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「2021年に期待される日本のリーダーシップ」

(AFP)
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19 Jan 2021 07:01:22 GMT9
19 Jan 2021 07:01:22 GMT9
  • 一般財団法人日本エネルギー経済研究所 豊田正和理事長の2021年新年のメッセージ

東京:  新年おめでとうございます。2020年は、コロナ対策に明け暮れた1年であった。エネルギーの世界だけを見ても、よく言って曇天、時に土砂降りに見舞われた年であった。2021年には、晴れた空を見ることができるだろうか。関係国の政策、関係者の意思に掛かっている。日本のリーダーシップが期待されている7つの分野に整理して、問題提起をしたい。
 
第一に、アフター・コロナに備えることだ。景気対策は、ここでは語らない。コロナ問題は、エネルギーにとって外生要因なのだから。早ければ、春までにはワクチンが普及し、「晴れ間」が見えてくる可能性はある。重要なことは、デジタライゼーションの進展といった新潮流と、エネルギーの安定供給という構造的な課題を混同しないことだ。エネルギー投資が急速に減少している。日本は、石油、ガスについての自主開発目標40%を更に高め、着実な投資に努める必要がある。やがて、エネルギー需要はアジアを中心に増加軌道に戻るだろう。日本は、サプライチェーンをアジアに広げている。日本の石油備蓄は消費量の200日分を超えても、インドやアセアンの国々は、10~40日分の備蓄にとどまる。天然ガスについては、貯蔵の困難さから、2~3週間分の備蓄しかない。アジアワイドの共同備蓄も、喫緊の課題だ。
 
第二に、日本らしい気候変動対策だ。2020年は、主要国の2050年カーボンニュートラルの宣言が出そろった年だ。既に、表明済みの欧州に加え、中国、日本、韓国などが続き、1月末にバイデン氏が大統領に就任すれば、米国も加わるだろう。日本は、本当にできるのか。答えは、化石燃料の脱炭素化にある。化石燃料から、CCS(炭素回収・貯留)を用いて造るゼロ・カーボン水素・アンモニアがそれであり、カーボンリサイクル技術がそれである。再生可能エネルギーが主力電源化することは自然であり、ゼロ・カーボンの原子力の維持は最低必要だが、共に電源であり、電力消費は最終エネルギー消費の3割弱に過ぎずない。電力化が進んでも、全体の5割は困難だろう。その他は、多くが化石燃料の脱炭素化に期待される。
 
第三が、エネルギー・環境面における日米協力だ。バイデン新政権とは、現実的なエネルギー・環境政策を協力して進める必要がある。化石燃料の脱炭素化対策も、その一つだ。米国の世論も、太陽光や、風力発電等の再生エネルギーに期待する声が大きいが、一次エネルギーに占める割合は、2018年時点で、7.8%に過ぎず、7.3%の日本と大差はない。一方、化石燃料は、82%を占める。米国は、シェール革命の結果、石油、ガスの有数の産出国となり、今や輸出国でもある。また、石炭生産・消費国としても有数である。国内に、CCSの適地も多々あり、カーボンリサイクル技術にも関心を有している。日米が協力して、アジアの国も巻き込み、インド太平洋協力の一環として、化石燃料の脱炭素化を進めればよい。
 
  第四が、気候変動対策としての日中韓協力だ。残念なことに、過去の歴史認識・対応に係る見解が異なるがゆえに、日中韓の首脳会議の開催が、危ぶまれている。しかし、この三ヵ国は、エネルギー起源CO2排出量で、5位、1位、8位に位置する隣国同士であり、ほぼ同時期に向けて、ネット・ゼロカーボン宣言をしている。領土問題や元徴用工問題などに解が見いだせなければ、国際司法による解決への道を粘り強く探ればよい。
 
第五が、今も、将来も重要な中東安定化対策だ。日本は、石油においては8割超、天然ガスにおいては2割超を中東に依存している。しかも、中東は、コロナが収束すれば潜在成長力の高い地域として期待される。数年来、安倍前総理が、率先して和平協力に力を注いできた。化石燃料の脱炭素化の主要なパートナーであり、昨年の秋、当所もアラムコ等と協力して、ゼロカーボン・アンモニアの混焼、専焼実験を行っている。バイデン政権が、イラン核合意に復帰すれば、中東全体の安定化につながる可能性もある。日本は、引き続き、中東地域の安定化の先頭に立つべきだろう。
 
第六が、地政学的にも重要な原子力対策だ。原子力は、3E の優等生であるが、2011年の福島第一原子力発電所の事故のゆえに、国民の信頼を十分に回復しきれていない。原子力規制委員会は、着実に安全審査を行い、これまでに9基の再稼働が実施され、2020年には4基の追加的再稼働の可能性がある。一部の裁判所の判断には、堂々と反論していく必要がある。原子力を巡っては、日本の原子力政策の成功と米国との協力無しには、中露に世界の原子力秩序形成を主導される可能性が高いとする、アトランティック・カウンシルが先月発表した地政学的分析は示唆深い。
 
最後が、第6次エネルギー基本計画への対応だ。昨年の10月中旬に開始された基本政策分科会における当該審議が本格化を迎える。従来は「できることしか約束しなかった」日本が、カーボンニュートラルを宣言したことで、世界の注目を集めている。何が、これまでと違ったのか。既述の化石燃料の脱炭素化に、一定の自信を持ったことだろう。昨年は、経済産業省が、水素閣僚会議を開催して3年目、カーボンニュートラル産官学国際会議を開いて2年目を迎えた。水素・アンモニアについては、再生可能エネルギー・ベースで水を電気分解するグリーンアンモニアと、化石燃料ベースでCCSを活用したブルーアンモニアがある。やがては、原子力ベースの水素も出てくるだろう。色は問わない。如何に、安く、大量に確保するかであろう。とりわけ、アジアを中心とする新興・途上国は、低廉さを求めている。教育の充実や経済成長を、気候変動対策に優先することを非難はできない。先進国の役割は、イノベーションと国際協力により、可能な限り安価な気候変動対策を用意することにある。
 
上記、7つの分野において、日本は、世界のために、現実的な処方箋を用意すべくリーダーシップを発揮することが求めれている。エネルギーの世界に、「晴れた空」を取り戻す、最も確実な道となるはずだ。皆様のご多幸を祈念して結語としたい。 
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