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権利のため闘う不退転のレバノン人たち

レバノンのデモ隊がベイルートの Zaitunay 湾にピクニック。政府への抵抗運動の一環、公共施設群の民営化を糾弾していた2019年11月10日のひとコマ。(AFP)
レバノンのデモ隊がベイルートの Zaitunay 湾にピクニック。政府への抵抗運動の一環、公共施設群の民営化を糾弾していた2019年11月10日のひとコマ。(AFP)
バリア・アラマディン
11 Nov 2019 01:11:01 GMT9

抵抗運動に参加しつづけるのは簡単なことではない。ヒズボラどもの暴力に耐えながら毎週街頭に出ていくのにはガッツが要るのだ。それでもこの運動を通してレバノン国民としての連帯を世に示そうと、ヨーロッパから、湾岸諸国から、果てはアメリカから、幾度となく帰国しては運動に参加するレバノン人たちがいる。

多くの在外レバノン人と同様、私が祖国を離れたきっかけもイスラエルによる1982年のレバノン侵略である。ここ数週間の出来事はそんな私にとって、我々がレバノン人として生きることへの愛着をあらためて呼び覚ますものであった。レバノン国民としての誇りをあらためて感じさせるとともに、レバノンのレバノンらしさが永久に失われるかもしれないという恐れをも抱かせるものであった。

私はいま、莫大な数の青少年が、金銭的苦境や不安定な経済に日々うちひしがれていく両親の姿を必死に証言している姿に、畏敬の念を禁じえないでいる。数十年にわたり、無策な政治のもと国富は堂々と盗まれつづけた。その結果をかれらは勇敢に証言しているのである。

2019年を通して西側諸国では、数百万に及ぶ青少年がこぞって街頭に流れ出し、環境に大人世代が与えてきた取り返しのつかないダメージに抗議して大人たちを顔色なからしめた。レバノンにもこんなふうに気候変動にはっきり物申したかった賢い青少年はたくさんいる。だがそんなことはこの子たちには贅沢だ。かれらは環境だ気候だという前にまず、古色蒼然たる宗派政治、特定宗派が国富を盗んで山分けする体制から、自国を解放しなければならないのである。

かくして解放に立ち上がった青少年がおり、その勇姿には大人たちも形無しである。この子たちの主張は宗派色を一掃しようという明確な立場に基づいており、すべてのレバノン市民を同胞とするものである。じつはこの精神こそ、かつて私を育んだレバノン的寛大さそのもの、友達の誰がキリスト教徒で誰がスンニ派で誰がシーア派かということなど知らずに済んでいたあの寛大さそのものなのであった。しかるに現代はといえば、学生は就職に際して特定の宗派・党派に魂を売り渡させられると怒っている。選挙でもその派に投票しなければならないし、絶対服従の態度を示さなければならないというのだ。アラブ世界で最も進んでいたはずのこの国が、なぜこれほど屈辱的な、封建制まがいの状態になり下がったのだろうか。

スーダン、アルジェリア、イラク、そして特にレバノンにおいて、抵抗運動といえば勇気ある女性・高齢者が指導的役割を担っているのが特徴である。卑怯者どもが侮辱してきたり脅して家に帰らせようとしたりしても怯まない。女性らの啖呵は強烈で「銀行なんか潰れちゃえ。道路だって通行止めでいいのよ。石油備蓄も使いきっちゃえ。革命が軌道に乗るまで、普通の商売なんて何もできやしないわ」というのである。

最近の抵抗運動は、学生に加え医師・弁護士そのほか各種のプロも多数参加しているとあって民衆蜂起レベルの勢いを持ってきている。人気歌手らも参加、かれらのリードでデモ隊は愛国的な歌を唱和して盛り上がっている。レバノンの活気ある文化がこの国民的な目覚めを他国の民衆蜂起とはひと味ちがうものとしているのだ。そしてその一方でシーア派の聖職者は口々にイラン政権内の宗教指導者や民兵勢力を辛辣に非難し「飢えや悲惨な生活に抵抗しているだけの市民がなぜ暴力に直面しなければならないのか」と問いかけている。

レバノンは世界的に見ても国外離散人口の多い国で、国内に残っているのがわずか600万人であるのに対し国外に流出した人々は1540万人に及ぶと見られる。じじつ私の周りにも、自分の娘から「お父さん、わたし海外で生活できるようになったの」と嬉しそうに告げられて目に涙を浮かべる人々がいる。海外にいればこそ仕事を見つけられ、自由を、そして人間らしい尊厳ある生活を享受できるのだ。どれもまっとうな人生のための前提条件なのに、レバノンはなぜ提供を拒むのだろうか。

