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バイデン氏、2022年には危機管理を超えた活躍を目指す

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26 Dec 2021 09:12:50 GMT9

1月に就任したジョー・バイデン大統領は、ドナルド・トランプ前大統領が行った外交政策の多くを、元の状態に戻すことに注力してきた。彼の政権は、その目標において、ハードルがある中である程度の成功を収めた。また、バイデン大統領は、中国が世界的な影響力を強めていることもあり、「民主主義国家」対「独裁国家」という枠組みで地政学を捉え直そうとしている。さらに同政権は、米国の力を海外に誇示したいという米国人の願望と、戦争疲れの両方のバランスを取ろうとしている。これらの要因はパンデミックと相まって、昨年の米国における外交政策の多くを動かした。

バイデン氏とその高官たちは、トランプ政権が民主主義や人権に関心がないことや、いくつかの伝統的な同盟関係に関心がないことなど、多くの理由から同氏の外交政策に異議を唱えた。バイデン政権は1年目に、主要な同盟国との関係修復に取り組んだ。その成果の一例として、欧州の国々は、ホワイトハウスの口調が友好的になり、トランプ大統領が課した関税の一部が解除され、気候変動に関する議論やイラン核合意に関する協議が再開されたことを歓迎している。

いくつかの国の指導者たちはトランプ氏に代わってバイデン氏が就任したことに安堵し、世論調査では米国に対する好感度が急上昇したことを見ると、同政権はある程度成功したと言えるだろう。しかし、バイデン政権は同盟国を満足させるために優先事項を犠牲にすることはなく、例えば、フランス人の憤りをよそに、オーストラリアや英国との安全保障協定「AUKUS(オーカス)」を推進した。

トランプ政権の政策に対する民主党のもう一つの大きな反発は、気候変動を中心としたものであった。トランプ氏がアメリカをパリ協定から離脱させたのに対し、バイデン氏はすぐに同協定に再加盟した。また、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)の気候変動に関する会議にも出席した。バイデン氏と彼の党は、国内政策でも気候変動に取り組んできた。

イラン核合意もまた、バイデン氏がトランプ氏の政策を覆そうとしている重要な政策分野である。オバマ政権下の2015年に署名された「包括的共同行動計画(JCPOA)」は、イランの核プログラムに制約を加えることを求めていた。トランプ氏は2018年、この多国間協定から離脱し、イランに重い制裁を課した。ただし、バイデン氏のチームはイランとの間で協定を復活させるための協議を進めてきたが、これまでのところ目に見える進展はほとんどない。

バイデン氏はまた、イスラエルとパレスチナ人に対するトランプ氏の政策を一部撤回するよう努めてきた。バイデン政権は二国間の紛争解決への支持を表明し、トランプ大統領が削減したパレスチナ人への経済的・人道的資金援助を復活させた。しかし、今の所バイデン政権は和平プロセスの追求をほとんど行っておらず、イスラエルへの強い支持を表明し続けており、大使館をエルサレムに移転するというトランプ大統領の決定を覆す様子は見られない。

同盟国家、敵対国家を問わず、他国はわずか数年後にもトランプ氏が再び大統領に返り咲く可能性を把握しており、これがバイデン氏の外交政策に大きな複雑さをもたらしている。現在のホワイトハウスが、トランプ氏が再び政権を取らないと保証できない状況では、トランプ政権時代が異常であったということを世界に説得するのは困難である。

バイデン氏とトランプ氏の間で一致している部分は、どちらもアメリカがアフガニスタンにおける戦争からの撤退を望んでいたことだ。タリバンとの取引で、トランプ政権はアフガニスタンから米軍を撤退させることに合意していたが、撤退を実行したのはバイデン政権であった。より平和的な撤退が可能だったかどうかは議論の余地があるが、現実的にはそれは非常に困難だったと考えられる。タリバンが急速に勢力を回復すると、カブールでは混乱が生じた。アメリカは、作戦に協力した多くのアフガニスタン人を避難させることができず、現在彼らは迫害を受けている。

無計画に見えたアメリカの撤退は、同国の力に対するイメージを大きく低下させた。NATOの同盟国は、この過程で無視されたと感じている。これはワシントンによるヨーロッパとの関係を回復するための努力を複雑にしている。特に、トランプ政権がシリア北部から多くの兵士を突如撤退させ、クルド人の同盟国を危険にさらした後のアフガニスタン撤退は、安全保障上のパートナーとしての米国への疑念をさらに高めた。

