Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

愛国主義は悪党ネタニヤフの最後の逃げ道

Short Url:
15 Mar 2020 06:03:48 GMT9
15 Mar 2020 06:03:48 GMT9

1960年代に「政治において一週間は長期間である」と述べたのはハロルド・ウィルソン英首相であった。先週、イスラエルの国内政治においては、1時間が長期間であった。 そして出口調査の結果が発表されてから、選挙の真の結果が判明し始めるまでの数時間は、永遠のごとく感じられた。イスラエルの首相ビンヤミン・ネタニヤフにとっても同様であった。 出口調査の結果から自らのリクード党及び右翼勢力に対する支持が増加したことが分かると上機嫌となったが、ほどなくして自らに反対する人々が多数を獲得し、自らの破壊的な時代が終わる可能性がかなり高くなった時には絶望に変わった。

ネタニヤフ首相は自らの泥試合的な政治スタイルを貫いてきたが、今では失敗が多く軋轢を生んできた自らの政権が終わること及びを恐れており、また更に悪いことに、汚職容疑で起訴されている裁判において自らを擁護するために時間を使わなければならなくなるという屈辱を恐れていた。それゆえ当然のごとく自らの政敵に対する容赦ない攻撃を始めた。特に熾烈な攻撃はジョイント・アラブ・リストに対して準備していた。愛国主義を冷笑的に悪用したこと、 より正確に換言すればナショナリスト兼人種差別主義者の熱狂的愛国主義であったことを裁く、非公式のいわば公開裁判においてはネタニヤフ首相は、はるか昔に「有罪」となっていた。ネタニヤフ首相が、イスラエルのパレスチナのアラブ系少数派の人々や彼らが選出した議員たちに対して自制することなく下劣な攻撃をしてきたことは、同首相が、特定の目的をもって発揮した、生得のイデオロギーのような人種差別主義がどのようなものであるかを示している。ここにいう特定の目的とは、ネタニヤフ首相が自らの支持基盤を強化するとともに、他政党がアラブ政党を連合政権に引き入れないようにさせようとすることが目的であり、同首相の人種差別主義はその目的を遂行する上でいやらしいほどの効果があった。

ネタニヤフ首相は、詐欺や汚職、背信行為を理由に起訴されるはるか以前に、イスラエルのアラブ系パレスチナ人少数派への攻撃を強化してきた。ネタニヤフ首相の悪評高い、2015年の選挙当日のフェースブックへの投稿では、自らの右翼政権が危険に晒されていると警告し、自らの支援者に投票所へ趣き、投票するよう呼びかけた。ネタニヤフ首相は意図的に誤った方向に導こうとして、その時、アラブ系有権者は投票所に「群れをなして」赴いており、全く証拠もなく、「左派NGOが彼らをバスで投票所に連れて行っている」と主張した。

これは完全かつ全くの作り話であったのみならず、重要な転機でもあった。ネタニヤフ首相は、ついに自らが本格的な人種差別主義者であることを露呈したのだ。その後、同首相は国民国家法を積極的に支持した。国民国家法は、その意図や目的をみるかぎり、人口の1/5を二等国民の地位に格下げし、その過程で、アラビア語をもはや公用語と認めないことにすることで傷に塩を塗った。イスラエルの公用語にアラビア語を有することは、イスラエル国家のまさに基盤であったにもかかわらず、そのようにしたのである。

詐欺、汚職、信頼の違反をもとに起訴されるはるか以前に、ネタニヤフ首相はイスラエルのアラブ系パレスチナ人少数派に対する攻撃を強化してきた。

ヨッシ・メケルバーグ

警察による捜査が行われ、次いでその重大さにおいて前代未聞であった起訴に至ることになったのだが、この警察による捜査がなされたこと、及び、1年もたたないうちに3回行われた選挙においてネタニヤフ首相が連続して勝利を収められなかったことの両方があったために、ネタニヤフ首相自身や同首相の親族、政治的同盟勢力は、イスラエルのアラブ系パレスチナ人の正当性を否定する活動を行うにあたって全く自制しなくなった。イスラエルのアラブ系パレスチナ人は(国民国家法が採択されるまでは)公式には平等なイスラエル国民であった。

