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コロナウイルスワクチンと抗ウイルス薬の支配をめぐる世界的ジレンマ

世界保健機関(WHO)世界会合の出席者たち。(Screengrab)
世界保健機関(WHO)世界会合の出席者たち。(Screengrab)
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22 May 2020 11:05:33 GMT9
22 May 2020 11:05:33 GMT9

中国の習近平主席が今週、世界保健機関の世界会合で演説を行い、コロナウイルス感染病(COVID-19)のワクチンを全ての人が利用できるようにするべきと強調した。これは、フランスの医薬品大手サノフィをめぐる議論とは全く対照的だった。サノフィのポール・ハドソンCEOは先週、同社が生産する全てのワクチンはまず米国で利用可能にすると宣言していた。米国が同社のワクチン開発に最も貢献したからだ。これにフランスのエマニュエル・マクロン大統領が待ったをかけ、フランスの企業がそのようなやり方で外国に優先順位を与えることは許さないと断言した。その後、同社は誓約を撤回した。

私たちは今、ワクチンと治療薬が世界的な公共財を構成するのかどうか、あるいはそれらの利用は知的所有権を持つ国や企業に支配されるべきなのかどうかという問題をめぐり、議論の真っ最中である。

この問題はしばしば、ノバルティスの脊髄性筋萎縮症治療薬ゾルゲンスマのような超高額の薬に関して議論される。同薬は210万ドルという法外な価格が設定されており、その利用可能性は、健康保険の体制や国の医療サービス制度が受け入れ可能な水準をはるかに超えている。ましてや一般家庭が利用できる価格ではない。抽選を通して100治療周期分提供するという同社の決定も、議論を静めるには何の役にも立たなかった。

ゾルゲンスマは特定の稀な病気を対象とする特定の薬である。公衆衛生の非常事態について論じる場合は、物事はずっと複雑になる。WHOとの多くの問題を抱える米国は、貧しい国々が特許を無視してCOVID-19のワクチンや治療を利用できるようにする決議への支持を、明確に拒絶した。中でも議論の争点となったのは、その提案が、公衆衛生の非常事態の場合に国が知的所有権を却下することができるようにする、世界貿易機関(WTO)の2001年ドーハ宣言に言及していたことだった。英国、日本、およびスイスも、ドーハ宣言に言及する言葉に反対したと言われる。米国同様、医薬品はそれら3ヶ国の経済にとって重要な産業なのである。

それでは、誰が治療薬の利用を最終的に支配するべきかという問題に戻ろう。企業か、国か、あるいは世界公益か。この3つのアプローチには全て、説得力のある議論がある。

新薬の研究開発は非常にお金がかかるため、企業には投資に対して利益を得るという経済的ニーズがある。もしそうすることが許されなければ、今後は研究開発にお金をかけなくなるだろう。病気に対する画期的な新しい治療法がなければ、人類全体の生活が悪化することになる。

一方で、国には国民の面倒を見る受託者責任があり、公衆衛生は明らかにその責任の一部である。先進世界の一部の国は全ての国民が確実に医療を利用できるようにしており、英国の国民医療サービスはそのようなモデルの代表である。米国など他の国では、特に貧しい人々にとって医療はもっと利用しにくい。ただ、COVID-19パンデミックは個人用保護具に関して「医療ナショナリズム」が特徴だったことは間違いない。そしていったんワクチンや抗ウイルス薬を手に入れれば、その特徴がより顕著になることは必至である。一部の国では、研究が部分的に納税者からの資金提供を受けていた場合、当該納税者が特定の治療薬を最初に利用する権利を要求することも、妥当な議論となる可能性がある。その最近の事例が、英国のアストラゼネカである。同社は今週、オックスフォード大学と共同のCOVID-19ワクチン開発計画に対して、米国生物医学先端研究開発局から10億ドル以上を受け取っている。

世界公益がふさわしいとする議論は、特に公衆衛生危機の際には優れている。パンデミックからの救済手段は人類全てに対して利用可能にするべきであり、それが究極の大義のためである。人道主義的な側面はさておき、もし貧しい国々でパンデミックが急速に広がることを許せば、至るところで相互につながった世界においてパンデミックを封じ込めることはできない。言い換えれば、および今回の特定のケースでは、COVID-19ワクチンや抗ウイルス薬をすべての人が利用できるようにすることが、人類全体の利益にかなう。このことが、2001年11月のWTOドーハ宣言に各国大臣たちが同意した理由を説明している。

私たちは商業的利益、国益、および世界公益が交差するところにいる。

コーネリア・マイヤー

私たちは商業的利益、国益、および世界公益が交差するところにいる。残念なことに、最初の2つはより多くの資金提供を受ける傾向があり、利己主義が3つ目よりもより簡単に支持されがちである。何かが世界公益として広く同意されるまでには、多国間、学問分野間、多極間での多くの話し合いと共に、多くの時間を要する。今回のパンデミックの場合、私たちには時間がない。多国間の仕組みも最近数年にわたって弱体化していた。このことは、WTOをめぐる現在の議論において特に明らかである。多国間組織が最大の国々の支持を得ずに機能することは難しい。世界最大の経済国が明確に反対していては、機能することなど不可能だろう。

結局のところ私たちにできるのは、パンデミックを世界中で封じ込めることが全員の利益にかなうということを、世界中の国々が理解するように願うことだけである。このことが、COVID-19ワクチンと抗ウイルス薬を地球上の全ての人類が利用できるようにするための、最も強力な論拠となる可能性がある。そこにたどり着くまでの道は簡単ではないだろう。資金的な要素だけではなく、物流の面でも大きな課題がある。そのどちらも、企業、国、そして多国間組織の協力と指導力を必要とする。

コーネリア・マイヤーはビジネスコンサルタント、マクロエコノミスト、およびエネルギー専門家。Twitter: @MeyerResources

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