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ポスト・コロナの世界はいかなる姿か

米国大統領選は政策をめぐり未曽有の分裂を招いている。(AFP、ロイター)
米国大統領選は政策をめぐり未曽有の分裂を招いている。(AFP、ロイター)
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16 May 2020 08:05:28 GMT9
16 May 2020 08:05:28 GMT9

ハーリド・アブー・ザフル

2003年に重症急性呼吸器症候群(SARS)が大流行して以来、世界的なパンデミックのリスクをウイルス学者らはつとに警告していた。にもかかわらず、今般の新型コロナウイルスの危機に直面した世界はなお準備が万端とはいえなかった。それもまた、不幸なことではあった。

不運だったのは、米国大統領選の予備選の始まる時期とパンデミックとが同時したことだ。おりしも米国は政策をめぐり未曽有の分裂状態であった。この結果、新型コロナおよびその影響への対処に求められる大局的な政策について報道や議論があるべきところ、米国では話題はパンデミックのことよりも大統領選のほうに偏ってしまった。

米国は世界で重要な位置を占めリーダーシップもあることから、米国のこうした姿勢が国際政治にも確実に影響を及ぼしている。

非運はまだある。このウイルス禍は、そもそもウイルスの発生源である世界第2の大国中国と米国との間で緊張が高まっているちょうどその時期に到来した。このため世界が一丸となって対処するような望みも薄れるばかりとなったわけだ。

このように見通せない世界で、まだこの先1年は続くとみられる今回のウイルス禍の危機的側面が中東にどのような結果をもたらすのか、さらにはポスト・コロナの時代はいかなる様相を呈しようか、予断は許さない。

ひとつ確かなことは、たいていの国が地域の問題よりも国内事情に関心や総力を振り向けざるをえなくなろう、ということだ。

ウイルスが蔓延し、その感染スピードを緩和させるため講じざるをえなくなった都市封鎖の結果、各国経済と国家予算には壊滅的な打撃を与えているし、この先も与えつづけるはずだ。一部経済圏ではゆるやかな経済活動の再開がおこなわれているとはいえ、いまだ健康面の不安が払拭されているわけではないため完全な回復はしばし待たざるをえまい。ことに、予防措置を緩和した国々で感染者や死者の数がまたぞろ上昇しはじめでもすれば、そのまま振り出しに戻る。

世界は今やますます相互に結びついているわけで、こうした中でどこの国が経済で勝つか、ひいては地政学的な勝利を収めるか、などというのはおよそ決めがたいことだ。ましてどこも負債の山にあえぐとなれば言うも疎かだ。

自国の通貨で借入のできる国は、一見有利だ。これは主には米国および、政策を統合させることができた場合のEUについて言っているのだが、間接的には湾岸諸国で目下議論されている固定相場からの脱却のことでもある。

もうひとつ確かなこととして、これほどマネーが窮乏すれば、戦争にせよ代理戦争にせよ目の玉の飛び出るほど物入りである以上、どの国にしろ戦意も萎えるはずだということだ。結果的に他国への攻撃は減り、国家同士の合意も今よりはたやすく得られるようになるかもしれない。交渉の席に着くのも拒んできた国々やそのお仲間、あるいは代理勢力にしてももはや心を入れ替え角も取れるやもしれない。ひょっとすれば紛争地域からの完全撤退を強いられるということもありうる。

この間まんまと米国の最大圧力政策のターゲットとなってきたイランについて見たい。イランは国内にいろいろな問題を抱えている上に原油価格の低迷にまでさらされ、もはやイエメンのフーシ派やイラクの民兵組織、さらにはヒズボラなどへ財政支援をする余力はなくなっていくはずだ。

となればさすがのイランも、よもや他国にこれ以上手を出すようなことはしなくなるだろうか。確かなことは何も言えないが、国内に一旦騒擾あればそうしたこともありえない話ではない。

イラン問題の拡大と同時して、中東ではさらに独善的なトルコの台頭という現象がこの新型コロナの感染拡大という状況下で起こっている。トルコ経済も火の車であるだけにそんな場合ではないはずなのだが。

一朝一夕に起きた話なのではない。トルコは、自国の安全保障に関わる領域を超えてまで地域問題への関与を強めつづけている。隣国シリアまでなら、そこで紛争が起きればトルコの安全保障にも直接の脅威となるのだから手を出すのもまだわかる。だがトルコはリビアにまで触手を伸ばしている。リビア国内にはトルコを脅かすようなものは何もないしなんら首を突っ込む論拠などないにもかかわらず、トルコ政府はリビア国内でのプレゼンスを維持しようと躍起だ。同時して、トルコは今後ともアラブ諸国の国内問題にも干渉する姿勢を止めないことを示唆するような文言をいよいよ振りまきだしてもいる。

トルコが関与を深めようとしているのは欧州へエネルギーを供給するルート上の重要拠点ばかりであることが、仔細に検分すればおのずとわかる。トルコ政府にとってこれまでずっと最大の関心を払ってきた先が欧州であることを考えればこれは何も不思議なことではない。だからこそトルコはシリアでロシアと面と向かって張り合うのだ。ロシアとはつまり欧州への天然ガスの最大供給元だ。またシリアにはイランも強固に根を張っている。それは、イランが欧州へ天然ガスや原油を供給するにあたり、シリアが地中海における重要なアクセスポイントとなるからだ。

トルコがロシアに立ち向かうのは、欧州へ安定的にエネルギーを供給する根っこの部分でコックを管理したいからだ。そう考えるとトルコがリビアやその他の国に手を出すゆえんも合点がいく。イスラエル・ギリシャ・キプロスが進める東地中海パイプラインに渋い顔をする理由も同断だ。これをてこにさらに一儲けしたいと考えるトルコの戦略をいたく鼓舞するものだからだ。

こうしたことから、トルコが今後ますます目を付けていく先は地中海、サプライチェーンのルート、さらにはエネルギー供給のアクセスポイントであろうことは見通せる。東から欧州へ輸送されるモノからもむろん目を逸らすまい。

ところで、中国の一帯一路構想では、陸路はロシアルートとトルコルートとがある。トルコにしてもこの巨大プロジェクトのことは先刻承知のことであり、その「海のシルクロード」における重要拠点に自国のプレゼンスがあることを示したくてたまらない。再確認しておくが、トルコを衝き動かすのは自国の安全保障を案じたものではない。地域でどれほど幅を利かせられるか、だ。

新型コロナウイルスの感染拡大で中東の危機的局面が最終的にどう結果するか、予断を許さない。

ハーリド・アブー・ザフル

トルコとロシアはいよいよ多種多様な問題をめぐり現地対決しているわけだが、世界の二大国である米中がどちらもまったく口をはさんでこないのは見ていて一興ではある。また、本来ならいちばん関わりのあるはずの欧州の影も形もないのは一驚でもある。

世界の大国や地域の大国がその外交政策を振り向けて既存の紛争地域にどう対処するかを推し量ってみると、それぞれの国内における政治・経済・社会の安定が果たす役割は大きいはずだ。

しかし、弱みが明々白々であればそれはかえって、向こう見ずな振る舞いや危うい力の掌握への動きにもつながりかねない。こうした機微なバランスがこれからの国際政治を動かすキモとなるはずだ。株価についてはすでに不透明感が漂い振れ幅も大きい。これが地政学にまで広がるのだと言ってもよいかもしれない。

ハーリド・アブー・ザフルメディア・テック企業ユーラビアCEOまた、アル=ワタン・アル=アラビ誌編集人。

米国大統領選は政策をめぐり未曽有の分裂を招いている。(AFP、ロイター)

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