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世界に恐喝で対抗するイランの外交戦略

2021年8月5日、テヘランの国会で行われた就任宣誓式におけるイランのイブラヒム・ライシ大統領。(ロイター)
2021年8月5日、テヘランの国会で行われた就任宣誓式におけるイランのイブラヒム・ライシ大統領。(ロイター)
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17 Jan 2022 09:01:16 GMT9
17 Jan 2022 09:01:16 GMT9

イランにイスラム共和国が樹立された1979年以来、国際社会への恐喝は、この共和国にとって中心的な活動であり続けている。

イランの政権は、これまで一度として国際社会のルールや法律に従おうとする純粋な意思を見せたことはない。この姿勢は、イランの神権的な国家体制が、国際法の原則に基づく国民国家の近代的な枠組みに従ってではなく、支配者である聖職者の革命的な理想に基づいて設立された政権によるものであることに、一部起因するものだ。

イランの政権は、ルールに従わない代わりに、国際社会に自らの要求を受け入れさせる他の方法を求め、それがつまり恐喝的な戦略ということだ。最初に採用された第1の恐喝的な方法は、人質を取ることであった。イランは革命による建国当初、52人の米国人を拘束して444日間解放しなかった。これは近代史上最長の人質事件である。その後イラン政府は、核開発計画、民兵組織、サイバー攻撃なども強力な恐喝的戦略として利用してきた。

人質を取ろうとするイランの姿勢は今日まで変わっていない。イランは、経済的な譲歩を引き出し、地政学的・経済的な利益を得るため、外国人の人質を利用しているのだ。イランはまた、反対派を黙らせるため、自らの軍事的冒険主義や国際法違反、弾道ミサイル計画の進展を無視するよう欧米に圧力をかけるためにも、人質を使った戦略を用いている。例えば、米国のオバマ政権は、イラン系米国人数名の解放と引き換えに、17億ドルの現金をイランに送金した。

イランの政権は、人質を取るという戦略を誇りにしてさえしている。イスラム革命防衛隊は2016年に、当時人質に取っていたイラン系米国人のシアマック・ナマジ氏とその父親のバカ―・ナマジ氏の2人について「そのうち米国は解放のために何十億ドルもの金額を提示するだろう」と見込んでいた。現在も、イランは数人の外国人を人質として収監している。その中には、イギリス系イラン人のナザニン・ザガリ・ラトクリフ氏や、ナマジ氏父子、モラド・タバズ氏、エマド・シャルギ氏らの米国人も含まれている。

イランの恐喝的戦略の第2の柱は、核兵器の開発である。たとえ実際に核兵器を保有するに至らなくても、イランは核開発の脅威と継続的な反抗と違反行為で国際社会を恐喝することにより、大きな利益を得ているのだ。注意を払うべきは、2015年にP5+1(米国、英国、フランス、ロシア、中国、ドイツ)の世界の列強がイランに関する核合意(共同包括行動計画、JCOPA)を締結した際、イランが多くの譲歩を得ることができたのは、その核プログラムのおかげだったということだ。

この核合意では、核開発に関する取引には含まれるべきではなかった武器禁輸措置解除の期限が設定されていた。この武器禁輸措置は、イランが核合意のすべての条件に違反していたにもかかわらず、残念なことに2020年に解除された。2015年の核合意はまた、国連安全保障理事会がイランに対し、何十年もかけ4度にわたる決議により課してきた強力な制裁措置をすべて解除してしまった。他の欧米諸国もこれに追随し、EUは核関連の経済・金融制裁をすべて解除、神政国家イランとのビジネスを再開した。

イランの軍事的冒険主義や人権侵害は無視され、イラン政府は世界的な正統性を獲得し、世界の金融システムに再び参入し、以前は取引を禁止されていた多くの商品を取引できるようになったのだ。

恐喝的戦略の第3の柱は、民兵やテログループの育成、資金調達および武装化を根幹としている。これらのグループを通じて、イラン政権は他国を間接的に不安定にし、混乱や暴力、そして戦争を引き起こしてきた。そうやって外国の社会や政治勢力を揺さぶった後、イランは自らの支援する民兵組織が新しい政治体制を引き継いだり、大きな発言権を得たりするように働きかける。イランの指導者たちのこうした策略は、スンニ派アラブ諸国において最も顕著であり、イラン政府は力関係を自国に有利にし、影響力を高め、それらの国々を弱体化させようとしているのだ。

イランは、経済的な譲歩を引き出し、地政学的・経済的な利益を得るため、外国人の人質を利用しているのだ。

マジッド・ラフィザデ

イランの恐喝的戦略の第4の柱は、サイバー攻撃だ。イラン政府は、敵対していると見なす外国の国や組織に対してサイバー攻撃を仕掛けてきた歴史がある。例えば2017年には、複数の情報機関や当局者が、「Cadelle and Chafer」(コクヌストとコガネムシ)という名のイラン人ハッカーのグループが、サウジアラビアに対して有害なサイバー攻撃を行ったことを明らかにしている。さらに、2018年11月には、イランに拠点を置く2人の人物が、米国のターゲットに対する一連のサイバー攻撃の背後にいると非難された。このサイバー攻撃では、アトランタ市の病院、学校、国家機関などが標的にされ、同市政府は機能不全に陥った。攻撃を受けた主要機関のデータは、身代金の支払いと引き換えに取引されるという、人質と同様の方法で利用されてしまった。米国司法省刑事局の元トップ、ブライアン・ベンチコフスキー氏は、事件の犯人たちは「病院や学校などの弱い状態にある被害者を、彼らが身代金を支払うだろうことも計算に入れて攻撃・恐喝した。これは、21世紀のデジタル恐喝を用意周到に極端な形で現実化したものだ」と指摘している。

つまり、恐喝はイラン外交政策の中心的な柱であり、上に挙げた4つの主要な恐喝手法を駆使して、イランは他国の政府や国際社会に圧力をかけ続けているのだ。

  • マジッド・ラフィザデ博士は、ハーバード大学で学んだイラン系米国人の政治学者。ツイッター: @Dr_Rafizadeh

 

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