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フューチャー・インベストメント・イニシアチブ 1日目:エコノミストの視点

全体として見れば、重大なリセットに焦点を置いたカンファレンスの進め方には先見性があり、実利的かつ具体的だった。(ロイター)
全体として見れば、重大なリセットに焦点を置いたカンファレンスの進め方には先見性があり、実利的かつ具体的だった。(ロイター)
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28 Jan 2021 09:01:12 GMT9
28 Jan 2021 09:01:12 GMT9

リヤドで開催された「フューチャー・インベストメント・イニシアチブ(FII)」カンファレンス初日は、エコノミストの目から見て、大変魅力的な視野を展開するものだった。

今年、同イベントのテーマとなったのは「ネオルネッサンス」だ。これは、世界経済がCOVID-19のパンデミックから浮上する時、私たちの暮らしが決定的に変わっているという事実を反映している。

FIIを他のカンファレンスから際立たせているのは、それが現実にしっかりと基づいている点だ。そして実践者でもある各分野のリーダたちが、それぞれの見解を共有している。彼らの見識は時代を先取りしたものであり、同時に具体的でもあった。

1日目は、地理的にもテーマの観点でも大変よくまとまっていた。テーマに含まれていたのは、投資による世界経済の形成、ESG(環境、社会、企業統治)投資の重要性、そしてヘルスケア、業界、貿易、投資、エネルギー、テクノロジーや仕事の未来などだ。一方で、サウジの視点とリーダーシップも強調された。

このように幅広い話題が取り上げられたことは重要だ。なぜならCOVID-19は、世界中のあらゆるセクターで国々と経済を試したからだ。今後どのような展開が待っているのかをより深く理解するには、起こった変化のあらゆる側面を調査するしかない。スピーカーの一覧には、国際金融、業界や政府の有力者たちが名を連ねていた。

1日中議題に上った主要テーマには、未来の投資パターンについての地理的およびセクター別の側面、そして資金配分のESG原則があった。また、それらのテーマがサウジアラビアと他の湾岸諸国へどのように影響してきたかに自然と関心が向けられた。

実体経済の観点では、2020年が難しい年だったことは疑いようがない。国際通貨基金の最新レポートによれば、世界中で2.25億人が職を失い、世界のGDPは3.5%縮小した。

しかしながら年の後半には米国とアジアの株式市場が次々と記録を更新し、金融市場は好調だった。これは、金融措置と財政刺激策による何兆ドルもの資金によって支えられた。世界経済がどのように前進するのかという質問への答えは、主要諸国がワクチンの接種でどれだけ迅速に集団免疫を獲得できるかにのみかかっているのではない。それは、金融セクターがどのように実体経済を形成していくかにも左右される。

流動性が金融セクターに影響を与える仕組み、そしてその実体経済とのつながりについて、指導者たちが熟慮するのを耳にするのは有意義な体験だった。公的流動性と民間流動性の両方が投資と物を追うことになる。それは、結果としてインフレ圧力をもたらすかもしれない。

中国の資本市場が世界の投資家へ開かれたのを受け、その比率は2015年の2パーセントから2020年には60パーセントへ増加した。最も適切なマクロ経済/地政学的観測は、人民元が重要性を増していくのを予測すべきだったことだ。西から東への経済力のシフトは以前から起こっていたが、パンデミックによってそれが加速したのだ。このトレンドは持続するだろう。中国経済は、世界のその他の地域よりも迅速に回復することが確実視されている。

FIIは、最高の頭脳を招集した。そして、より良い未来を作る機会として世界がパンデミックを利用するには何が必要か、彼らの考えを実際に共有したのだ。

コーネリア・メイヤー

カンファレンスで示された視点の1つに、回復力を高めるため、サプライチェーンをローカライズしようとする国々の取り組みが一層強化されるかもしれない、というものがあった。2020年に海外直接投資が1.5兆ドルから8,590億ドルへ落ち込んだ事実を踏まえると、これは特に興味深い。だがそれは、国々が貿易を行わなくなるという意味ではない。経済的持続性のために、サプライチェーンのどの部分が地元で供給されるべきかについて、国々がより賢くなっているという事実を反映しているに過ぎないのだ。

資本の流れの地理的方角についてはこのくらいにしておこう。セクターの観点では、パンデミックはデジタル化、テクノロジーおよび製薬セクターへ構造シフトをもたらした。この最も厳しい例はおそらく、たった10ヶ月でワクチンを開発することがこれまでは不可能だったという事実だ。だが世界的な製薬/バイオ技術業界はすでに、1つどころか複数のワクチンを製造し、それらの使用を開始している。教育、仕事、遊びのあり方も、決定的に変化した。そしてそのシフトの中心にあるのは、テクノロジーだ。

