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協調によって真に強い存在と成り得るアラブ諸国

昨年、エジプト、カイロのアラブ連盟本部にて、パレスチナ自治区の情勢について協議する加盟国の外相たち。(AP、資料写真)
昨年、エジプト、カイロのアラブ連盟本部にて、パレスチナ自治区の情勢について協議する加盟国の外相たち。(AP、資料写真)
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05 Apr 2021 12:04:00 GMT9
05 Apr 2021 12:04:00 GMT9

エジプト、ヨルダン、イラクの外相たちが先週行った記者会見で、イエメンやリビア、パレスチナ、さらには他の様々な事案について詳細な議論が交わされたもののレバノンの危機的状況に対しては言及すら無かったことに、私は強い違和感を覚えた。

マロナイト派のビシャーラ・アル‐ラヒ総主教は、レバノン危機の「国際管理化」を呼びかけているが、レバノン問題の「アラブ管理化」について誰も語らないのは何故だろうか?アラブが断固としてその役割を果たせば、ヒズボラへのイランの支援の過度な影響を相殺しつつ、主要な当事者たちに実務的な政府の形成を強いることも可能だろう。そうしたアラブの再関与を諸手を挙げて歓迎しようとしない愛国的なレバノン人を想像することは難しい。アラブの再関与は、無論、特定の勢力のためのものではなく、国家としてのレバノンを救い、そのアラブとしてのアイデンティティと主権を再び確立するためのものであるとしての話である。

しかしながら、この10年間で、アラブ諸国はアラブ自身の問題から撤退を余儀なくされてきた。実際、排除されてきたと表現しても良いだろう。シリア情勢においてアラブ圏という概念は意味を為さず、リビア情勢ではロシアとトルコが主導権を掌握し、イラク情勢からはアラブ諸国を排除しようとする強い動きがある。そして、イランの核問題に対してのアラブのまとまりを欠いた姿勢は、再び米国の新政権によって無視されつつある。

アラブ連盟の諸国は、パレスチナのような求心力のあるいくつかの問題に対しては、少なくとも、互いに呼応して団結の表明を行っていた。だが、加盟国間で根本的な相違が浮上した場合、全会一致の原則である事が仇となり、アラブ連盟自体が意味の無いものになってしまっている。定例的に行われてきた春のアラブ連盟サミット開催の呼びかけを、現在、誰も行っていないのは何故だろうか?

テヘランのアーヤトッラーたちは、レバノンにおける覇権を特筆に値するほど安価に確立した (ヒズボラに対する支援は年間7億ドル未満だ) 。この金額は、湾岸諸国協力会議が繰り返し行っている人道支援に比べればほんの僅かな支出に過ぎない。イラン自体経済的には余裕のある国家ではない。だが、他の関係諸国が長期にわたってレバノンの情勢を運命の弄ぶままにしてしまったおかげで、イランは同国に対して独占的とも言い得る影響力を享受するに至ってしまったのだ。

サウジアラビアがイラクの農業部門に30億米ドルの投資を行うという2020年の計画は中止になった。ヌーリー・マーリキーやカイス・アル‐カザリに繋がりを持つ報道機関が偽情報に基づくネガティブキャンペーンを行うなど、イランが黒幕となって根拠の無い脅威論を煽ったためである。イランと連携していたファタ議員連合が、サウジアラビアからの投資について、ムスタファ・アル‐カーズィミー首相の尋問を要求し、同時に、複数の民兵組織が「サウジアラビアからの投資案件を攻撃目標にする」という脅迫を行ったのだ。

衝撃的だ!アラブ諸国を排除するというイラン側の決意により、開発途上のイラクの農業部門はこの巨額の投資を逸してしまったのだ。先週、アル‐カーズィミー首相はリヤドを訪れ、イラクの投資ファンドのために30億米ドルの追加を受領した。そして、この重要な支援の信頼を損なうためのキャンペーンは既に開始されているというわけなのである。

イランの経済的、外交的、軍事的能力は、アラブ世界の資質を結集したものに比べればごく僅かなものだ。いつの日か、私たちが協調して自らの能力をアラブの統一、繁栄、そして、主権の確立のために活かす政治的意思を持つことさえできれば、アラブ世界は真に強い存在となることだろう。

