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バイデン米大統領、対外援助の優先順位を上げる

2018年9月3日、ペンシルベニア州ピッツバーグの街をジョギングするジョー・バイデン米大統領。(ゲッティイメージズ)
2018年9月3日、ペンシルベニア州ピッツバーグの街をジョギングするジョー・バイデン米大統領。(ゲッティイメージズ)
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24 Feb 2021 07:02:12 GMT9

先月ジョー・バイデンが米大統領に就任した翌日、ホワイトハウスは「国家安全保障検討覚書1」( National Security Memorandum 1)を発表した。一発目となる覚書の焦点が新型コロナウイルス感染症対策であったことは、バイデン政権がパンデミック対策のみならず新大統領の外交政策における対外援助の役割をいかに重視しているかを物語っている。

バイデンと外交関係高官らはパンデミック、気候変動、米国の多国間・二国間関係の再構築、民主主義・人権保護を最重要事項とする姿勢を明確に示してきた。これらの重要事項で強調されるのは、主たる対外政策の手段としての外交の復活を重視する姿勢だ。対外援助だけでなく、世界の米国の評価やソフトパワーの蓄積の改善により広範囲に取り組むことも、バイデンがこれらの目的を追求する上で重要な役割を果たすだろう。

これまでのバイデンの対外援助へのアプローチはトランプ政権時代のものとは根本的に異なるが、その考え方は一部の以前の大統領の考え方に近い。

トランプ政権は対外援助というものを、米国の要請や依頼に応えてもらう見返りとして各国に提供するような、取引に近いものとして見ていた。

バイデン政権は対外援助を外交政策上の実践目標を達成するためのものとして見ている。この視点に立てば、対外援助や開発支援は様々に異なる政策が互いに強化し合う、より大きな戦略的な構造の一部となる。相互に関連しあう世界で、米国が他国の公共医療、移住、気候などの危機や問題への対処能力を助けることは、これら自体が米国の国益への脅威となりうる点で米国自身の国益に敵うことである。さらには、対外援助は米国への好感度を上げ、コミュニティやリーダーとの関係の増強につながり、またそれにより米国の外交の取り組みが逆に強化される。

バイデンのチームは、対外援助を道徳的な視点からも見ている―つまり、世界最強の国として他の国を助けなければならないという責任感だ。しかし、道徳的義務として果たす役割には限界がある。バイデンは主要な外交政策ポストに経験豊富な現実主義者を任命している。米国政府が自国の医療、教育、インフラ、困窮者援助に十分な資金を投入していないと考えるアメリカ人が多い中、資金を外国に使うことを納税者に納得させるには困難が伴うだろう。

バイデン政権下の対外援助の最優先事項は、他国のコロナ対策や公共医療セクターの強化を助けることだ。バイデンは最近、米国が低・中所得国のコロナワクチン普及を支援するためのWHOの枠組み「COVAXファシリティ」に20億ドルを援助し、その後さらに20億ドルを追加すると発表した。

またバイデン政権にはウィメンズヘルスへの脅威の増加等、コロナ禍が健康に及ぼす二次的影響に対応できるよう公共医療システムを強化するための対外援助を提供する考えもある。

バイデン政権下のもう一つの対外援助の焦点は気候変動への対応力の向上だ。バイデンのチームは外交面では気候変動の要因への取り組みを追求する。援助の面では、各国の気候変動による影響への対応を支援する。

政府高官らも大統領自身も、イエメンに人道支援を、パレスチナに人道および経済支援を提供すると明言している。バイデンは国際機関における米国のリーダーリップを回復したいと考えており、対外支援は重大な役割を果たすだろう。もう少ししてバイデンのチームが落ち着き、政策の見直しに入れば、詳細が上がってくるはずだ。

バイデン政権下での対外援助の重要性の高まりを示す証として、バイデンはUSAID(米国国際開発庁)長官のポジションを国家安全保障会議(National Security Council)のメンバーに格上げする。USAIDは米国の援助プログラムの運営管理に責任を持つ、唯一ではないが主要な機関である。またバイデンはUSAID長官にサマンサ・パワーを任命した。パワーは民主党の大物で、オバマ政権下で米国国連大使を務めるなど幅広い経験を持つ。就任が確定すれば、USAIDに大きな影響を与えるだろう。

バイデンのチームが対外援助のアプローチの方向性を描きなおす中、課題とともにチャンスももたらされる。トランプ政権は一部の国と密な関係を保っていたが、世界での米国の好感度および米国への全体的な信頼度は著しく低下した。これはバイデンが米国への評価の立て直しを図る中で課題となるが、同時に新たな進路を描くチャンスともなる。もう一つの課題は多数のアメリカ人が国内への資金投入を願う中、巨額のコロナ禍政策や経済回復政策を追求しながら、米議会とアメリカの有権者に対して対外援助への理解を得ることだ。

バイデン政権下の援助の最重要事項は、各国のパンデミックとの戦いを支援することだ。

ケリー・ボイド・アンダーソン

米国は、中国もその存在感を強める場所でいかに援助プログラムを導入するかについても決断が必要になろう。トランプ政権の全体的なアプローチは米国か中国か選べと迫るものだったが、バイデンは中国が埋められる空白を作らないよう米国の関与を徐々に上げていくなど、違った形のアプローチを取る可能性が高い。

このような課題に直面しながらもバイデン大統領のチームは、米国が世界の切迫したニーズやアメリカ人を含むすべての人に影響する問題に効果的に対処できる資金、物流能力、および政治的資源を持つ数少ない、あるいは唯一の国であることを知っている。対外援助はその過程で主要な役割を果たすだろう。

  • ケリー・ボイド・アンダーソンは国際安全保障問題および中近東政治・ビジネスリスクのプロアナリストとして16年以上の経験を持つライター・政治リスクコンサルタント。これまでOxford Analyticaアドバイザリー副部長、Arms Control Today編集主幹を歴任。ツイッター:@KBAresearch
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