そもそもレバノンは、アジアと地中海ヨーロッパをつなぐという地理的条件に恵まれ、フェニキア人の時代から交易や異文化交流の結節点として殷賑をきわめた地である。1960年代から70年代初頭にかけてのベイルートなど素晴らしかった。金融・商業・文化・知のすべてにおいて中近東の首都といえた。教育程度の高い若きレバノン人起業家たちが、肥沃な国内市場からの、またエジプト、シリア、湾岸諸国、あるいはそれ以遠に及ぶ国際的商機からの恩恵を享受していた。それほどに豊かだったこの国が今では破産して債務奴隷に成り果てているなんて、いったいどれほどの犯罪的無能が存在したというのだろう。今もし健全なビジネス環境が整備され信用できる統治がしかれたならば、レバノンは必ずや全市民にふたたび繁栄を享受させ、国外に離散してなお母国への郷愁を捨てきれずにいるレバノン人をも、かなりの割合で帰国に駆り立てることができるのではないか。

レバノン内戦時代のマフィア諸勢力(ヒズボラとそれを資金援助していたイラン勢力を含む)はまさに、レバノンの生き血をすする寄生獣である。かれらの寄生はレバノンを生かさず殺さず意のままに操る周到なものだ。

しかし、今回の民衆蜂起を凌ぎきるなり抑えこむなりできると思っているあたり、どの勢力のリーダーも市民の恐るべき粘り強さを致命的に過小評価している。

なぜ過小評価してしまうか。市民コミュニティーをか弱い獲物としか見てこなかったからだ。

実例を挙げよう。デモ隊が Walid Jumblatt  邸の外に集結したとき、Jumblatt は警備担当者に、市民らを人としての尊厳に配慮しデモの権利を尊重して扱えとこまかく指示を出した。だがいっぽう、デモ隊のリーダーが「Nabih Berriの家の前に集まろう」と宣言したとき、Berri の一派はソーシャルメディア上で「来るなら自分用の棺桶持参で来い」などとデモ隊を激しく挑発したのであった。

レバノン民衆蜂起のチキンゲームは、日を追うごとに緊迫の度を増しつつある。小店主などが「もういい、仕事に戻ろう」と言ってしまう気持ちも解る。だがレバノンは今まさに経済破綻の瀬戸際にいるのだ。苛烈な銀行新法が矢継ぎ早に施行され、世界銀行からは、重度の債務超過に陥った国家財政の更なる悪化を阻止すべく「1週間以内に」新内閣を発足させるようにとの強い要請を受けている有様なのである。

しかしデモ側としては、いま妥協することはすべてを失うことに繋がりかねない。妥協は各宗派に、腐敗した支配システムを復活させる隙を与えてしまうだろう。支配者どうしで席の交換だけが行われ、(それを潔しとしない Saad Hariri は別として)政府は以前と同じ顔ぶれの並べ替えで構成されることになる。これはイランに対して「我が国は自力では綱紀粛正すらままなりません」と屈服してみせることでもあり、まさに最悪である。

ヒズボラはたしかに、レバノン社会内のある合法的な勢力を代表しているといえる。しかしそれならそれで、ヒズボラはイランからの支配をきっぱり切り離し、レバノンを破壊することが確実な現行の諸活動ではなく、レバノンの国益と尊厳に従った活動をなすべきである。ヒズボラのリーダー層はイランからの分厚い札束を手に「レバノンの苦労など自分には無縁」と考えているかもしれないが、もし「レバノンの地で我が子ともども明るい未来を迎えたい」という気があるのなら、外敵の引き込み役などやめてレバノン国民と仲良く共存していく手を模索するべきなのである。ましてや今、地域内のシーア派コミュニティーがどこもイラク・レバノン間の様々な出来事をつぶさに観察し、これに比べてイランとの共闘などコスト的に耐えられた代物ではない、と悟りだしているところなのである。

Michel Aounや Birri, あるいはGebran Bassil や Hassan Nasrallah らがいかに脅しをかけたところで市民は屈服しない。報復をエスカレートさせようが取締を試みようが、イランによる支配の醜悪な面が明らかになるだけである。このことは、2005年に Rafik Hariri らが暗殺されたことがかえってレバノン国民の統合を促し、シリアの忌まわしき占領軍をレバノンから追い出す結果となったことからも容易に想像できるだろう。

私はいま、かつてないほど祖国を誇らしく思っている。「自由と尊厳のためには苦難も犠牲も厭わないという、一人ひとりの確たる勇気こそ、何にもまして崇高なものである」。かつてマーティン・ルーサー・キングが述べたこの言葉そのものの思いである。

全世界が見守る中、レバノン・イラク両国民は自国のアイデンティティーと尊厳を、そして個人の自由を守りぬくべく立ち上がった。完全勝利のすえ更なる果実を得るその日まで、両国民が腰を下ろしてしまうことのないよう祈りたい。

(著者 Baria Alamuddin 女史は受賞歴のあるジャーナリストで、テレビキャスターも務める。中東と英国で活動。『メディア・サービス・シンジケート』編集長で、各国首脳へのインタビューも多数。)

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