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ガザ地区に関して、イランとアラブ諸国の共同戦線は実現するのか

2023年11月9日、ウズベキスタンのタシュケントで行われた経済協力機構サミットに出席したイブラヒム・ライシ大統領。(AP Photo)
2023年11月9日、ウズベキスタンのタシュケントで行われた経済協力機構サミットに出席したイブラヒム・ライシ大統領。(AP Photo)
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10 Nov 2023 05:11:21 GMT9

12日にリヤドで行われるイスラム協力機構(OIC)のガザ地区に関する話し合いを行う会合に、イブラヒム・ライシ大統領が参加することが発表されている。イランの大統領がサウジアラビアを訪問するのは、2012年のマフムード・アフマディネジャド大統領以来となる。ガザに関する話し合いの会合にイランを含めることは、同国を問題の一部ではなく解決策の一部にしたいという願望に端を発したものである。しかしながら、イランとアラブ湾岸諸国の間には大きな信用問題があり、お互いが様々な事案をゼロサムゲーム的な観点で捉えている。ライシ大統領はイランが善意を持っており、パレスチナの人々を近隣諸国や米国に対する立場を有利にするための手札ではなく、彼らのウェルビーイングを気にかけているのだとアラブ諸国を納得させられるだろうか。

イランがガザに関する話し合いに招かれたのは、仮に同国が除外され孤立した場合、イラン政府が妨害者として振る舞う可能性があることを近隣諸国が理解しているからである。今回のイランの参加はアラブ諸国を背景に検証すべきだ。デニス・ロス氏は先月、ニューヨーク・タイムズ紙への寄稿で、アラブ諸国の複数の政府関係者から、イスラエルがハマスを壊滅させることを望んでいるという話を聞いたと書いている。その理由は、ハマスの勝利はイランとムスリム同胞団の勝利であると彼らが認識しているからだという。ここでは、アラブ諸国の立場を分析することが重要だ。

ガザはアラブ諸国にとってのジレンマだ。一方で彼らはパレスチナ人たちに同情しており、この問題に対する公平な解決を求めている。だが他方で、彼らはハマスを軽蔑しているのである。アラブ諸国はハマスを危険な存在だと見ている。ハマスの政治層はムスリム同胞団に属し、軍部のアル・カッサム旅団はイラン革命防衛隊と結びついており、強く嫌悪されている「抵抗の枢軸」の一部である。

ヒズボラのハッサン・ナスララ書記長は先週行った演説で、ハマスの勝利はパレスチナ人と周辺のアラブ諸国の勝利であると述べた。彼はイスラエルが失敗し目的を達成できなければ、パレスチナ人のための国家に関する交渉の席に就かざるを得なくなる(イスラエルはこれを長年に渡って避けてきた)はずだとほのめかし、アラブ諸国に対して間接的に保証を送ったのである。

米国のアントニー・ブリンケン国務長官との会談で、アラブ諸国は停戦と二国家解決実現に向けた交渉再開の必要性を伝えた。しかし複数の情報源によると、彼らはイランを蚊帳の外に置いておきたいと考えており、ハマスの役割については意見の相違があるという。

多くのアラブ諸国と米国にとって理想のシナリオは、イスラエルがハマスを壊滅させ、アラブ諸国が二国家解決の交渉を行い、パレスチナという手札をイランから取り上げることだ。しかし事態はそれほど単純ではない。イランが妨害を行う可能性があるため、無視することはできないのである。イランは全ての陣営の状況を複雑化させる可能性がある。ひとつ確かなのは、イランもアラブ湾岸諸国も戦争を望んでいないことである。イランはおそらく、米国およびアラブ諸国との交渉における立場を有利にできる状況を望むだろう。

