貧者、日雇い労働者といった困窮する人々に対する財政援助の支給決議も同様だ。政府はいまだに首を縦に振らず、譲歩することを拒み続けている。国民は激怒している。豪勢な生活をし、海外へ何十億という金を送金している腐敗した政治家たちを目の当たりにする一方で、一般のレバノン市民といえば汗水垂らして稼いだ銀行預金を使うことができないのだ。ドル建ての口座の金はほとんど価値を失った現地通貨でしか受け取れない。

なんとか大衆の怒りを収めようと、ハッサン・ディアブ首相は4月24日(金)、現在の危機は中央銀行頭取のせいだと非難した。この頭取は政府高官ら同様非難されて当然ではあるが、彼一人をスケープゴートにしたてあげても大衆の怒りは収まらない。国民はこの混沌から自分たちを引っ張り上げてくれるリーダーシップと確固たる政策を必要としている。現在の政府ではこのトンネルの出口を見ることはないということを国民は知っているのだ。

国民が今なお敬意を払っている唯一の組織が軍隊だ。現在勃発している暴動はレバノンのミシェル・アウン大統領と軍隊の力量を試す重要なテストとなる。年齢80代に入っているアウン大統領は、なにがなんでも義理の息子であるゲブラン・バシル氏を後継者に仕立て上げたいと考えているのだが、アウン大統領にとって義理の息子とレバノンの国のどちらを選ぶか、その決断の時が来たようだ。レバノンを選べば、アウン大統領は非常事態宣言を出して権力を軍隊の総司令官へ委ねることになる。ターイフ条約締結以降、非常事態宣言を出すには国会議席3分の2以上の承認が必要となっている。しかし大統領が同意するのであれば、大臣たちがそれに反対することはなかろう。

ここで、軍とその総司令官が国民へのコミットメントを示すためのもう一つの試金石がある。現在の状況は壊滅的であり、抜本的な対策を必要としている。非常事態宣言は、現状を維持するために敷かれるのではなく、革新的な改革を行うために敷かれる必要がある。今こそ軍は国民側を選ぶということを明確に示す時だ。

 

現在の政府ではこのトンネルの出口を見ることはないということを国民は知っているのだ。

Dr. Dania Koleilat Khatib

 

非常事態下では、国内の保安部隊や国の重要な機関に対して軍が統制力を行使することになる。今のところ政府高官らは総動員宣言を出しているのみだ。この状態だと、軍隊が全国に配備されるが、統治権の方は既存の政府が握ったままとなる。政府は、国民の高い支持を受ける軍の総司令官に権力を奪われるリスクを恐れて、非常事態宣言を出そうとはしない。というわけで総動員宣言が出されているのだ。統治権は軍に渡さず、現政府が軍を行使するという図式だ。しかしこれももはやうまくいきはしない。レバノンは崩壊しようとしている。間も無く国民はその腐敗した政治家たちの家々をねり歩き、遅かれ早かれ、その政治家たちは権力を失うことになろう。

軍の努力が結実するためには、過去との決別が必要だ。あの「zuaama」たちは、法の裁きを受ける必要がある。非常事態宣言が出たら直ちに、軍は腐敗した「zuaama」全員を拘束または自宅監禁し、独立した裁判官による裁判を行うとともに、急務となっている改革を早急に実行しなければならない。そのためには、実務能力に長けた人間たちから成る、特別な権限を付与された暫定政権を樹立する必要がある。この暫定政権の主な任務は奪い取られた資金を取り戻し、不正と戦い、財政・金融改革を行い、大半の労働・中流階級のための社会保護手段を保持することであり、同時に「zuaama」のための民主主義から一般市民のための民主主義へとレバノンを変貌させるような自由で議院制の選挙を実施する準備を整えることだ。

ダニア・カレイラット・ハティブ博士(Dr. Dania Koleilat Khatibは米国-アラブ関係の専門家で、ロビー活動に重きを置く。彼女はエクセター大学で政治学の博士号を取得し、アメリカン大学ベイルート校のイッサム・フェアーズ公共政策・国際問題研究所のアフィリエイト・スカラーである。

2020年4月27日、レバノンのベイルート北部にあるズークマスベで、反政府抗議運動者たちがレバノン軍と乱闘。(AP 写真)

特に人気
オススメ

return to top