Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

目下のウイルス危機が去った後、新たな常識となるのは何か?

ロンドン地下鉄バンク駅を通り抜ける女性が新型コロナウイルス対策用にマスクを着用している。(Getty Images)
ロンドン地下鉄バンク駅を通り抜ける女性が新型コロナウイルス対策用にマスクを着用している。(Getty Images)
Short Url:
18 Mar 2020 07:03:55 GMT9
18 Mar 2020 07:03:55 GMT9

ファイサル・J・アッバース

いま私たちの耐え忍ぶ新型コロナウイルスによる危機的状況は、早々には収束しないことがもはや明らかです。ドナルド・トランプ米大統領、ボリス・ジョンソン英首相の発した声明からは、いずれも夏までに打開策は見いだせそうにないことがうかがえます。

となると、多くの国々で旅行や学校や仕事や多人数の集まりに制限が加えられている状況はそのころまでは続くということでしょうか。まあ、そう見るよりないでしょう。

では、予防ワクチンは早期に見つかるのでしょうか。現在私たちが対処しているのはまったく新しいウイルス。一方、世界の科学者や研究機関ではこれまでも現在も、データや試験結果の共有をおこなえていません。

ジョンソン氏の焦眉の会見にみるように、ウイルスに感染しながら症状が出ず、他者へ伝染もさせないといった人たちが世界で一体どれほどいるのか、それを科学の力で解明できるかが肝となります。これについては何の手がかりもありません。

国によって危機への対応のしかたも異なっています。サウジアラビアでは比較的感染者数が抑えられており、ここから推せば同国の迅速着実な措置には頭が下がります。もしもサウジが二聖モスクへのアクセスを即座に制限していなかったなら、そして、17日の全モスクでの礼拝中止へいたっていなかったなら、サウジ自体は言うに及ばず、世界全体に一体どれほどの禍根となっていたでしょうか。サウジの感染者数とイランの感染者数を引き比べてみることは示唆的です。イランでは無責任な聖職者たちが聖地への巡礼を続けることを積極的に奨励したため、毎日千人以上の新たな感染者が出るほどの感染率の増加となってしまいました。

サウジは、新型コロナ感染者の全数が国外からの渡航者であり、サウジ人感染者はそれらからの直接接触者となるだけに、飛行機の着便を制限し旅客全員の症例検査を実施したことも賢明でした。人と人との接触を最小限にするうえで、飲食店の営業や大規模集会の開催を中止したことも予防措置としては有効でした。

英国ではこれとは別の取り組みをおこなっています。学校は休校にならず、旅行については基本的に禁止よりは制限措置が取られ、特に老人などのリスク層に対しては他人との接触を極力ひかえることが促されています。そうしてほしいという勧告が主体で、そうせよという指示はほぼありません。主眼は、夏へ向けて、感染を長期的に拡大させることにあります。感染率が急速に高まったあとでやはり急速に落ち込むグラフをジョンソン氏が示したとおり、これはピークカット戦略と呼ばれるものです。

これが奏効した場合、英国は経済の深甚な減速を免れるのみならず、国民健康保険制度(NHS)の破綻も避けられるはずです。とはいえむろんハイリスクではあります。このウイルスについては、拡散のしかたや感染しやすい対象が誰なのかなど、わかっていないことが多く、また、政府が国民の移動や交流を厳格に規制しない場合、感染者数が急増しかねないといった危険もあるのです。

そうはいっても、人類はこの苦境をしのげるはずです。かつて、ペストやスペイン風邪やその他のパンデミックをしのいできたように。ですがこれまでと異なるのは、私たちはいまや高度に相互接続された世界に生きているということで、人の行き来がこれほど頻繁かつ簡便だった時代はないのです。かてて加えて、ウイルスには私たちのように国境を越えるのにパスポートも要らなければ渡航証明書も要りません。

収束はするでしょう。さはさりながら、それだけでもすまないでしょう。まずこの世界が以前とは異なってしまうことは受け入れなければならない現実の第一歩となるでしょう。旅のしかたが変わるのはまず疑問の余地がありますまい。空港のセキュリティで靴を脱ぐよう求められたら都度思い起こしましょう。2001年、パリ発マイアミ行きの機内で靴爆弾の爆破を試みた英国人テロリスト、リチャード・リードのそれはおかげなのです。300ml入りシャンプーボトルを没収されたなら、2006年の液体爆弾テロ未遂事件の首謀者らのおかげなのですから、こころゆくまで恨みつらみを並べ立てましょう。

筆者としては、今後は旅行者への検診が最低でも常識となることを期待したいのです。インフルエンザ様の症状なり発熱症状のある旅客については搭乗を禁じる措置が求められます。今後は、公共交通機関や人混みではマスクの着用が常態化するのではないかとみています。

サウジの感染率とイランの感染率を引き比べてみることは示唆的です。イランでは無責任な聖職者たちが聖地への巡礼を続けることを積極的に奨励したため、毎日千人以上の新たな感染者が出るほどの感染率の増加となってしまいました。

ファイサル・J・アッバース

働き方や出張についても変革があってしかるべきでしょう。政府機関や企業が旧に復するのが長引けば長引くだけ、もはや在宅勤務は一時しのぎではなく恒久的なものとならないでしょうか。

映画館や劇場への動員数はすでに、Netflixにみるような「より安全性の高い]ストリーミング型の視聴サービスの勃興により世界的に落ち込んでいました。また、食品の宅配アプリが外食に取って代わりつつあります。新型コロナの感染拡大による一時的な需要急増なのかもしれませんが、多くの消費者がそうした生活の変化に慣れてしまうと、それは恒久的なものになる可能性があるのです。

今後とも拠り所とすべき変化がひとつあるとするならそれは、手洗いや消毒剤の使用といった個人の衛生管理がいかに大切かに大いに気づかされた点であることはまず間違いありません。今回のウイルス拡散は、私たちがふだん触れているものにすこぶる思いをいたさせました。筆者はこのコラムをスマートフォンで書き上げたのですが、いまは取るものも取りあえずトイレへ手洗いに直行中。携帯電話からは便座の10倍以上の雑菌が伝播すると知ったからには!

  • ファイサル・J・アッバースはアラブニュース主筆です。ツイッター:@FaisalJAbbas
特に人気
オススメ

return to top