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イスラエルの反差別主義ボイコットについて、米国で広がる誤解

民主党支持派のニューヨーク市長候補、アンドリュー・ヤン氏。(ロイター)
民主党支持派のニューヨーク市長候補、アンドリュー・ヤン氏。(ロイター)
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02 Feb 2021 06:02:44 GMT9
02 Feb 2021 06:02:44 GMT9

民主党支持派のニューヨーク市長候補、アンドリュー・ヤン氏は先月、オンライン新聞『The Forward』のオプ・エドへある主張を寄稿した。それは、米国内においてパレスチナとイスラエルに関する話題を支配し続けている、一般的な無知を暗示している。民主党の元大統領候補であるヤン氏は、ニューヨーク市のユダヤ人票を狙っている。そして彼は、イスラエルに対する批判と反ユダヤ主義を同一視し、古くさく誤った主張に全面的に基づく議論を構築した。そのベースになったのは、全てのユダヤ人がイスラエルとシオニズムを自然と支持するに違いない、という還元主義的思い込みだ。

ヤン氏の親イスラエル論理は根拠がないだけでなく、混乱してもいる。「ヤン政権は、イスラエルを不当な経済制裁の的にするBDS運動を押し戻すでしょう。」と、パレスチナのボイコット、投資撤収、制裁運動を指して彼は述べている。BDS運動を、「ファシストによるユダヤ人事業のボイコット」と比較さえした。十中八九、1933年4月にドイツで始まった、ナチスによる悪名高いユダヤ人事業ボイコットを引用したものだろう。ヤン氏は、歴史的に擁護できる方法での議論構築に失敗しただけではない。彼は、BDSが「反ユダヤ主義の思考と歴史に根ざしている。」とも主張しているのだ。

BDSは実際に歴史に根ざしている。だがそれはナチス支配下のドイツのそれではなく、1936年のパレスチナ独立戦争にさかのぼる。パレスチナのアラブ人口が、イスラム教徒とキリスト教徒の不当で暴力的な待遇について、植民地支配的な英国に責任を負わせるべく集団行動を起こした時のことだ。

パレスチナ人が完全な主権を獲得できるよう支援する代わりに、植民地時代の英国が支持したのはヨーロッパ系白人のシオニストたちだ。彼らの狙いは、パレスチナに「ユダヤ人の故郷」を設立することだった。パレスチナの人々の努力は不幸にも報われず、1948年、新しいイスラエル国家が現実のものとなった。暴力運動の結果、100万人近いパレスチナ人が土地を追われ、民族浄化された後だ。その後遺症は今日まで続いている。実際に、現在も続く軍事占領とアパルトヘイトは、その悲惨な歴史に端を発しているのだ。

BDS運動が変えていこうと闘っているのは、そうした現実だ。反ユダヤやナチス、あるいはヤン氏の歴史的に無関心な「ファシスト」との記述には関わりがない。最も基本的な人権のために闘っている、窮地に立ち虐げられた人々がいるのみだ。

ヤン氏の無知で利己的なコメントは、反シオニストのユダヤ系知識人や活動家を含む多数によって正当に反論を受けた。『Jewish Currents』誌の寄稿家であるアレックス・ケーン氏は、ヤン氏が「めちゃくちゃで間違った比較」を行い、政治家として「パレスチナ、パレスチナ人やBDSについて極めて無知な印象を与える」とツイートした。アメリカ・アラブ反差別委員会(American-Arab Anti-Discrimination Committee:ADC)は、ヤン氏の日和見主義、歴史理解の欠如、歪んだ論理を指摘するその他大勢の意見に同意を示した。

しかしこの問題は、ヤン氏のみに止まらない。アメリカにおけるBDS関連の討論は、ほとんど全てが誤った比較と歴史についての無知に根ざしている。トランプ政権の終わりがパレスチナの人々に公正な措置をもたらすだろうと期待していた人々は、間違いなくがっかりすることだろう。パレスチナとイスラエルについてのアメリカの会話は、ホワイトハウスに誰が住んでいるか、またはどちらの政党が議会を支配しているかに関わらず、滅多に変わることがないのだ。