ガザで悲劇が展開するなか、アラブ諸国はパレスチナ問題に対する答えを出さずにいることはできず、現在の状況は持続可能ではないことをより明確に理解し始めている。彼らは解決策を見出したい。だが、彼らはイランに関して多くの疑問を抱いている。イランは二国家解決を受け入れるだろうか。イスラエルが失敗した場合、抵抗の枢軸は強化され、イランのイラク、レバノン、シリア、イエメンに対する影響力は強まることになるのか。イランは好戦的な態度を強めるのか。別の問題としては、パレスチナ人が主権国家を与えられるという政治的解決が検討されたとして、その条件にハマスの解体が含まれる場合イランは受け入れるのかということがある。イランはパレスチナ人の総合的なウェルビーイングと引き換えに、ハマスという手札を失うことを受け入れるだろうか。

当然ながら、交渉がイスラエルと検討されることになった場合、ハマスにとっては――あるいは少なくとも、イランに属する軍部にとっては――ガザ地区を管理する立場に留まることは難しくなるだろう。イランはアル・カッサム旅団の解散を受け入れるだろうか。その場合、見返りに何を求めるのか。ハマスはヒズボラのように、イランにとってイスラエルに対する抑止力として機能していると理解することが重要だ。もしハマスが解体されるなら、イランは補償を受ける必要があるだろう。その見返りにイランは何を求めるだろうか。

仮にイランが、自分たちは問題の一部ではなく解決策の一部だとアラブ諸国を説得できた場合、彼らが共同戦線を張って米国に圧力をかけ、イスラエルに二国家解決を受け入れるよう真剣に働きかけさせる好機となるだろう。それでもなお、イランは明確な政治的ビジョンを示さなければならない。イランはパレスチナの解放を目標として宣言している。パレスチナ問題が解決した場合、イランは他の問題に対してどのような立場を取るつもりなのか。

米国も戦争は望んでいない。ジョー・バイデン大統領は主要な激戦州の世論調査でドナルド・トランプ氏にリードされており、戦争の長期化がバイデン氏にとってマイナスなのは間違いない。パレスチナ人の虐殺を支援しているという非難は、バイデン氏が有権者に受け入れてもらいたいと考えている自身の主義にそぐわないものだ。

イランが妨害を行う可能性があるため、無視することはできない。イランは全ての陣営の状況を複雑化させる可能性がある。

ダニア・コレイラト・カティブ博士

アラブ諸国とイランが何らかの解決策で合意すれば、ある意味で米国にとってはやりやすい状況になるだろう。イスラエル政府に対する明白な米国の支持と、大統領および国務長官のイスラエルに対する感情的傾倒はあるものの、彼らは解決も望んでおり、占領が持続可能でないことも分かっているのである。潜水艦と駆逐艦が同地域に派遣されたが、米国はそれらを使わずに済むことを望んでいる。

では、ライシ大統領はアラブ諸国を宥めるために何をすべきなのか。アラブ諸国はどんな保証を必要としているのか。イランはアラブ平和イニシアチブを受け入れるかどうか、明確な立場を示さなければならない。また、イラクのシーア派武装組織フーシ、ヒズボラ、バッシャール・アサド氏とどのように方を付けるのか、説明する必要もある。たとえば、シリア国民の苦難を終わらせることを求める国連安保理決議第2254号を受け入れるよう、アサド氏に圧力を掛けるつもりはあるのか。

他方で、イランは見返りにどんな安全保障を求めるのか、はっきりさせる必要がある。サウジアラビアは、イランに安全保障を提供するには非常に良い立場にある。イラン政府は、イスラエルと敵対した際のサウジアラビア政府の立場を常に問うてきた。サウジアラビアは、イスラエルがイランに武力行使を行った際に領空を封鎖するという保証をいつでもイランに与えられるだろう。だがその見返りに、イラン政府は地域問題に関してサウジアラビアと協力せざるを得なくなる。そして現時点で最も急を要するのが、パレスチナ問題なのである。

  • ダニア・コレイラト・カティブ博士はロビー活動に重点を置く米国とアラブ諸国関係の専門家。トラックII外交に注力するレバノンの非政府組織「協力・平和構築研究センター」の共同創設者。
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