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中東を骨の髄までしゃぶる組織犯罪の仕組み

押収したドラッグを陳列するサウジの麻薬対策チームメンバー。摘発したのは、イランの支援を受けるイエメンのフーシ派テロリストとつながる密輸業者。(SPAファイル画像)
押収したドラッグを陳列するサウジの麻薬対策チームメンバー。摘発したのは、イランの支援を受けるイエメンのフーシ派テロリストとつながる密輸業者。(SPAファイル画像)
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14 Oct 2021 11:10:38 GMT9
14 Oct 2021 11:10:38 GMT9

急速に変化する地政学的現実を前に、アラブ諸国は自国の改革に取り組んでいる。その努力を邪魔しているのは、 米国による中東からの撤退の遅れでも、地域内の手に負えない病でもない。前進を脅かすものは数多く存在する。だが国境を越える組織犯罪の増加ほど、強力で油断ならない要因はないのだ。

世界人口の75%以上が、高い犯罪率とそれに対する抵抗力の低い国々に住んでいる。そして少なくとも、組織犯罪によって損なわれている上位25ヵ国のうち5つがアラブ世界に属している。それら犯罪を仲介するのは政府高官と彼らのクライアントであることが多い。

最も蔓延している犯罪は人身売買、違法な武器販売、麻薬の生産及び流通、野生生物犯罪、そして鉱物資源の窃盗だ。これら全てが、不安定な紛争多発地域や非国家主体によって管理されている区域で発生する。こうした犯罪行為を可能にし、また助長しているのは、極秘扱いのオフショア銀行取引、第三者司法権、皆無またはそれに近い法の支配、深刻な腐敗、そして国際コミュニティからの、犯罪活動の抑制に対する壊滅的な関心の欠如だ。

越境犯罪は、発展、統治、安定、そして治安を脅かす。そしてこの地域が未だ立ち向かっていない最大の課題の1つでもある。さらに悪いことには、国境を越える犯罪に対して政府が断固たる行動を起こすのに時間をかけるほど、最も安定し密接なつながりを持つ多様な地域でさえ、地下経済が生じる可能性が高まるのだ。

結果として犯罪者とそれを許す者たちは、ほぼ全ての地域で影響を及ぼし、成功している。反乱軍が支配し人を寄せ付けない荒野から洗練された商業都市にまで根を張り、柔軟な活動から恩恵を得ている。一方で世界で最も貧しい国々に住む一般の人々は、生活の糧を得ようと苦労しながら、これらの地下経済に捕らわれてしまっている。

数え切れないほどの研究が、特にアラブ地域において、組織犯罪がいかに蔓延しているのかを解説している。人身売買に関しては、少なくとも3つのアラブ国家が世界最悪に位置付けられている。シリア、リビア、そしてイラクでは、紛争がこの問題をさらに悪化させてきた。暴力と法の支配の欠如は、移民の密輸に関わり、そこから利益を得る違法参加者らにとって大きな支援となっているのだ。

数え切れないほどの研究が、特にアラブ地域において、組織犯罪がいかに蔓延しているのかを解説している。

ハフェド・アル・グウェル

この地域は、違法な武器取引に関して世界最悪の、少なくとも4ヵ国が属する場所でもある。イエメンとリビアは、争奪された武器貯蔵庫から得たり、外部の協力者から提供されたりした武器の密売においておそらく最大の市場だ。拳銃から装甲車両や戦車まで、ありとあらゆるものが青空市場で取引されている光景は衝撃的だ。

ほとんどの場合、この取引はそれらの国々で長引く戦争の当然の副産物として片付けられる。だが、こうした危険な武器が利用可能であること、入手が容易であることは、セキュリティリスクを悪化させている。リビアの国境は穴だらけで放置され、イエメンのバブ・エル・マンデブ海峡海岸線では、アデン湾とインド洋に紅海をつなぐ戦略的海峡であるにも関わらず犯罪が野放しだ。それは、中央アフリカから東南アジアにかけての不安定な地域へ、違法な武器を簡単に移動できてしまうことを意味する。もちろん、しかるべき金額で。

国境を越える犯罪活動のもう一つの領域が、麻薬取引だ。そしてそれは、すでにシリアをアラブ世界初の麻薬取引国家へと変えてしまっている。シリアは、MENA諸国とヨーロッパに密輸される合成ドラッグの生産、販売、流通において世界最大量を手がけている。レバノン、モロッコ、そしてスーダンも、違法に栽培された大麻の供給国になっている。スーダンが犯罪者らに生む利益は、1年間だけで70億ドルを超える。これは、同国の公式GDPを10億ドル上回る。

イラクには、越境犯罪に関して独自の課題がある。2003年の侵略以来、同国は原油の窃盗によりおよそ1500億ドルを失ってきた。1年あたりの取り返しのつかない損失は83億ドル、あるいは同国政府の2021年予算の約10%ほどにも上る。

組織犯罪に立ち向かうこと、国境や司法権にまたがる違法行為に歯止めをかけようとすることは、不可能に近い。さらに悪いことに、犯罪者やそれを許す者たちに対する撲滅運動へ国々が一方的に着手することはできない。善意の政府による合法的な事業体でさえも、犯罪組織やそれらの関連者たちとの協力を余儀なくされることが多い、というのが国際犯罪の特質なのだ。組織犯罪は分散化され、あちこちで姿を現すようになり、管轄制限から放たれた。そして汚職や強制を通して、国家形態内へと深く定着したのだ。例えば民間企業はしばしば、不本意ながら犯罪を許す側になるか業務を完全停止するかというおかしなジレンマに陥っていることに気付く。開発機関が頻繁に遭遇するのは、経営理念が現場で悲惨な現実にぶつかる様だ。望ましい結果を確保するには犯罪者を引き入れることを避けられず、そのため彼らへの間接的な資金提供を余儀なくされる可能性があるのだ。

多くの人々は、雇用や資金調達のために頼りにする事業体が、実際には組織犯罪の隠れみのであることに気付いてさえいないかもしれない。このことは、それら組織を解体し、腐敗を根絶し、犯罪者を起訴するためのあらゆる対策を複雑にする。特にMENA地域では、国境を超える犯罪と地下経済が結び付き、社会を階層化している。裕福なエリートらは、成長を続ける経済からの利益を享受する。だがそれは、犯罪者らが実行または助長する暴力に苦しむ貧しい人々の犠牲の上に成り立つ利益だ。不平等格差の拡大は、その過程でより多くの腐敗を生み出して発展と経済成長を阻害する。その一方で、富裕層はさらに無関心になっていく。なぜならGDPの8〜30%にもなる彼らの富は、秘密のオフショア管轄で安全に管理されているからだ。そういった管轄の存在が、違法な資金の流れの追跡を困難にしている。

越境犯罪から生じる課題やリスクは、周知の事実だ。持続可能な開発目標を達成するために、大半の組織犯罪を根絶するには先例のない努力が必要になる。さもなければ、目標達成を目指して国際社会が年間当たり推定1.4兆ドルを何とか費やしたとしても、それら資金の大部分はただ、オフショアの銀行口座へ流れ着くのみだ。そして大勢を犠牲にして、ほんの一部が富むことになる。

  • ハフェド・アル=グウェル氏は、ジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院の外交政策研究所に勤めるシニアフェロー。Twitter:@HafedAlGhwell
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