バリア・アラムディン

イラクとアラブの市場には低品質のイラン製品が溢れ、貿易収支は往々にしてイランに有利となっている。イラン・イラク商工会議所の他ならぬイラン側の所長その人が、「イラクには我々が輸入したいと思うような品物が無い」と断言したのである。レバノンも同様の状況にある、特に懸念されるのは、WHOの基準に反する未承認の医薬品である。一方、アラブ諸国間の貿易の水準は非常に低い場合が多い。

アラブ諸国は国境の支配権を失いつつある。イランやシリア、レバノンでは、イランと連携した民兵組織が国境通過地点を支配下に収めている。イラクのアリ・アラウィ財務相は、そうした活動を「組織的な略奪」と表現した。同相の推定によれば、イラクの年間70億米ドルに及ぶ関税の90%がそのような軍事組織によって奪われてしまっているという。

2003年以降のイラクを回避するという数多くのアラブ諸国が下した決定は、正当な理由によるものだったが、イラク政府のアラブ陣営からの完全な排除に繋がり、イランと連携した指導者たちが入れ替わり立ち替わり統治するという事態を生んだ。アラブ諸国は、遅ればせながら、イラクとの関係の再構築に着手し始めたが、事ある毎にイランに出し抜かれている。

同様に、アラブ諸国によるバッシャール・アル‐アサドとの交渉拒否やシリアの加盟資格停止は完全に妥当であり理解出来るものの、アラブのシリアに対する影響力を再確立する戦略はあるのだろうか?アスタナ・プロセス (ロシア、イラン、トルコ) には、シリアの将来の方針決定からアラブ人とシリア人の意見を排除するという目的が明らかに組み込まれている。このプロセスは、和平へのロードマップを明確化する代わりに、参加した各国勢力の支配下にある複数地域の地盤強化を行った。アサド大統領とヒズボラは、現在、ロシアによるレバノン海域での石油の探査を許可している。

総体的には、こうした過程は、アラブ世界の非アラブ化を意味する。我々の目前で、アラブ各国の主権が奪われているのだ。私は、アラブの一般市民たちが、彼らの地域の現状に対して、これほど落胆し意気消沈しているのを見たことが無い。そして、絶えることのないニュースの流れにより、アラブ世界がどれほどの屈辱を受け、分断され、無力であるかを、私たちは日々思い知らされる。

2011年以前には、国連などの国際的な討論の場で、アラブの利益のために協力して行動する「アラブ圏」への言及が日常的にあった。欧州連合 (EU) を除けば、約20もの国家が連合を成し、世界を舞台として協調して行動することは並外れたことだったのだ。そのため、この「アラブ圏」には強い影響力があった。

残念ながら、そのようにアラブがまとまりを持っていた時期においても、自身の問題の解決を欧米諸国に依存してしまうという当惑するような傾向が我々にはあった。そして、アラブによる紛争解決の仕組みや集合的な防衛体制は遂に確立されなかったのだ。「アラブ連盟の共同防衛協定はいつ頃有効になる見込みか?」と私がアラブの防衛筋の或る高官に尋ねる度に、苦笑と共に返ってくる答えは「願わくば来年」である。

数々の深刻な意見の不一致はあったものの、アラブ地域レベルでイランの利益を積極的に追求しようとしていたレバノンのジブラーン・バシール元外相のような事例はこれまで無かった。バシール元外相は、例えば、サウジアラビアに対するフーシ派の攻撃についてのアラブ連盟の会議への参加を拒否するほどだったのだ。

いくつもの国家が、イランの同盟組織によって支配されたり、紛争の渦中にあるこの時代、アラブ諸国の完全な協調は不可能なのかもしれない。しかし、アラブ連盟がその目的にもう適さなくなっているのだとしたら、核となるアラブ諸国は、ナセル的な汎アラブ主義の文脈においてではなく、アラブ諸国それぞれの主権とアイデンティティを再確認した上で、自ら問題に対処し、積極的にアラブの利益を高めて行く必要がある。

イランの経済的、外交的、軍事的能力は、アラブ世界の資質を結集したものに比べればごく僅かなものだ。いつの日か、私たちが協調して自らの能力をアラブの統一、繁栄、そして、主権の確立のために活かす政治的意思を持つことさえできれば、アラブ世界は真に強い存在と成ることだろう。

  • バリア・アラムディンは、中東と英国を活動範囲とする、数々の受賞に輝くジャーナリストであり、ブロードキャスターである。メディア・サービス・シンジケートの編集者でもあり、これまでに多数の国家元首のインタビューを行っている。
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