Since 1975
日本語で読むアラビアのニュース
  • facebook
  • twitter

イスラエルが正しいことをする機会

ガザ市シェイクレッドワン地区にて、貧しい難民の家族のために国連救援・労働局(UNRWA)から配給された食料の荷下ろしをするパレスチナ人労働者。(AP)
ガザ市シェイクレッドワン地区にて、貧しい難民の家族のために国連救援・労働局(UNRWA)から配給された食料の荷下ろしをするパレスチナ人労働者。(AP)
Short Url:
05 Apr 2020 05:04:06 GMT9
05 Apr 2020 05:04:06 GMT9

ガザ地区監査団はガザの経済・社会システムが崩壊の危機に瀕していると長年警告してきた。迫りくるコロナウイルスのパンデミックによって、それも限界を超えてしまうかもしれない。イスラエルと国際社会が信念と切迫感を持って行動しなければ、残された200万人の人々は限られた物資の中で自衛し、運を当てにすることになるだろう。

ガザの人々は数十年にわたって悲惨な状況に耐えてきた。ハマスが政権を獲得した後にイスラエルが冷酷な懲罰的封鎖をガザに課した2006年以降、その状況は悪化し続けている。一連の戦争、またイスラエルとハマスの間の激しい紛争が、広範囲の破壊、多くの命の喪失、保険システムの崩壊の危機を引き起こしている。薬品や設備が不足するなかで、医療スタッフの英雄的な尽力のみによって人道的災害が防がれている。しかし、コロナウイルスがガザ全体に広がれば、経済の完全な崩壊、また人工呼吸器と防護用品の供給が限られていることにより、想像もつかないほどの数の死者が出るだろう。

ガザの封鎖による惨状にもよいことがあったとすれば、それは少なくともパンデミックからは隔離され、保護されるということだったであろう。しかし残念なことに、長年耐えてきた人々も難を逃れることはできず、3月末までに9件の感染が確認された。また、検査のレベルが低く、非衛生的で、十分な医療サービスが提供されていない人口密集地帯でのアウトブレイクという悪夢のシナリオが、それに続く悲惨な結果とともに現実になる可能性があることも覚えておかねばならない。

COVID-19がガザ全体に広まった場合、それを防ぐ(また少なくとも抑える)権限を持ちながらもそれを怠った人々が責任を負うだろう。

ヨシ・メケルバーグ

イスラエルは長年にわたってガザの状況へのいかなる責任をも放棄し続けており、人々に降りかかったあらゆる不幸についてハマスを非難してきた。しかし、ハマスにどのような欠陥があろうとも(実際に多くの欠陥があるのだが)、またガザの状況に対しての集団的責任の程度がどうあれ、エジプトの担った役割にあわせて、世界最大の野外刑務所であるこの小さな飛地を維持し、監視してきたのはイスラエルである。イスラエルは2005年にガザから撤退した可能性があるが、いまだにガザに存在はしている。それは占領軍であり、第4回ジュネーブ条約とイスラエル高等裁判所に従って、ガザの人々の福祉へ法的義務を負っている。イスラエルによる国境通過の制限がガザ地区内外の人と物の移動のすべてを左右するため、イスラエルにはガザの必要不可欠な人道的要求に応える法的義務があると裁判所は裁定している。それが「通常」時に当てはまる場合、迫りくるコロナウイルスの大災害がそれを補強する。

イスラエルの人道組織ギシャの国際関係担当ベス・オッペンハイマー氏は、ガザでのコロナウイルスの拡散の見通しにおける彼女の懸念についてこう語った。「ガザ地区の重要なインフラ設備とサービスは、数十年におよぶイスラエルの占領、13年間の窒息しそうな封鎖、そして度重なる紛争によって衰退してきました。ガザの疾病対策医療部門には、ここまでの規模の危機を管理する用意ができていません」このため、パレスチナ人、特にガザ地区民の移動の自由を守ること、そして彼らが国際法およびイスラエル法に定められた権利を享受できるようにすることを目的とする氏の組織が、イスラエル国防相ナファタリ・ベネット、また領土内の政府活動のコーディネーターに「ガザ地区で機能する経済と食糧安全保障の維持を確実にする」ためにイスラエルに即時行動をとることを訴える、より正確に言えば要求するために書状を送ったのは驚きではない。

農業と漁業に必要ないわゆる「兼用」材料の供給への制限を即座に取り除くことなく、より壊滅的な結果に直面する、小さな飛地のヨルダン川西岸で取引される商品がガザから持ち出されること許可せずとも、ギシャの懸念を共有し、力強く宣言を出すことは可能だろう。しかし、イスラエルがそうした措置を迅速かつはっきりと制定したとしても、その効果が発揮されるまでにはしばらく時間がかかるだろう。人口の半数以上が貧困線以下の暮らしのなかで食糧の不安に苦しんでおり、人口の3分の1が極度の貧困下で生活している状態では、COVID-19は言うまでもなく、あらゆるパンデミックの影響を受けやすくなっている。

イスラエルのガザに対する法的および道徳的義務の一時的な放棄はイスラエルの利益にもなれば、飛地の健康と経済的圧力を和らげるのにも十分な効果があるだろう。COVID-19がガザ全体に広がった場合、それを防ぐ(また少なくとも抑える)権限を持ちながらもそれを怠った人々が責任を負うだろう。ガザの状況の悪化がハマスの没落に繋がるという以前の想定にイスラエル政府が固執することはもはや不可能なはずだ。その想定の実現はすでに破綻している。現在、こんなことは起こらないでほしいが、ガザで大量の感染者と莫大な数の死者が発生すれば、イスラエルがその責任の大部分を負う、またはそうみなされることになるであろう。

一方、イスラエルは国際社会を巻き込みながら、パレスチナ自治政府やハマスと協同してより慎重なアプローチをとるべきだったのだろうか。それは正しい方向への動きとなり、イスラエルとガザの間の言説を変える可能性も、あくまで可能性にすぎないが、あったのかもしれない。そのような動きは即時の和解を達成するわけではないかもしれないが、少なくともガザの人々をハマスとの戦争における単なる駒ではなく、人間として、また未来の平和な隣人としてみなすという、より融和的な態度に繋がる可能性があった。

ヨシ・メケルバーグ、リージェンツ大学ロンドン国際関係学教授。国際関係と社会科学プログラムを率いる傍、チャタムハウスMENAプログラムのアソシエイト・フェローを務めており、国際的な書面および電子メディアにも定期的に貢献している。

Twitter: @YMekelberg

特に人気
オススメ

return to top