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今こそ新たな中東同盟のチャンスである理由

リヤドのキング・アブドゥルアズィーズ・カンファレンスセンターで湾岸会議諸国のリーダーたちとの会談に出席するドナルド・トランプ。2017年5月21日。(AFP)
リヤドのキング・アブドゥルアズィーズ・カンファレンスセンターで湾岸会議諸国のリーダーたちとの会談に出席するドナルド・トランプ。2017年5月21日。(AFP)
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10 May 2020 08:05:25 GMT9
10 May 2020 08:05:25 GMT9

ルーク・コフィー

COVID-19パンデミックが、中東における米国の地政学的な課題の多くを変えることはなかった。イランは今後もテロリストの代理人を通して「革命」を輸出し続け、国境を超えたテロ行為はシリアとイエメンを悩ませ続けるだろう。良くも悪しくも、ロシアと中国はこの地域への関与をより強めることを目指す。

それどころか、新たな課題も浮かび上がった。パンデミックの経済的な後遺症と石油価格の下落だ。

とはいえ、変わることもある。米国がそれらの問題に向けることのできるリソースのレベルだ。つまり、ワシントンは中東における関係の管理方法についてより賢くなる必要がある。今後注目するにふさわしい1つの構想が、トランプ政権の提案した中東戦略同盟(MESA)である。

今の中東には1949年のNATO創設につながったような歴史的・政治的環境がないため、この地域に同じように強力な集団的治安組織が存在しない。そのような組織を創設するアイデアは、2017年5月にドナルド・トランプ大統領が自身初となる外遊としてリヤドサミットに出席するため、サウジアラビアを訪問中に公になった。湾岸諸国はトランプの前任者とは不完全でリスクのある2015年のイラン核合意を巡って緊張関係にあったが、この新しい政権とは親密な関係を築くことを重視した。

MESAのコンセプトは、トランプが推し進める安全保障上のより公平な負担分担と一致していた。この考え方は、MESAの軍事能力が拡大すれば、ワシントンはこの地域の安全と安定を促進することができ、米国の軍事力を自由に他の地域へ展開できるというものだった。MESAには安全保障上の要素以外にも、米国と湾岸地域のより大きな経済協力に対するニーズもある。特にパンデミックが後退すれば、そのニーズは強くなる。

しかし、MESAは理論的には優れているように聞こえるが、実際に導入するのは3つの理由でより難しい。

まず、カタールとその一部隣国との間の紛争が、MESA創設を阻む一番大きな問題となる。これが解決されるまでは、それらの国が安全保障や経済同盟で同じテーブルにつくことができると考えるのは現実的でない。米国の政策立案者たちはこの紛争を終わらせる努力を倍加させる必要がある。

短期的な米国の目標は、将来その上に同盟関係を構築することができる強力な基盤を作ることのはずだ。ワシントンはただちにMESAを創設しようとする代わりに、中東のパートナー諸国と協力して信頼を築き、段階を踏んで最終的なMESA創設へとつなげることに取り組むべきである。

ルーク・コフィー

2つ目は、MESAがすべきことに関する明確なコンセンサスがないことだ。湾岸諸国の中には安全保障を重視したい国もあれば、貿易や経済を重視したい国もある。彼らは互いに矛盾しているわけではなく、包括的なMESAは安全保障や経済、貿易、そしてエネルギーにも注力すべきである。

最後に、この地域に対する最大の脅威に関する合意がない。バーレーン、サウジアラビア、およびUAEはイランからの脅威にタカ派的な視点をとっている。地域的な中立性を誇りとするオマーンや、イランと天然ガス田を共有するカタールは、テヘランとの友好関係を維持している。クウェートはその中間の立場だ。これがMESAのような同盟を創設する能力を複雑にしている。

それにもかかわらず、努力する価値はある。短期的な米国の目標は、将来その上に同盟関係を構築することができる強力な基盤を作ることのはずだ。ワシントンはただちにMESAを創設しようとする代わりに、中東のパートナー諸国と協力して信頼を築き、段階を踏んで最終的なMESA創設へとつなげることに取り組むべきである。

このことは、米国が特定の脅威ではなく、軍事力の向上により重点を置いた場合に実現できるだろう。多くの国はイランをこの地域最大の脅威と考えている。また米国は、ロシアや中国の役割が高まっていることも懸念している。しかし全ての国がこの地域に対して同じ見方をしているわけではない。湾岸地域のコンセンサスを決して喜ばない特定の脅威を重視する代わりに、米国は全ての国が一丸となって取り組むことのできる軍事・安全保障・機密情報収集能力の重要なギャップを確認するべきである。それによってMESAは、イランがこの地域に対する安全保障上の脅威の多くの源であることを公に明言しなくても、それら全ての脅威に対して準備することができるだろう。

また米国は、MESAに関するあらゆる提案の中で、安全保障、経済、およびエネルギーの間の適切なバランスを維持するべきである。MESAは3本脚(安全保障、経済、エネルギー)の椅子と考えるべきだ。もし1本の脚が他よりも長ければ、椅子全体が立っていられない。米国はあまりに長い間、一度にそれらの問題の1つだけを重視しすぎていた。それはこの地域における同国の利益促進にとって、健全または持続可能なやり方ではない。

善意の意思表示として、および米国が経済的自由と自由貿易の原則を確約することを示すため、トランプ政権は湾岸パートナー諸国に課した鉄鋼やアルミなどに対する不必要な関税を撤廃するべきである。いくつかの湾岸国は経済を多様化するために多くの努力を費やしており、鉄鋼やアルミがその重要な役割を果たす産業分野となってきた。それらの関税は米国の消費者にとって利益にならないだけでなく、米国と他の国々、特に中東諸国との関係性を不必要に悪化させもする。

米国は提案した同盟のミッション、役割分担、および長期的な目標について、幅広いコンセンサスを構築する必要があるだろう。その後でこそ、同盟創設を勢いよくスタートさせることができる。しかし世界がコロナウイルスのパンデミックに苦しんでいる今は、MESAにとって絶好のチャンスである。

ルーク・コフィーはヘリテージ財団ダグラス&サラ・アリソン外交政策センターの所長。Twitter: @LukeDCoffey

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