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原子力発電はクリーンエネルギーミックスにふさわしい

技術の進歩と厳格化された規制により、原子力はかつてないほど安全になっている(File/AFP)
技術の進歩と厳格化された規制により、原子力はかつてないほど安全になっている(File/AFP)
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08 Dec 2023 08:12:21 GMT9
08 Dec 2023 08:12:21 GMT9

新たなテクノロジーとその採用は、単なるビジネスや経済的意思決定以上のものになっており、政治的、地政学的重要性も帯びている。このことは、エネルギーセクターを考えると非常に明白だ。議論は事実や、エネルギー出力対温室効果ガス排出量、より大規模な環境フォーカスの時代といった諸要素を中心には回っていないことがわかる。議論は政治的利益や地政学的アジェンダによって評価されている。控えめに言って、偽善やごまかしが多いのだ。

政治的議論において、原子力という選択肢はエリート主義的環境思考によって妨げられてきた。原子力発電は二酸化炭素を排出しないという事実がありながら、彼らはそれを汚れたエネルギー源だと言う。現実には、原子力発電は最もクリーンなエネルギー源のひとつであり、エネルギーミックスの基盤となるべきだ。その基盤の上に再生可能エネルギーを加えることができるだろう。だからこそ、アラブ首長国連邦(UAE)で行われている国連のCOP28気候サミットで今週、原子力に関する特別会合が行われたことは良い前兆だ。 

米国ほか21カ国が2050年までに原子力発電量を3倍にすると公約するに至ったことは、炭素排出量削減目標に向けた大きな一歩だ。フランス、UAE、ガーナ、韓国、英国、カナダをはじめとする国が支持するこの公約は、2015年のパリ協定で設定された気候公約および目標の達成に向けて原子力発電が重要な役割を果たさなければならないことを明確に示している。さらに重要なのは、原子力をエネルギーミックスの重要な柱のひとつにするべきであるという事実をこの公約が強調していることである。

数十年に渡って、原子力は進歩派やグリーン派から攻撃を受けてきた。彼らの主張は、主にコストと安全という2点を根拠にしている。だが現実は、原子力発電所の寿命を実際の性能と関連付けずに減少させているため、コストが爆発的に膨らんでいるのである。発電所を70年ではなく30年で償却することは、大きな違いを生み出す。発電所を70年持たせることは、主要な部品の交換や開発などによって可能だ。安全面に関しては、主に核廃棄物と一般的な運用が主な焦点となる。ここでもリスクは大きく誇張されてきた。過去にはスリーマイル島やチェルノブイリで事故が起きているが、技術の進歩と厳格化された規制により、原子力はかつてないほど安全になっている。

技術の進歩と厳格化された規制により、原子力はかつてないほど安全になっている

ハーリド・アブー・ザフル

原子力産業を攻撃する者たちは、単純な問いに答えることを避けている。それは、再生可能エネルギーの生産から利用、廃棄に至るまでのサプライチェーンがどれほどクリーンなのか、という問いである。米国に拠点を置く太陽エネルギー産業協会によると、太陽光パネルのターンオーバー速度は当初の見積もりを超過しているという。そして現在のリサイクルに関する法外なコストにより、廃棄されたパネルには正真正銘のリスクが伴う。同様に、リサイクルが困難な風力タービンも埋め立てゴミになる可能性がある。つまり基本的に、どんなエネルギー源にも廃棄物の問題は存在するのだ。だが核廃棄物に関するソリューションは、遥かにうまく管理されている。

カーボンニュートラルに関する同じ問いは、再生可能原料の生産と輸送にも当てはまる。このことは、電気バッテリーの生産から廃棄にも影響を与える。環境の専門家らは、こうした単純な問いに答える代わりに、他のエネルギー源を攻撃し、キャンセルすることに集中している。

米国と中国が競争と対立に動き回るなか、地政学的なレベルでも疑問は浮かんでくる。米国では、太陽光と風力がこの大いなる電力競争において中国を強化しているという声が高まってきている。なぜなら、2022年には中国が太陽光発電モジュール生産の77.8%を占めていたのである。世界シェアの第2はベトナムで、その比率はわずか6.4%だ。サプライチェーンが中国を中心に回っているなか、エネルギー依存性に関する問いが浮かび上がってくる。だからこそ、世界銀行が太陽光やその他の再生可能エネルギープロジェクトに融資を行いながら、原子力発電プロジェクトに融資を行っていないことで中国の立場が有利になっているという事実を述べる声が多いのである。 

原子力に関する議論は、国内政治にも深くはまり込んでいる。原子力の先駆者であり続けてきたフランスは、その好例だ。EDFの元CEOアンリ・プログリオ氏は、数カ月前に行われたシンクタンクのセミナーで、フランスのエネルギー自立性喪失について議論を交わしている。プログリオ氏はエネルギーの自立を実現させるためのこれまでの取り組みを強調し、世論の変化や競争を優遇するような欧州の規制に関する最近の課題を批難した。プログリオ氏は、競争力のある価格で電力の供給側となったことに象徴されるフランスの原子力産業の過去の成功を強調した。またプログリオ氏は、既存の原子力発電所の寿命を延長させ、エネルギー生産の基盤として考えることを提唱し、洋上風力プロジェクトの実行可能性とコスト効率に対して疑問を投げかけた。

基本的に、どんなエネルギー源にも廃棄物の問題は存在する。だが核廃棄物に関するソリューションは、遥かにうまく管理されている

ハーリド・アブー・ザフル

さらにプログリオ氏からは、産業の脅威になるという理由でドイツがEUを通じてフランスのエネルギー自立を妨害していると批難する爆弾発言も飛び出した。彼は、とりわけドイツのエネルギー革命と風力への莫大な投資を引き合いに出し、再生可能エネルギーへの移行がもたらす課題を正当に批判している。同氏は、ドイツ政府が石炭、とりわけ特に環境への悪影響が大きい亜炭による発電に同国が強く依存していることを懸念していると述べた。プログリオ氏によると、欧州諸国による再生可能エネルギーへの合計1兆ユーロの投資のうち、ドイツの投資は6000億ユーロ(6460億ドル)を占めているという。この途方もない投資により、大手電力企業のE.ONとRWEが破綻寸前に追い込まれ、連邦政府によって何とか救われるという結果を招いた。

ドイツが良い見本になったように、明日からすぐに再生可能エネルギーに100%移行するのは単純に不可能かつ非現実的だというのが現実だ。そんなことをすれば、単純に世界経済と安全保障の破綻を招くだろう。このソリューションを提唱する者でさえ、そうなることは分かっているのである。彼らの真の目的が別の場所にあるのは今や明らかだ。

だからこそ、ただちに原子力をエネルギーミックスへと組み込むよう積極的に推進していくことが必要だ。だが、長年に渡る世界的なバッシングによって予算、専門性、実行可能なパートナーシップは欠如しており、未だにこの業界を変えようとする動きは妨げられている。COP28で実現した今回の公約は、些末な精算ではなく解決策の発見や協力の促進を助けるものになるかもしれない。

ハーリド・アブー・ザフル氏は宇宙に注力する投資プラットフォームSpaceQuest Venturesの創業者。EurabiaMediaの最高責任者、Al-Watan Al-Arabiの編集者を務めている。

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