ボイコットの議論を、歴史と現実が混乱したヤン氏の記述へと単純化すること自体、米国政策を権限主義的に理解していることになる。実際に、同様の言語は定期的に使用されている。例えばジョー・バイデン大統領の国連特使指名候補、リンダ・トーマス・グリーンフィールド氏が先月、上院の外交委員会で公聴会に演説していた時のことだ。ヤン氏と同じく、トーマス・グリーンフィールド氏もイスラエルに対するボイコットが「容認できない」行為であり、「反ユダヤ主義に等しい」ものであると発言した。

人権理事会やユネスコ、その他国連関連組織への米国の復帰をこの特使候補が支持する一方で、それに対する彼女の理由はワシントンが「議論の場に」席を得られるように、というものでしかない。そうすれば、イスラエルへのあらゆる批判を監視し、阻止することができるかもしれないからだ。

ヤン氏、トーマス・グリーンフィールド氏や他の人々は、二大政党に所属する国の支配層エリートの間で強い支持を得ているという自信と共に、上記の不正確な比較を永続させている。新イスラエルのユダヤ・ヴァーチャル・ライブラリーのウェブサイトが発表している最新統計によれば、実に「32の州が、イスラエルに対するボイコット阻止のために作られた法案や行政命令、決議を可決した。」

ボイコット運動の犯罪化は、ワシントンの連邦政府で注目の的になってさえいる。2019年には、上院と下院の両方が反ボイコット法を圧倒的多数で可決した。他の法案もこれに続くことが予測されている。

そのような法令の人気は昨年11月、イスラエルへのボイコット運動が反ユダヤ主義であると宣言し、それを「ガン」として述べるよう、マイク・ポンペオ元国務長官を促した。ポンペオ氏の姿勢は驚くに当たらない。だがヤン氏とトーマス・グリーンフィールド氏はいずれも、歴史的に多大な人種差別と不平等な扱いに苦しんできた、少数グループの一員である。自身の国で人気を得ているボイコット運動の歴史について、彼らは学び直すべきだ。ボイコットという武器は、20世紀中頃の公民権運動において、虐げられていた米国の黒人が政治的な異議を目に見える成果へ置き換えるのに最も有効なプラットフォームだった。それらの活動の中でも最も記憶に残り、重要な出来事となったのが1955年から56年にかけてのモンゴメリー・バス・ボイコット事件だ。

さらに米国国外では、南アフリカの白人至上主義アパルトヘイト政府へのボイコットについて、それがどのように世界的な運動に火を付け、そして南アフリカの黒人たちの犠牲を伴いながら1990年代初期にアパルトヘイトへ終わりをもたらしたかについて、多数の書籍が出版されている。

アメリカにおけるBDS関連の討論は、ほとんど全てが誤った比較と歴史についての無知に根ざしている。

ラムジー・バロウド

パレスチナの人々は、ヤン氏やその同類からではなく、虐げられた人々や国々の、世界中の集合的体験から歴史を学ぶ。彼らを導くのは、マーチン・ルーサー・キング・ジュニア牧師の智恵だ。彼はこう語った。「私たちは、自由が迫害者によって任意に与えられることは決してない、ということを苦しい体験から知っています。自由とは、虐げられた者によって要求されなければならないのです。」

ボイコット運動の目的は、軍事占拠とアパルトヘイトに値段を付ける迫害者に、責任を取らせることだ。パレスチナのボイコット運動は、人種差別主義でないだけではない。それは本質的に、人種差別と迫害に対する、ときの声なのだ。

  • ラムジー・バロウドはジャーナリストであり、『The Palestine Chronicle』の編集者である。5冊の本を出版しており、その最新作は『These Chains Will Be Broken: Palestinian Stories of Struggle and Defiance in Israeli Prisons(鎖は壊される:イスラエル刑務所でのパレスチナ人の苦闘と抵抗の物語)』。(アトランタ、クラリティ出版)ツイッター:@RamzyBaroud
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