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世界の薬物取引におけるヒズボラの役割 — 西アフリカコネクション

2021年10日6日、ベイルートでのヒズボラ指導者サイード・ハッサン・ナスラッラー師とイランのホセイン・アミラブドラヒアン外相の会談中、抗議活動を行うレバノンの活動家。(AP)
2021年10日6日、ベイルートでのヒズボラ指導者サイード・ハッサン・ナスラッラー師とイランのホセイン・アミラブドラヒアン外相の会談中、抗議活動を行うレバノンの活動家。(AP)
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12 Oct 2021 04:10:33 GMT9
12 Oct 2021 04:10:33 GMT9

4月、サウジアラビアはレバノン製品の輸入を禁止した。貨物がサウジ王国への麻薬の密輸に悪用されていたからだ。それはヒズボラにとって問題になることだった。

レバノンとシリアの経済破綻を受けて、アサド・ファミリーのマフィアとヒズボラは自分たちの国を薬物国家として再構築し始めた。アンフェタミン類の「カプタゴン(Captagon)」という薬物の世界的生産拠点にしようというのだ。カプタゴンはパーティーの参加者やテロ組織に人気のある薬物であり、シリアのカプタゴン取引は年間10億ドル以上に相当すると推定される。

カプタゴンの生産はホムスやアレッポなどの地域で定着したが、シリアの極端な機能障害のため、特にクサイルやベッカー高原などのレバノン・シリア国境沿いのヒズボラの拠点で多くの主要工場が互いに合併している。レバノンの前司法大臣・公安担当大臣のアシュラフ・リフィ氏はカプタゴンの「生産と密輸に関するヒズボラとシリア側の協力関係」について語った。シリアとレバノンはこれに加えてヘロイン、クリスタルメス、ハシシの有力なルートになっている。

湾岸協力理事会(GCC)の貨物規制以来、ヒズボラはこうした違法な貨物の原産国を不透明にするために中継国家を通って迂回させるという手段に頼っていた。そこでもまた、世界中のレバノン人ディアスポラとのコネクションが悪用されている。西アフリカという選択肢が好まれるようになり、サウジアラビアとナイジェリアの協力の結果、ラゴスの港で45万個のカプタゴン錠剤が発見された。GCC当局も西アフリカのココア貨物の中に数百万個のカプタゴン錠剤を発見しており、シリアが製造元であることはほぼ確実である。

ヒズボラが麻薬取引で西アフリカのレバノン人コミュニティを巻き込んだのはこれが初めてのことではない。2000年代、ヒズボラとイランは別の問題を抱えていた。大統領だったマフムード・アフマディネジャド氏がラテンアメリカに手を差し伸べたおかげで、ヒズボラはコカインで何十億ドルもの利益を得られるようになった。しかし、こうした資金をベイルートやテヘランに還流させる手段がなかった。そこで巧妙なアイディアが考え出された。何万台もの中古アメリカ車に資金を投資、その後、中古車はベナンへと輸送。そこは国外居住している何百人ものレバノン人が西アフリカの車市場に進出している場所である。そして、その売上金がレバノンに送金されたのだ。

多くの人が生きる気力を失くした死にゆく国で、「悪魔の党」が致死性の麻薬を赤ん坊のミルクよりも安価なものにした。

バリア・アラマディン

コートジボワールには8万人の有力なレバノン人ディアスポラがおり、経済の約50%を占めている。同時に、ヒズボラ系のマフィア構成員が麻薬取引で大きな役割を果たしている。コートジボワールはマネーロンダリングの主要な中継地点だ。数百万ドルが入ったスーツケースをレバノンに持ち帰ろうとした若者が止められた事例が多数ある。他にも、ギニア、トーゴ、ギニアビサウ、シエラレオネなどの西アフリカ諸国がヒズボラの活動で重要な役割を果たしており、マネーロンダリング、兵器拡散、薬物、組織犯罪などに関与している。