パンデミック対策、気候変動への対応、中国との関係は、今後も外交政策の最優先課題である

ケリー・ボイド・アンダーソン

今回の撤退は、広い意味ではアメリカ国民とその指導者たちが、ジョージ・W・ブッシュ政権で始まった国家建設のための戦争に疲弊してきていることを示すものであった。バイデン氏は、イラクにおける米国の軍事的役割をさらに縮小するための措置も行った。この政権は、米国の安全保障上の利益に明確に直結していない軍事活動には、ほとんど興味を示していない。バイデン政権はこのことを意識して進めており、アメリカの中流階級の人々にとってより明確な利益となるよう、外交政策の方向転換を図る意向を示している。イデオロギー的な国家建設を目的とした戦争を避け、米国市民に利益をもたらすような外交政策を目指すことは、前向きな動きである。しかし、米国が軍事的関与を避けようとしているという現実は、ロシア、中国、イランといった国々に対する米国の影響力を弱めることにつながる

バイデン政権下において、情報機関や国防当局は、中国は米国が直面する最大の脅威の一つであると公言している。世論調査でも、アメリカ人の大多数が懸念している国のトップに挙げられている。トランプ氏に比べると、バイデン氏は中国に対してより静かなアプローチをとってはいるが、彼の政策は明らかに中国の影響力の増大に対抗するためのものである。バイデン氏は、同国にトランプ氏が課した関税をほぼ維持しており、2月に北京で開催される冬季オリンピックを、選手は含めていないが米国政府関係者はボイコットすると発言している。バイデンチームは、中国に対するワシントンの懸念を共有するインド太平洋地域のパートナーとの関係を深めることに積極的に取り組んでいる。

バイデン政権は、中国が経済的、軍事的、政治的にますます自己主張を強めていると見ている。ワシントンは、中国が自由民主主義とは正反対の、独裁的な政治スタイルの優位性を主張しようとしていることを強く意識している。バイデン氏が先日行った「民主主義サミット」は、中国の権威主義的なアプローチを否定する国々とのネットワークを構築するなど、政権にとっていくつかの目的があった。

その一方で、バイデンチームは中国を完全に孤立させることは不可能であり、また望ましいことではないと考えている。むしろ、一部の経済・環境問題において両国は協力しなければならないという現実的な理解を元に、競争のバランスをとることを目指している。

パンデミックはバイデン政権にとって、外交・内政におけるもう一つの優先課題となっている。就任後、バイデン氏はトランプ氏が通告したWHO脱退を取り消した。政権は当初、アメリカ人へのワクチン接種に力を入れていたが、その後海外へのワクチン提供に注力した。米国は現在、3億本以上のCOVID-19ワクチンを海外に出荷しており、これは2022年までに11億本以上のワクチンを提供するというバイデン氏の公約実行の一部となっている。また、米国は世界的なワクチン供給を強化するための追加措置を講じている。

通常、大統領就任後の1年間は、外交政策の指針を策定しつつ、危機管理を行うことが多い。2022年には、政権は戦略の実行に集中したいと考えているだろう。バイデン氏にとっては、パンデミックへの対応、気候変動への対応、中国との関係が引き続き最優先課題となる。イランとの核合意に向けた取り組みは継続すると思われるが、合意がない限りは、ワシントンはテヘランに圧力をかけ続けるだろう。そして、第2回民主主義サミットの開催も予定されている。

米国大統領は、外交政策の優先順位を決定するが、コントロールできない事象が発生した場合には調整する必要があるだろう。現在ロシアとの関係は冷え切っており、バイデン氏は、ヨーロッパにおける米国の利益を脅かす、ロシアによるウクライナ侵攻の可能性に直面している。モスクワは、アメリカが新たな地上戦に関心がないことを理解しているが、ワシントンにはロシアを抑止するために使える手段はある。問題は、バイデン氏がこれらの手段をどの程度使用するか、また同盟国が彼を支持するかどうかにかかっている。

オバマ大統領は、中東からアジアへのピボットを試みたが、変動する中東情勢がその試みを難しくした。現在、バイデン氏は同じくピボットを試みており、今のところ大きな成功を収めているが、状況を完全にコントロールできるわけではない。

テロリストや過激派の動きが米国の外交政策の優先順位を下げたことがあり、今後もそうなる可能性はある。2022年に注目すべき課題としては、南部国境からの移民、世界経済の回復、サイバーセキュリティ、北朝鮮などが挙げられる。

ケリー・ボイド・アンダーソン氏は、著述家であり、国際的な安全保障問題や中東の政治・ビジネスリスクに関するプロフェッショナル・アナリストとして18年以上の経験を持つ政治リスクコンサルタント。前職には、オックスフォード・アナリティカのアドバイザリー担当副部長などがある。Twitter: @KBAresearch

 

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