たった2週間前には577,335人のイスラエル国民がジョイント・アラブ・リストに投票した。アラブ系イスラエル人の87%、及び約20,000人のイスラエル人がジョイント・アラブ・リストと言う政治同盟に投票して支持を表明したと推計されている。イスラエルの右派がリンチをする群衆のように振る舞うこと、及び、このジョイント・アラブ・リストを支持する票の数は、その代表者が連合政権に参加するにせよ、参加はせず側面から支援するにせよ、政権樹立過程においては勘定に入れるべきではないと示唆することは、恥ずべきことであり、イスラエルの既にひどく打撃を受けている民主主義を毀損するものである。イスラエル・カッツ外務大臣がイスラエル国会議員に対して、アラブ・ジョイント・リストは「スーツを着用したテロリスト」であると述べたことは恥ずべきことであるのみならず、カッツ外務大臣及びイスラエル国内政治における同大臣の友好勢力は、権力に執着するがゆえにファシズムという危険な道にイスラエルを導く用意があることを示す徴候である。ここで私はファシズムという言葉を軽い気持ちで使っているわけではない。

政敵との建設的関与を促進するのではなく、政敵の反感を買うような感情的な言葉を用いることは自制すべきであるというのが、私の生涯にわたる強い信条であった。言うまでもなくファシズムという言葉はそうした政治色の強い言葉の一つである。しかしオックスフォードの辞書に定義されているように、ファシズムは、「自らの国あるいは自らの人種を他者のそれらより優れたものとして攻撃的に宣伝するとともに、いかなる反対をも容赦しない」イデオロギーである。ネタニヤフ首相は支持者からますます余人を以ては代えがたいカルト指導者であるかのように遇されるようになっており、アラブ系パレスチナ人少数派及びこれら少数派と友好的な関係になると思われる者たちの正当性を奪おうとする同首相の活動は、たとえ現段階では完全に発展しきったものではないとしても、ファシズムのあらゆる特徴を具備している。

確かに、アラブ・ジョイント・リスト出身のイスラエル国会議員のなかの1名か2名は、テロ行動を支持する旨の発言をしたり、その旨ソーシャルメディアに投稿したりしており、これについては、たとえ発言が議員に選出される以前のものであったとしても徹底的に非難すべきである。しかしそのような発言はアラブ・ジョイント・リスト及びその指導者の見解を代表するものでは全くない。そうした発言は、未解決のイスラエル・パレスチナ紛争の悲しい一面である。つまり双方にイスラエル・パレスチナ間で暴力が行われることを支持する政治家がいるということだ。

多くのパレスチナ人の殺害に責任を有していたり、アラブ系イスラエル人の強制退去や所有権明渡しを推進したりした政治家や軍幹部がイスラエルの政権につくことは、多くのアラブ系イスラエル人に属する国民にとっても同じように受け入れがたいのだということをユダヤ人であるイスラエル国民が銘記することは価値あることだ。これはまさにイスラエル社会が渡らねばならないルビコン川であり、お互いの機微な事項を認識し、イスラエル・パレスチナ紛争を終結させること、及び、イスラエルのパレスチナ人国民に対する差別を廃止することの双方につき協力して努力することによって、このルビコン川を渡らねばならない。

ネタニヤフ首相が権力を不正に行使して汚職をしたとの申立があることについては、裁判官がネタニヤフ首相の運命を判示すべきである。しかしイスラエルのアラブ系少数派に対するネタニヤフ首相のヘイト活動のほうが、特別扱いする代わりにタバコやシャンパンや宝石を受け取ったという申し立てられている罪より遥かに悪質だ。しかしネタニヤフ首相は、最終的に首相をやめるときに置き去りにするイスラエルの惨状について、もはや懸念することはないだろう。ネタニヤフ首相の後継者が、仲直りをし、ユダヤ人の間の憎しみと分断という政治的遺産やアラブ系国民との関係悪化という政治的遺産に何らかの方法で対処しなければならない。

しかし、ネタニヤフ首相のイスラエルのアラブ系国民に対するヘイト活動に関して希望の兆しがみられる。それは、アラブ系イスラエル国民が結集し、選挙が実施されるたびにますます「大挙して」投票所に向かい、いまではイスラエル国会にかつてないほど多くの議員を送り込むようになっていることだ。これによって彼らはイスラエルの国内政治で発言権を得ることになるかもしれない。たとえそれが、アラブ系イスラエル国民を社会的政治的議論において引き入れて考えることの重要性をユダヤ人社会が遅ればせながら認識したからではないとしても、少なくとも連合政権を樹立する上での必要に迫られて、アラブ系イスラエル人がイスラエルの国内政治で発言権を獲得することになるかもしれない。

  • ヨッシ・メケルバーグはリージェンツ・ユニバーシティ・ロンドンの国際関係論担当教授であり、国際関係論及び社会科学プログラムの責任者を務めている。またチャタムハウスのMENAプログラムの准研究員でもある。その他プリントメディアや電子メディイアに定期的に寄稿している。ツイッター: @YMekelberg
特に人気
オススメ

return to top