2021年のとある計算では、この活動がヒズボラに年間約10億ドルの利益をもたらしていることが示唆されており、ヒズボラがイランから受け取っている俸給と同程度の金額だと思われる。世界の麻薬取引が年間約5,000億ドル相当であることを考えれば、これはかなりの過小評価である可能性がある。レバノン経済が無慈悲な悪化を続けている中、このヒズボラの闇経済がレバノン市場を支配する日がすぐそこまで近づいてきている可能性があり、レバノンが永久的に麻薬国家に陥ってしまう危険性がある。

一方、イランとヒズボラは数百万ドル相当の武器輸送にも関与している。イエメン、アフリカ、イラク、他にも紛争で破壊された多くの国々が出荷先である。このように、麻薬取引がテロや民兵主義の資金源になるという完璧な嵐が起きているのだ。それでも依然として、外交官やジャーナリストの間ではこうした問題に関する興味関心が著しく欠如していることに私は気付かされる。

これはイラン政府がコーカサス地方の北側の国境で武力による威嚇を行っているときに起きたことだ。度重なる核科学者の暗殺やイランの重要な地での「謎の」爆発を受けて、現在イラン政府はあらゆる場所にイスラエル諜報特務庁(モサッド)のエージェントが潜んでいるのではないかと警戒している。イランの指導者たちはアゼルバイジャンとイスラエルの緊密な防衛関係について激しい疑心暗鬼に陥り、最近、国境沿いで挑発的な軍事演習を行い始めた。イラン北部の膨大なアゼルバイジャン人の間にアゼルバイジャン政府が分離主義的な感情を呼び起こすのではないかと、イラン指導者たちは前々から恐れているのだ。

ヒズボラによってレバノンの農産品の主要地域の市場への輸出禁止が引き起こされた影響は巨大なものであり、経済破綻や通貨の暴落で打撃を受けた多くの市民と同様に、農家の生活を崩壊させることになるだろう。ちょうどアフガニスタンで貧困に陥った農家がヘロインの生産に転向し、タリバン復権の資金源になったのと同様、ヒズボラはレバノンを死の商品を基盤とした経済へと改革するべく、その権力であらゆることをしているかのようである。イランのホセイン・アミラブドラヒアン外務大臣のベイルート訪問が注目を集めたが、これはイランの経済的軌道に巻き込まれることで、レバノンがのけ者扱いされる立場になることを思い出させるものである。

多くの人が生きる気力を失くした死にゆく国で、「悪魔の党」が致死性の麻薬を赤ん坊のミルクよりも安価なものにした。地中海沿岸という立地により、歴史的な貿易国家であるレバノンはヨーロッパ市場に麻薬を氾濫させるための完璧な販売経路になってしまった。同時にラテンアメリカのコカイン取引へのヒズボラの継続的な関与は、おそらく「アメリカへの死」というスローガンを達成しようとするイラン政府の意図に最も近いものだろう。

世界は病気に罹って機能不全に陥ったレバノンの司法システムがこの問題を解決するのを待っていてはいけない。レバノンの中途半端な薬物ディーラーに対する訴訟はお笑いぐさである。ほんの数百個のカプセルのロンダリングで投獄された連中! 大物プレイヤーは小規模な競争を根絶しようとしているように見受けられる。

この脅威に正面から取り組むことで、世界は何百万人もの人生が台無しにされて取り返しがつかなくなってしまうことを防ぐだけでなく、何十億ドルもの薬物資金がテロや民兵主義に流入することも防げるのである。それでは一体なぜ、ヒズボラとイランの結びつきが犯罪やテロリズムの世界最大のグローバル・ネットワークとなったことへの国際的な対処が失敗しているのだろうか?

  • バリア・アラマディンは受賞歴のあるジャーナリストで、中東および英国のニュースキャスターである。彼女は『メディア・サービス・シンジケート』の編集者であり、多くの国家元首のインタビューを行ってきた。
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