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ガンツはいかにしてネタニヤフとイスラエル右派に資することになってしまったのか

エルサレムでシモン・ペレス前大統領の追悼式典でのベンジャミン・ネタニヤフ、イスラエルのルーベン・リブリン大統領、ベニー・ガンツ。(ロイター通信)
エルサレムでシモン・ペレス前大統領の追悼式典でのベンジャミン・ネタニヤフ、イスラエルのルーベン・リブリン大統領、ベニー・ガンツ。(ロイター通信)
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21 Apr 2020 08:04:23 GMT9
21 Apr 2020 08:04:23 GMT9

イスラエルの「青と白」連合の指導者、ベニー・ガンツによるベンジャミン・ネタニヤフ率いる政府に参加するという決定は、マキャベリ主義的な動きを意図したものだったが、今後何年も、イスラエル社会の政治的枠組みを不安定化させることになりそうだ。

衝撃的な動きの中で、ガンツは先月、危険な政治的妥協案を結び、これにより、彼は、与党リクードと青と白の両党を含む挙国一致内閣を組織する序章として、クセネトの議長になることとなった。しかし、この動きは最悪であることが証明された。ガンツがネタニヤフと手を組む意思を表明し、これにより信任されていない首相に救いの手を差し伸べるやいなや、彼の連合はあっという間に分裂することになった。

青と白は、2019年4月の総選挙を争うために結成されて以降、足元が揺らいできた。ガンツ(イスラエル回復等)やヤイール・ラピド(イェシュ・アティッド)、モーシェ・ヤアロン(テレム)など、連合の指導者らは、共通のイデオロギー的基盤ではなく、共通の敵ネタニヤフと、彼を失脚させたいという、燃えたぎる願望によって主に結束していたようだ。

ネタニヤフはイスラエルの在位期間が最も長い首相で、その在任期間の長さは、縁故主義や汚職の時代と無縁ではない。自身の政治的生き残りを確実にするために、極右政府連立パートナーに対していつでも譲歩できるネタニヤフは、実現可能な政治的ビジョンを用いることで、国に対してはほとんど何ももたらしてこなかった。

何年にもわたり、彼の敵は首相の行き過ぎた行為に対する対抗勢力にはほとんどなってこなかった。ネタニヤフはイスラエルの右派の有権者の支持獲得に成功した一方、いわゆる左派は、時には、イスラエルの選挙結果や世論調査で誤差の範囲を少し超える程度しか占められないほどにまで弱体化した。これを物語る例が、イスラエルのチャンネル12が今月行った世論調査だ。結果によると、調査日時点でイスラエル国民が総選挙で投票したとすると、この国の歴史ある労働党はクネセトで1議席も獲得しないことになる。

今から考えてみると、ガンツと彼による連合には、自分たちを「中道派」とブランディングする以外の選択肢はなかった。1年前に連合を組む時、彼らは不満を抱いているイスラエル人の様々なグループに訴えかけることを目指していた。政治的行き詰りと、経済格差に幻滅した右派有権者たち、強い野党勢力として復活する上で、伝統的な左派の力には信頼を失ってしまった左翼、無党派層、中道派の有権者などだ。

ガンツと彼の連合の計算は、イスラエルの有権者が1年足らずの間の3度の選挙に登場し、一度は不可能に思えたミッション、つまり、ネタニヤフ追放の動きに活気を与えたように、メリットがあることは証明された。最近の3月の選挙では、青と白はクネセトで33議席を獲得し、単独で組閣するには足りないものの、クネセトを掌握し、最終的には組閣できる比較的安定した連立を組むには十分だ。この数年間で初めて、ネタニヤフの政治キャリアは終わったように思えたし、重大な「汚職の嫌疑」をかけられている首相が、刑務所とは言わないまでも、裁判所に姿を見せる日が来るように思えた。

しかし、ガンツはジレンマに直面し、これは結局、ネタニヤフと挙国一致内閣を組むという一見奇矯な判断へとつながることになった。リクードを排除した政権を組むためには、青と白はクネセトの第3政治勢力、ジョイント・リストの元に結集したアラブ諸政党を取り込まなければならなかった。ジョイント・リストがガンツの危険な連合(この中には、イスラエル我が家のアヴィグドール・リーベルマンなど、イスラエルで最も悪名高い反アラブ政治家なども含まれていた)に参加することをいとわない姿勢を示したにも関わらず、青と白の指導者はその可能性を避けるために、あらゆる手を使った。

イスラエルにおける人種差別は最悪の状況にあり、アラブ諸政党に対するいかなる政治的譲歩も、2018年7月の愛国主義的な「ユダヤ人国家法」に明記されているように、多くのイスラエル人から「国のユダヤアイデンティティ」の裏切りとしてみなされたことだろう。

コロナウイルスのパンデミックで譲歩を強いられたかのように装った、彼の心の変化により、ガンツはネタニヤフと非常事態政府を組織し、アラブ・ジョイント・リストを除外することに同意した。3月26日、ガンツは議長に指名され、突然辞任したユーリ・エデルスタインに代わり、新政権の構成に関して、ネタニヤフのリクードと交渉する場を設けた。

ガンツが自身の決断の副次的影響を期待していたかどうかはどうでもよい。なぜなら彼は意識的に、イスラエルのアラブ社会がこの国の意思決定プロセスに参加する道筋をつけたイスラエルのユダヤ人政治家になるのではなく、悪魔と取り引きする選択をしたからである。

3回連続の選挙や、ますます右に傾くこの国の中道派の政治的論調を分断しようとする必死の試みなど、彼が取り組んできたことの全ては、大きな音を立てて崩れた。彼の青と白連合のパートナー、イェシュ・アティッドやテレムはクネセト準備委員会に対して正式にガンツの派閥から離脱することを申請し、認められた。

ガンツはジレンマに直面し、これは結局、ネタニヤフと挙国一致内閣を組むという一見奇矯な判断へとつながることになった。

ラムジー・バラウド

もし今イスラエルで選挙が行われれば、力を取り戻したリクードが40議席を獲得するのと比較して、ガンツの党がわずか19議席しか獲得できないというのは、驚くべきことではない。最終的に自分に有利に働くパワーバランスを利用して、ネタニヤフはその政治的立場を強固なものにし、裁判官の選任を強く要求し(これにより、将来訴追されても身を守れるようになる)、首相の座に就く資格をはく奪する決定を阻止する権利を要求している。

ガンツとネタニヤフが合意に達せなかったことを受けて、組閣作業は、今度はクネセトに移った。21日以内に組閣できなければ、国は4度目の選挙を行うことになり、リクードとその連合が確実に、圧勝するだろう。

イスラエル政治の「中道派」を復活させた人が最終的にこれを破壊することにもなるのは、皮肉なことだ。これにより、ガンツはネタニヤフを延命し、結果的にイスラエルの右派の権力支配を強化してしまったのだ。

  • ラムジー・バラウドはジャーナリスト、作家、パレスチナ・クロニクル紙の編集者。最新著作には「最後の地球:パレスチナ物語」(プルート・プレス、ロンドン)がある。バラウドはエクセター大学でパレスチナ研究の博士号を取得している。ツイッター:@RamzyBaroud
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