加速されたデジタル化は、国々がロックダウンを始める中でも経済活動の継続を可能にした。一部の国々は、他国よりも変化によりうまく対応した。特にうまく対処した例が、サウジアラビアだ。王国の通信情報技術相を務めるアブドラ・アル・スワハ氏は、ロックダウンに耐え、 国民への適切なケアを保証するために、大臣らがどのように食品業界や医療従事者、薬局の能力評価を実施したかについて、カンファレンスへ出席した代表者たちへ語った。

これは、危機の際に政府、そして公的セクターと民間セクターがどのように協力すべきかのマスタークラスだった。未来はデジタルの才を持つ者の手にある、と指摘した大臣の意見は正しい。それはサウジアラビアだけでなく、全ての国に言えることだ。そして今後、深刻な影響をもたらすことになるだろう。

パンデミックは、あらゆるセクターでデジタル化を加速した。職場や教育、会議、遊び、そしてヘルスケアも、全てがオンラインへ移行した。金融テクノロジー、あるいは「フィンテック」のサウジアラビアでの普及率は、パンデミック中に40%に達した。セクター別レベルに起こった影響の良い一例である。

企業レベルでは、難局へ突入する中で十分に発達したデジタル運用能力を持っていた事業ほど、うまく対処ができた。サウジの多国籍化学薬品製造企業、SABICは、特に際立った成功を収めて脚光を浴びた。

上記全てを可能にしたのは、エネルギーである。このセクターは、国々がネットゼロの目標を目指すことで、今後数十年の間に変化することになる。世界のエネルギー需要が2020年に6パーセント減少した一方で、再生可能エネルギー需要は1パーセント上昇している。この傾向は加速するだろう。

例えば、トタルは現在、自らを石油企業ではなくエネルギー企業として見ている。パトリック・プヤンヌCEOは、この点を改めて指摘した。だが彼は、過渡燃料としてのガスの役割が規制機関や投資家によって放置されるべきではないと警告しており、その発言は的を得ている。世界の人口拡大と並んでエネルギー需要が増す中で、発展途上国ではその価格が依然として問題のままなのだ。政府は、選択肢を残しておく必要がある。

サウジのエネルギー相、アブドゥラジズ・ビン・サルマーン王子からのカンファレンスへの貢献は適切なものだった。彼は石油とガスだけでなく、ブルー水素やグリーン水素などを使ったクリーンエネルギーと再生可能エネルギーにおいても世界のリーダーを目指す、王国の戦略について説明した。また彼は、同じく重要なトピックである循環型炭素経済や炭素の持続可能性プログラムについても強調した。世界のエネルギーニーズを満たすには、化石燃料が数十年の間、エネルギーミックスの一部に留まるだろう。持続可能な方法でゴールを達成するならば、二酸化炭素排出量に取り組むための実際的な方法が不可欠である。

国連の気候変動会議、COP21がパリで開催されたのは2015年だ。COP26の開催は今年11月、スコットランドのグラスゴーで予定されている。この数年の間に、気候変動に対する見方は変化した。かつて費用を計上するのみだったそれが、数兆ドルの価値を有する投資機会と見なされるようになったのだ。

前述のように、ESGは全ての枠で取り上げられた主要テーマだ。そしてここでも、知的な辛辣さと実用主義の両方を示し、カンファレンスはそのアプローチで納得させた。ESGは最も急速に成長している投資の分類だ。投資家の頭にある主な質問は、ESGゴールの測り方である。経済協力開発機構、世界経済フォーラム、国連と国際会計基準(IFRS)財団の全てが、そのゴールに向けて取り組んでいる。投資家は、持続可能な投資の効果を計測する能力を求めており、現在のところそれに明解な答えはない。

全体として見れば、重大なリセットに焦点を置いた今回のカンファレンスの進め方には先見性があり、実利的かつ具体的だった。これは大変重要だ。どんなに優れたビジョンも、実行できなければ意味がないからだ。多くの世界会議において、その点が見過ごされている。

FIIは、最高の頭脳を招集した。そして、より良い未来を作る機会として世界がパンデミックを利用するには何が必要か、彼らの考えを実際に共有したのだ。

コーネリア・メイヤーは博士号を持つエコノミストで、投資銀行と業界に30年の実績がある。彼女はビジネスコンサルタント会社、メイヤー・リソーシズの会長兼CEOを務めている。

ツイッター:@MeyerResources

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