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マクロン氏の「統一政府」がレバノン国民の期待を裏切る理由

フランスのエマニュエル・マクロン大統領が2020年8月6日、レバノン軍人に護衛され、ベイルート港の爆発現場を訪問。(AFP)
フランスのエマニュエル・マクロン大統領が2020年8月6日、レバノン軍人に護衛され、ベイルート港の爆発現場を訪問。(AFP)
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12 Aug 2020 12:08:20 GMT9

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は先週、レバノンでカリスマ的な攻撃を仕掛けた。壊滅的な爆発の余波の中、マクロン大統領はベイルートに向かいレバノンの人々に演説し、支援の意を示した。エリート政治家達を、宿題をサボった小学生であるかのように叱りつけて。

何万人もの絶望したレバノン人が、フランスの委任統治の返還を求める請願書に署名した。マクロン大統領はジェムマイゼ地区に行き民衆と対面したが、レバノンの大統領と首相には、民衆の怒りに直面する勇気はなかった。その代わりに、彼らは事前に用意された台本通りの演説をしただけだった。

マクロン氏はレバノンの人々に変化を約束し、9月の初めに再訪した際に改革が行われていなければ、その時には処置を行うと語った。彼は 「政治的契約」、「政治的変化」、「統一政府 」などの、新鮮で魅力的なバズワードをレバノン人に浴びせた。帰り際にはアラビア語で 「愛してるよレバノン 」とつぶやいた。しかし、彼がもたらす実際の変化とは何なのだろうか。彼はどのようにして政治的変化を促すつもりなのだろうか?

マクロン氏の愛の宣言は、ヒズボラに正統性を与えていると見なされ、多くの人を失望させた。マクロン氏はドナルド・トランプ米大統領に接触し、ヒズボラへの制裁は逆効果であるとして制裁を緩和するよう促した。レバノンで広く言われているのは、マクロン氏の計画は、ヒズボラからの譲歩と引き換えにサード・ハリーリー氏を統一政府に復帰させることだというものだ。マクロン氏は、もはやレバノン人の代表ではないはずの指導者について語っているのだ。実際、レバノン人はベイルートのダウンタウンに集まり、政権を象徴する絞首台から指導者達の銅像を吊るして、現在の政治エリートに対する全面的な拒否を表明していた。

デイビッド・ヘイル米政治担当国務次官は水曜日にレバノンを訪問し、今回の状況について協議する予定だ。ヘイル氏はこれまでレバノンに柔和な姿勢をとってきたことで知られているが、今回はレバノン指導部に厳しいメッセージを伝える可能性が高い。マクロン氏の努力がアメリカの政策に影響を与える可能性は低いのだ。議会の人々はこのような事態に憤慨している。民主党の上院議員であり、上院外交委員会のメンバーであるジーン・シャヒーン議員とクリス・マーフィー議員は声明を発表し、レバノンに必要とされる変化をもたらすために、米国のレバノンへの関与をさらに強めることを求めている。

ジェマイズで人々に会う中で、マクロン氏は以前フランスが自らの手で革命を起こしたことを思い出させた。しかし、現在のレバノンは1789年のフランスとは大きく異なる。フランスではブルジョワジーと民衆が王とたるんだ貴族に立ち向かっていたのに対し、レバノンでは外国の支援を受けた民兵が内部で活動している。

マクロン氏が変化を促す手段として挙げた投票についても、レバノンの選挙は現在、既存の政治エリートを常に再選させるように設計され、調整されている。マクロン氏の提案に賛同し、レバノン軍団党のサミール・ジャアジャア党首は、現行法を利用した早期選挙を提案している。レバノンがこの道を歩めば、2005年と同じような状況になるだろう。当時、ラフィーク・ハリーリー氏の死を受けてデモ隊が街頭に繰り出した。暗殺に嫌気がさした人々はハリーリー陣営に投票したが、ほとんど変化は無かった。腐敗した人々は依然として権力を持ち、2008年5月7日、ヒズボラは武器を使って反対派を脅迫した。その後、ヒズボラは議席の過半数を獲得し、国を支配するに至った。

彼らは刹那的で偽りの安定と引き換えに、妥協点に落ち着くべきではない。

デイニア・コライラット・ハティーブ教授

マクロン氏はベイルート訪問後、トランプ氏を含む世界の首脳15人を集め、レバノンへの即時救済を約束した。しかし、2億9700万ドルの寄付金は、同国の財政・経済的な問題を解決する可能性は低い。マクロン大統領はまた、爆発事故に関する独立した国際的な調査を要求した。アントニオ・グテーレス国連事務総長もこの呼びかけに反応した。しかしレバノンのミシェル・アウン大統領は、国際的な調査は国の 「主権 」を侵害するものだと主張し、調査を拒否した。

国民の怒りを鎮めるために、傀儡政権は辞任した。しかし何も変わっていないし、新たに選ばれた政府も何も変えられないだろう。制度が政治的エリートに合わせて作られたものであり、国民の真意を表すものではないからだ。2005年とは異なり、レバノンの人々は政治的な策略に騙されるべきではない。マクロン氏の 「統一政府 」の呼びかけにもあるような、刹那的で偽りの安定と引き換えに、妥協点に落ち着くべきではない。

国際社会、特にアメリカは、国際的な調査を要求することでレバノンを援助することができる。フランス人、アメリカ人、オランダ人が爆発で負傷したり命を落としたりしているのだから、その権利がある。そういった調査は政治的エリート全体を告発することに繋がるのだ。一般的な言説として、ヒズボラが学校、病院、教会、モスクに近い民間施設の港に違法に弾薬を保管していたとの非難が高まっているため、ヒズボラにも罪を着せることになるだろう。

米国にとっての主な問題はヒズボラであり、反ヒズボラムードを利用できることが主なチャンスかもしれない。しかしレバノン人にとっては、組織の腐敗という、それをはるかに超えた問題である。制度的な腐敗が蔓延しており、クウェートからレバノンに提供された支援金の横領や支援物資の売却が話題になっている。

したがって、変革の原動力はレバノン人自身でなければならない。これが構造改革を促す唯一のチャンスかもしれない。彼らは現実を変えるために外部の援助に頼ったり、待ったりしてはならない。自分たちの運命を自分たちの手に委ねなければならない。やるか、さもなければ死ぬかという状況である。腐敗した政権が全て消えるまで、彼らは地に足をつけて街頭活動を続けるべきだ。「Killun yaani killun」(「全て」と言ったら「全て」)。

  • デイニア・コライラット・ハティーブ教授は、ロビー活動を中心とした米国・アラブ関係の専門家である。エクセター大学で政治学の博士号を取得し、ベイルート・アメリカン大学のイッサム・ファレス公共政策・国際問題研究所の客員研究員を務める。
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