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腐敗という癌がレバノンの魂を破壊している

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04 Oct 2021 01:10:46 GMT9
04 Oct 2021 01:10:46 GMT9

昨年のベイルート港爆発事故の後に、あの途方もない大爆発の責任追及の調査が失敗するなどと、世界中に信じられないという思いが沸いたことだろう。それも1回のみならず2回も失敗するとは。不適切な状態で保管されていた何百万トンもの硝酸アンモニウムの肥料が港湾倉庫で着火して爆発し、200人以上が死亡したのだ。非核のものとしては世界最大規模の爆発の衝撃波は、遠くキプロスでも体感され、180憶ドルもの被害をもたらした。

しかも、発生したタイミングが最悪だった。レバノンはすでに、経済専門家たちが「国家が支援する出資金詐欺」と呼ぶものが崩壊したことから始まった経済危機が深刻化しており、新型コロナの感染状況も悪化していた。8月4日の爆発事故は、暴落する通貨、ハイパーインフレ、政治的行き詰まり、大掛かりな主権の浸食などによるレバノンの下降スパイラルを加速させた。人口の80%以上が、安定収入や、適切な住居、医療、教育などを欠いた多次元貧困の中で生活している。

港湾爆発事故は、レバノンの政治や社会に深く入り込んでいる害悪を映し出しただけではない。何十年にも及ぶ汚職と政治的恩顧主義が、かつては「中東のパリ」と言われていたベイルートを、「レバント地方の疫病神」にまで貶めたことを示す致命的なものとなった。

当然のことながら、この港湾爆発は、その原因を真剣に調査する必要があった。たとえそれが、犠牲となった愛する人々のために答えや説明責任を求める遺族たちを落ち着かせるためだけであったとしてもだ。しかし、幾重もの危機で荒廃したこの国では、それは一部には、実態を把握せずに国を運営する政治エリートの陰謀により生じたものでもあることから、調査は必然的に、すでに絶望している国民を意固地な支配者層に向けて戦わせる象徴的な戦いの場へと姿を変えた。

残念ながら、この調査が最近、2度目の停止となったことを考えると、政治指導者たちがこの戦いの優位に立っているように見える。今回の停止は、調査を担当するタレク・ビタル判事を、先入観を持っているとして2人の国会議員が訴えたことによるものだった。これは、あらゆる局面で調査を妨害しようとするレバノン当局の執拗な作戦の最新のものだ。

ビタル判事は、港湾爆発事故の調査を最初に担当したファディ・サワン判事の後任だが、サワン判事も、ハッサン・ディアブ元首相と他の3人の元閣僚の過失責任を問う判決を出した後に、破毀院によって解任されたのだ。ほかにも、関与する国会議員の免責解除を拒否したり、法廷への呼び出しに応じず尋問にも出頭しないなど、露骨な妨害行為が行われてきた。

レバノンでは、政治家、コネのある者や、富裕者などを庇う慣行は今に始まったことではない。この調査は誰にも責任を取らせることができず、その真実は闇に葬り去られることになるだろうと結論づけるだけの理由は十分にあった。これまでにも、注目を浴びた暗殺事件や爆発事件で起きてきたことだ。

調査を妨害しようとする必死の試みは、レバノンの深刻な亀裂や永久に変わることのないように見える問題の縮図となっている。

ハフェド・アル・グウェル

それでもビタル判事は、レバノンの政治家たちが必死に結束を固め、憲法上の免責を主張する中で、それに動じることなく確固たる態度をとり続けてきた。エスカレートする脅迫も、敵に囲まれた判事にとっては、自分が間違っていないことを確信させるものに過ぎなかった。

この事件の調査は75%以上は完了し、調査官たちは現在、爆発の原因について意欲的に捜査をし、レバノンに積荷を降ろした責任のある当事者間の隠されたつながりを探っている。執拗な妨害を受けながらもここまで進展してきたことで、犠牲者の遺族たちは、ビタル判事こそがこの調査を遂行するのに最もふさわしい人物であるという確信を抱いている。

しかし、肥料の出荷を担当した関係者や曖昧なペーパーカンパニーを明らかにすることには、深刻なリスクが伴う。特に、それらの真実が特定のレバノンの政治家や治安当局者に関与している場合はなおさらだ。こうしたリスクについては、平静を保っている判事やレバノン国民も知らないわけではない。ヒズボラ組織の内部治安機関のひとつの長であるとされるワフィク・サファなる人物が、調査を妨害しようとするレバノン当局の試みが失敗した場合には判事を力ずくで排除するとの脅迫の手紙を、ビタル氏に届けたと言われている。

ヒズボラ最高指導者ハッサン・ナスナッラー氏は、稀にしか行わないその演説の中でさえ、ビタル判事を標的にしており、これは、ヒズボラの爆発事故とのつながり自体や、ユセフ・フェニアノス前公共事業大臣のように調査に名前の挙がっているヒズボラの同盟組織の政治家たちから、注意を逸らそうという疑似国家ヒズボラの意図を示している。フェニアノス氏は、ノハド・マシュノーク元内相やアリ・ハッサン・ハリル元財相など、過失が疑われている多くの政府高官や治安当局者たちのうちのひとりだ。議員、閣僚、治安当局者の多くが、不適切に保管されていた肥料を認識しており、危険の可能性について警告すらされていたことを考えれば、まだ他にもビタル判事の調査の対象者は出てくることだろう。

このビタル判事に対する「戦争」や、調査を妨害しようとする必死の試みは、レバノンの深刻な亀裂と永久に変わることのないように見える問題の縮図となっている。レバノンは現在、1850年代以来最悪の経済危機に見舞われているが、コンフェッショナリズム的な政治統治システムに守られた中で繰り返されてきた汚職により、さらに首を絞められている。

ナジーブ・ミカティ首相によるまっとうな政府が復活しても、それが素っ気ないコメントや、笑いや、憤りしか引き出さないのは、そもそもその指導者は機能不全に陥っているシステムからの産物であるからだ。

国内の脅威のほかにも、レバノンは地域の無数の代理戦争の場となっており、イランを後ろ盾に支配者然と振る舞うヒズボラのような組織を勢いづかせる一方で、米国やフランスを後ろ盾とする敵対勢力も、レバノンの差し迫った崩壊を回復させなければならないという緊急事態を利用しようとしている。現在のところ、イランから燃料の輸入を手配したヒズボラが、この影響力争いに勝利している。しかし、そのような取引ではレバノンの燃料需要を満たすことはできないし、ヒズボラが主張しているように永久に続くことはないだろうというのが専門家たちの見解だ。

このような大災害ともいえる状況の中で、ベイルートの調査は、最悪の時にあってさえも真実と説明責任の追及は緩めないという希望を新たに、遅々とした歩みながら懸命に進めているのだ。数々の危機に打ちのめされてきた多くのレバノン国民にとって、ビタル判事の調査はおそらく、権力の座に必死にしがみつこうとする責任感のない政治家たちを一新する最後のチャンスなのだ。調査がさらに政治問題化し、ビタル判事が解任される可能性が出てくれば、かつては慈しまれていたレバノン国家がゆっくりと解体されるのを目の当たりにすることを余儀なくされた国民の怒りが、さらに高まる恐れがある。

  • ハフェド・アル・グウェル氏は、ジョン・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院の外交政策研究所の上級研究員。ツイッター:@HafedAlGhwell
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