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レバノンのやり口がまたお決まりの中途半端な結果を出す

ミシェル・アウン大統領(左)がムスタファ・アディブ次期総理大臣とバーブダの大統領官邸で会談する。(AP写真)
ミシェル・アウン大統領(左)がムスタファ・アディブ次期総理大臣とバーブダの大統領官邸で会談する。(AP写真)
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25 Sep 2020 01:09:28 GMT9

9月21日(月)の記者会見で、病を患うレバノンのミシェル・アウン大統領はスピーチの原稿を読むのに苦労していた。そして、もしも新政府が発足されなければレバノンはどう なるのかという質問をした記者に対し、冷たい口調でこう答えた。「地獄行きだ」

新政府がなんとかかんとか樹立されたところで、レバノンが救済されることはないだろう。フランスのエマニュエル・マクロン大統領が訴えるような具合にはいかないのだ。山積する諸問題やその解決策はムスタファ・アディブ次期総理大臣や彼の後継者ハッサン・アディブとその閣僚たちによって解決されることにはならない。アディブ親子は二人とも、生き残るためには手段を選ばない腐敗した権力構造の隠蔽役に過ぎないからだ。

まず第一の作戦は、自由愛国運動(FPM)とヒズボラとを明白に断絶させることだ。大統領党派によると、異なる省庁が特定の宗派に対して予算を取り分けることはしないとして、次期政府の金融資産に対するヒズボラの要求を拒むという。しかし、このような整合性を盾に取った大芝居によって頭のキレる観察人を騙すことはできない。ヒズボラ-アウン同盟の基礎を固めた協定が破棄されることは当分ない。FPMはヒズボラのクライアントであり、アウン大統領はイランを後ろ盾とするヒズボラ集団の財務支援なくして彼の側近や支持者グ ループを保持することは不可能なのだ。

それにもかかわらず、制裁という亡霊がアウン大統領の溺愛する義理の息子でアウン大統領党派の指導者の座あるゲブラン・バッシルにつきまとっているため、彼とはある程度の距離を置いて(少なくとも公には)、長年の確執はおくびにも出さずに付き合うことが必要とされる。それによって政府発足の可能性が出てくるからだ。アウン大統領が自分の権力を維持でき、マクロン首相に褒め称えてもらえるような政府の樹立の可能性が。マクロン首相は国際コミュニティの間でこのぶざまなプロジェクトの正当性を宣言することになっているのだから。

マクロン首相は、改革を実行できるような専門者集団による真の政府を樹立させるために権力を放棄することを真剣に考えている政党など皆無だということは承知しているのだが、彼はそれでも一か八か成し遂げたいと思っている。マクロン首相は、もしも彼がレバノンに関するイニシアチブで敗北を認めれば、国際舞台においても自国においても政治的発言力を失うことになる。彼は政治的資産を失うわけにはいかない。特に、中東でヨーロッパの政治を先導しようとしている今、どうしてもその中東でさらに顕著な役割を果たしたいのだ。

ヒズボラ-アマル運動同盟はフランスの政府機関を保持するよう主張し続けてきた。自らをシーア派コミュニティの代弁者かつ法的保護者とするのが目的だ。このためにもう一つの作戦が必要となった。サード・ハリーリ前総理大臣はアマル-ヒズボラの要求に同調するようなイニシアチブを提案した。それは、金融資産をシーア派の大臣へ託して、その大臣をシーア派同盟者ではなく総理大臣代理とする、という提案だった。最初彼らはそのイニシアチブを拒否したが、後になって前向きな姿勢を見せるようになり、フランスに9月23日(水)夜に設定されている新政府の樹立期限の延長を促した。

ヒズボラとアマルが自分たちを代表する大臣を立てたい一つの理由は、政府との取引の一部を内密にしておきたいからだ。ヒズボラはイランから資金提供を受けているが、レバノン政府と契約を交わしている彼ら自身の企業を保有している。米国による制裁の最終ラウンドはヒズボラ関連の企業を標的としていた。自分たちがコントロールできず、何年も続いてきた怪しげな取引を暴露するような財務大臣には用は無い。

11月の大統領選挙を待つ一方、現在の米国ポリシーは無関心と不介入のアプローチに特徴付けられている。ヒズボラやその取り巻きへの制裁措置に限定し、そのグループが滅びていく様子を監視するシステムを離れたところから見つめているだけだ。こうした米国の緊縮体制と、実質よりも勝利を追い求めるフランス大統領では、本当の解決は程遠い。今後3ヶ月、新政府の樹立があろうとなかろうと、レバノンは地獄へと向かっていく。外国準備預金の枯渇により、レバノン・ポンドの対米ドル交換率は急騰し、生活必需品への補助金は外され、レバノンはどん底まで落ちるだろうと経済学者たちは考えている。

その上、レバノンは度々爆発事故に見舞われている。今週はアイン・カナの武器貯蔵庫で爆発事故があった。アナリストたちによると、その爆発の背後にはイスラエルの影が感じられるという。問題は、もしイスラエルがレバノンの武器倉庫をすべて標的とするような計画をもっているとしたら、レバノンが現在経験している困難な状況をさらにずっと複雑にすることになるということだ。

レバノンが改革を実施しないなら、彼らを本気で助けようとする者はいない。しかし、現在の政治体制が改革を邪魔している。

ダニア・コレイラット・カティブ(Dr)

9月23日(水)、アウン大統領が国連総会でスピーチを行い、先月の悲惨なベイルート爆発事件後に寄付をしてくれた諸外国の指導者たちに感謝の意を述べた。しかし、レバノンはどの地域の国からもその政策の中心には置かれておらず、レバノンを見殺しにしたからと いってひどく心を傷める指導者も、おそらくマクロン大統領をのぞいては、いないのだということに気づいていない。レバノンが改革を実施しないなら、彼らを本気で助けようとする者はいない。しかし、現在の政治体制が改革への動きを邪魔する惰性を生み出している。フランスが今後の脆弱な新政府に対して何らかの援助をする可能性はある。しかしそれはレバノンの崩壊を逆行させるというよりは、そのスピードを遅くすることによってレバノンの苦しむ時間を引き延ばすことになるだけだ。

抜本的な変化が起こらない限り、アウン大統領が吐き捨てるように言ったように、レバノンは本当に地獄へ向かう。たとえアディブが政府を発足させたとしてもだ。

ダニア・コレイラット・カティブ博士は米国-アラブ関係の専門家で、ロビー活動に注力している。彼女はトラックIIに焦点を当てたレバノンの非営利団体である協力と平和の構築のためのリサーチセンター(Research Center for Cooperation and Peace Building)の共同創設者である。また、ベイルート・アメリカン大学のイッサム・ファレス公共政策・国際情勢研究所の提携学者でもある。

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