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宇宙太陽光発電の実現が近づく

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12 Apr 2024 09:04:09 GMT9
12 Apr 2024 09:04:09 GMT9

宇宙で太陽エネルギーを利用する、というコンセプトは、SFの領域から、具体的な現実へと移行しつつある。そして、GCC諸国は、この新しい電力供給方法の中核となる、またとないチャンスを手にしている。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、オマーンはすでに、宇宙の未来に向けた野心的な計画を打ち出している。

これは、エネルギー分野のリーダーであり続ける絶好の、そして歴史的な機会であり、さらに重要なことは、再生可能エネルギーの未来であると同時に、宇宙の商業化のリーダーにもなれるということだ。これまでは常に電気通信が宇宙経済の中核を担ってきたが、これはGCCの長期的な目標に合致した発展である。

理解を深めるためには、少し専門的になる必要がある。この試みには、主に2つの方法が提案されている。宇宙を利用した太陽光発電と、直射日光の反射である。

これは、GCC諸国が宇宙の商業化のリーダーになるための完璧かつ歴史的な機会である。

ハーリド・アブー・ザフル

宇宙太陽光発電は、太陽光発電パネルを搭載した、静止軌道上の衛星が太陽エネルギーを収集する。この衛星は太陽光のエネルギーを、マイクロ波やレーザー光に変換し、ワイヤレスで地球に伝送する。地球の大気や昼夜のサイクルに妨げられることなく、衛生は常に太陽光にさらされているので、途切れることのないエネルギー供給が可能になる。

この方法の主な課題は、衛星の打ち上げとメンテナンスの費用を抑える事、そして安全で効率的なエネルギー伝送システムの開発である。太陽光発電技術の改善と衛星の自己開発は、宇宙空間での太陽光発電システムの効率をあげ、実現可能性を高めるものだ。

一方、太陽光の直接反射は、軌道上で並べた衛星反射鏡を使用し、太陽光を地球上の太陽光発電所に直接反射させるというコンセプトである。この方式は、追加のインフラを必要とせずに、太陽光発電所から得られる太陽エネルギーの量を増やすことを目的としている。反射鏡は地球低軌道に設置することができ、太陽光を反射して太陽光発電所の発電を増加することができる。これにより、年間60%もの発電量増加につながる可能性がある。このアイデアは、太陽光発電所の効率を大幅に向上させることができるというものだ。

この方法は、1990年代にロシアがZnamya計画で初めて実験したものだ。これは、宇宙からの太陽光を鏡で反射させて、地球上のさまざまな地点を照らすことが、実現可能性か実証することを目的としていた。1992年に打ち上げられた20mの反射鏡「Znamya2」は、雲で視界が悪かったにもかかわらず、幅5kmの範囲を満月並みの明るさで照らすことに成功した。その後継機である「Znamya2.5」は、1999年に幅7kmの範囲を反射光で照らそうとしたが、アンテナで鏡が壊れて失敗した。幅60~70kmの範囲を想定した野心的な「Znamya3」は、実現することはなかった。

課題はあったものの、Znamya計画は、宇宙から地球への太陽光反射の、先駆的な取り組みとして際立っていた。しかし、反射光の制御が技術的に困難であったことと、このような強烈な光線が、地球の生態系、人間の健康、環境に与える影響を懸念したため、この計画は中止された。

宇宙空間を利用した太陽光発電システムでは、衛星1基で約2ギガワットの発電が可能で、これは従来の原子力発電所に匹敵し、100万世帯以上の電力をまかなうことができる。このようなシステムからの光線中心部のエネルギー密度は、1平方メートルあたり約250ワットになると予想される。

宇宙を利用した太陽光発電システムでは、衛星1基で約2ギガワットの発電が可能である。

ハーリド・アブー・ザフル

宇宙太陽光発電の分野で競合しているのは、エアバス、ノースロップ・グラマン、OHB SE、タレス・アレニア・スペース、ボーイングといった、大手航空宇宙企業やテクノロジー企業である。さらに、英国の宇宙エネルギー・イニシアティブのような取り組みは、政府、研究、産業を結集して、宇宙での太陽光発電を開発することを目指している。

欧州宇宙機関(ESA)のSOLARISの一環である太陽直射コンソーシアムには、アーサー・ディ・リトル、エンギー、エア・リキード、タレス、ダッソー・アビエーションが参加している。4,000枚の鏡で構成される衛星は、グリーン電力とグリーン水素製造を大幅に促進し、30年間で8,500メガトンの二酸化炭素排出量を削減できると提案している。

目的は同じだが、2つの宇宙太陽光発電の違いは大きい。よく言われるように、宇宙は難しい。だからこそ、GCC諸国は、宇宙からのエネルギー利用という、野心的な目標に力を合わせるべきなのだ。また、アラビア砂漠に降り注ぐ膨大な量の太陽光だけでなく、GCC諸国が物理的にも資金の流れの面でも、今日のエネルギー供給チェーンの中核を担っていることからも、地表と大気圏上空からのエネルギー開発をリードするのは自然な流れでもある。

将来を見据えたとき、宇宙がクリーンで、無尽蔵なエネルギー源となる可能性は計り知れない。気候変動への懸念に配慮しつつ、増大する世界のエネルギー需要を満たす上で、宇宙は極めて重要な役割を果たすだろう。宇宙技術と材料科学の進歩により、現在の障壁を克服し、宇宙を利用した太陽光発電を、エネルギーミックスの重要な構成要素とすることが間もなく可能になるかもしれないからである。

私たちが技術革新を続けることで、宇宙から太陽エネルギーを利用するという、かつては遠かった夢が近づきつつある。

・ハーリド・アブー・ザフル氏は、宇宙に特化した投資プラットフォーム、スペースクエスト・ベンチャーズの創設者である。メディア・テック企業ユーラビアのCEOであり、アル=ワタン・アル=アラビ誌の編集長でもある。 

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