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COVID-19のワクチンに不信感を抱いている人が多いのはなぜなのか

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19 Dec 2020 07:12:42 GMT9
19 Dec 2020 07:12:42 GMT9

我々が首を長くして待っていたCOVID-19のワクチンが、いくつかの国で利用できるようになり始めている。既にワクチン接種を受けた人が増えている。

学校を再開し、旅行を再開し、家族や友人を抱きしめる。我々がやっと普通の生活を再開できる日が近いうちに訪れるだろう。皆が大急ぎで、できるだけ早く注射を打ってもらおうとするのは、頭を悩ませる問題だとは思えないだろう。そうではないだろうか。

答えは・・・・・・否。物事はそんなに単純でもなければ、それほど明白でもないことが分かった。多くの人がワクチン接種を受けたがっておらず、完全に反対している人もいる。その理由を探る前に、このような消極的な考え方は広く受け入れられているものなのか、それとも単に、ごく一部の少数派の感情がメディアによって誇張されたものなのか、よく考える必要がある。

10月、名高い医学誌、ネイチャー・メディシンが、6月に行われた、19カ国の1万3000人を対象にした、COVIDのワクチン(およびその他の問題)に対する考え方に関する調査の結果を発表した。

「実証済みの、安全で効果的なワクチン」の接種を受けるかどうか尋ねたところ、71.5%が「はい」と答えた。許容する人の割合が最も多かった国は中国で88.6%、最も少なかった国はロシアで54.9%だった。米国は75.4%だった。

アラブ世界では、テレビのニュースチャンネル 、アルアラビーヤが視聴者に、ワクチンが利用可能になったらすぐに接種を受けるのか、接種が始まったら何が起こるかしばらく様子を見るのか、それとも接種を完全に拒否するのか、尋ねた。回答により、24%ができるだけ早くワクチン接種を受ける予定で、40%がしばらく待つつもりで、36%が接種を受けるつもりが全くないことが明らかになった。

したがって、ワクチンに不信感を抱いている人は世界中でかなりの数いて、完全に拒絶する人もある程度いるようだ。世界保健機関はこのことを、世界が直面している健康問題トップ10の一つだと考えている。

COVIDのワクチンに関して一部の人々が持つ、この、ためらいや疑い、恐怖、怪しみ、その他の否定的な感情の原因は何なのか。

一部の調査では、人々に対し、ワクチン接種への抵抗感について説明するよう求めている。その理由は、二つの主要な問題に焦点を合わせる。ワクチンが開発されたスピードと、ワクチンの安全性および有効性に対する確信の欠如だ。

ワクチン開発と試験には通常、数年掛かると指摘する人もいる。エイズを発症させるウイルスであるHIVが確認されてから40年が経っても、我々はHIVに対する防御を与えるワクチンを入手していない。それなのに、ちょっとした奇跡が起こったかのように、COVID-19用の(複数の技術を使った)複数のワクチンがわずか9カ月で開発されたと指摘する人もいる。

我々は皆、ワクチンがウイルスを消滅させるわけではないことを理解する必要がある。感染は既に広がっている。ワクチンは感染拡大を防ぎ、重症度を軽減するだけだろう。

ニダル・ゲッスム

このことについての説明は簡単だ。今回の未曾有の危機は世界中の経済を破綻させ、数十億人の日常生活に影響を与えた。そのため、数千人の科学者がこの難題に取り組み、各国の政府は、ワクチンを開発するための研究に数十億ドル(米国政府だけで180億ドル)を投資した。

さらに、科学は近年、全体的に進歩し、特に遺伝学の分野では、これまでワクチンに使用されたことのない、mRNA技術のようなブレークスルーが起きた。

長期にわたる安全性と有効性の問題に目を向けると、全てのワクチンは数カ月にわたって数万人のボランティアを使って試験された。数千ページに及ぶ、ワクチンおよびワクチンに行った試験に関するデータと情報が、英国と米国を含む、多くの国の規制当局に提出され、審査と承認を受けた。

もちろん、多くの人がワクチン接種を受けた後、1年もしくはそれより後に、めったにない副作用が確認されないことを保証することはできないが、厳しい選択をする必要があった。世界中で毎日何千人も死んでいるのに、めったにない副作用が起こるか調べるためにもう1年待つのか。それとも、非常に少ない副作用のリスクを受け入れ、特にウイルスに最もさらされている人たちや、命に関わる症状を起こすリスクが最も高い人たちにすぐに接種を開始することで、できるだけ多くの人を救おうとするのか。

ワクチンへの不信感の第三の、あまり一般的ではないが広く受け入れられている理由は、政府や製薬会社、そしてビル・ゲイツのような、影響力があり裕福な個人の動機を疑う陰謀説に大きく分類できる。

最後だが重要なのは、COVID-19の、簡単だが効果的な「治療法」(特別なハーブドリンク、ビタミンなど)があると、誤って信じている人がまだ多くいることだ。「いちかばちか」「実証されていない」ワクチンに手を出す必要はない。

では、どうすればワクチン接種を受けるよう促すことができるのだろうか。

第一に、保健省などの公的機関に対する信頼を構築することが重要だ。ワクチンを承認するかどうかの決定を下す前に、専門家がワクチンに関するデータを一つ一つ検証していることを人々に納得させる必要がある。これらの専門家やその家族がワクチン接種を受ければ、専門家が安全性や有効性を確保するためにデータをしっかり検証していると確信することができる。

政治家や当局者、その他の著名人が最初にワクチン接種を受けられるようにし、この事実をメディアで強調することも重要だ。

第二に、住民の大部分(「集団免疫」を獲得するには少なくとも60~70%が必要)がワクチン接種を受けるには、多くの国でおそらく1年以上掛かるだろう。製造能力は限られているため、世界中で必要とされる数十億回分のワクチンを製造するには時間が掛かる。最初の人がワクチン接種を受けてから数カ月後には、安全性を心配する人にも、よく見られる重篤な副作用がないことが明らかになる。

我々は皆、ワクチンがウイルスを消滅させるわけではないことを理解する必要がある。感染は既に広がっている。ワクチンは感染拡大を防ぎ、重症度を軽減するだけだろう。 我々科学者、教育者、コミュニケーターは、ワクチンがどのように開発・製造されているか、そしてパンデミックにおけるワクチンの重要性について、一般の人々を教育するために一層の努力をする必要がある。我々は、科学と公的機関に対する理解と信頼を構築する必要がある。

今はトンネルの出口の明るい光が見える。確実に、なんとか無事にたどり着けるようにしよう。

  • ニダル・ゲッスムはアメリカ大学シャルジャ校の教授。Twitter: @NidhalGuessoum
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