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イランへの身代金は他の全員を危険に曝す

02 Jun 2019 02:06:18 GMT9

先週、ある過去の事実が明るみになり英世論は紛糾した。当時外務大臣であったボリス・ジョンソン(あろうことか現在の首相候補である)が誤解を招く発言を行ったことで、二重国籍を持つイラン系英国人のナザニン・ザガリ・ラトクリフに対して、不当な禁固刑を長引かせる口実がイランに与えられていた。こうした中、この問題を優先課題として扱ってきた英外務省が、1979年のイラン革命で中止された戦車の販売で故パーレビ元国王が支払った4億ポンド(5億500万ドル)について、イランに引き渡しを行うよう秘密裏に英国防省(MoD)に対して働きかけていることが明らかになったのだ。国防省は、資金の引き渡しを行えば、イスラム革命防衛隊やヒズボラなどのイラン代理勢力によるテロ活動に流用される恐れがあるとの正当な主張をしている。

バラック・オバマ前大統領は2016年1月、米国人の人質5人が本国領土に帰還すると同時に、4億ドルをイラン政府に送金することを承認している。いずれの当事者も、資金の凍結解除が実質的な身代金の支払いであったことを否定している。2015年のイラン核合意をめぐっては、さらに数百億ドルの資金が凍結解除されている。これらの資金はイランの一般国民への救済に充てられることはなく、主に準軍事部隊のために使用された。具体的には、自国に対して大量虐殺戦争を行うバッシャール・アル=アサド政権を利するものであった。

イランによる拉致の青写真は、1980年代に鮮明化した。まず1981年、イラン革命中に52人の大使館員を人質に取られた米政府は、解放のために30億ドルを支払っている。さらに、いわゆるイラン・コントラ事件では、レーガン政権がイスラエルを介して大量の武器をホメイニー政権に対して密輸し、その収益をニカラグアの反政府勢力コントラに与えている。この取引は、ヒズボラによって人質に取られた米国人を解放してもうことへの見返りであった。ヒズボラは1980年代、100人以上の西洋人を誘拐している。

2003年から続くイラク戦争においては、無数の外国人が誘拐されている。2007年には、イスラム革命防衛隊の特殊部隊、ゴドス軍の指揮下にある代理勢力が白昼堂々とイラク財務省を襲撃。英国のIT専門家、ピーター・ムーアと4人の護衛を誘拐している。ムーアは、イランの代理勢力による数百万ドル規模の不正送金を特定するのに役立つ、コンピュータシステムを設置する予定であった。4人の護衛は殺害されたが、こうした誘拐を通じて数百人もの戦闘員が解放されており、中でもカイス・アル・カザリを含む数名など、イラクの政治機構で実力者になった者もいる一方、過激派に取り込まれてしまった者もいる。

2007年始め、アル・カザリの民兵組織であるアサイブ・アフル・アル・ハクがカルバラー県の多国籍軍司令部を襲撃し、多数の米軍兵士を拘束して殺害した。同年には15人の英海軍兵士が誘拐され、イラン国営放送で見せしめにされた後に解放されている。アラビア湾では、隙を突かれた海軍兵士がしばしば誘拐されている。

2015年12月には、王族を含む26人のカタール人がイラク南部で猟を行っていたところを、イラン代理勢力により誘拐されている。イランはカタール政府との交渉でおよそ5億ドルを受け取ったばかりか、シリア国内の人口構成をアサド政権に有利なものにするため、住民の移住を支援する約束を取り付けた。リークされた電子メールによって、どの準軍事組織に資金が渡るかなど、交渉の詳細が明らかになっている。中でもゴドス軍のガーセム・ソレイマーニーと、民兵組織の指導者アブ・マフディ・アル・ムハンディスには、数百万ドルが支払われた模様だ。

こうした民兵組織にとって人質行為は、収益源としても一般市民に恐怖を植え付ける方法としても、常套手段になっている。彼らは宗派をめぐる粛清作戦を通じて、数千人のスンニ派イラク人を誘拐し、解放の見返りに身代金を要求している。身代金が支払われても人質が殺害される場合が多いことから、恐怖が拡散し、数万の家族が避難を余儀なくされている。米国の経済制裁により予算不足が生じ、こうした活動は再び活発化している。特にニネヴェ県においては、違法な検問所が数十箇所に設置され、拘束された市民が金品を強奪されている。

スパイ容疑により拘束中のナザニン・ザガリ・ラトクリフだが、彼女に何か落ち度があるとすれば、たまたまその場に居合わせたタイミングと、二重国籍者という身分が不利に働いたということだろう。イランは外国政府に圧力をかけるため、ソフトターゲットとして二重国籍者をたびたび拘束している。ヒューマン・ライツ・ウォッチは最近、こうした事例を14件記録している。数ヶ月前には、ナザニン・ザガリ・ラトクリフが娘の赤ん坊と面会するため一時的に釈放されたのも束の間、数時間には刑務所に戻されており、イランの無情さを物語っている。

この事件を追う数百万人の人々が、彼女の解放を望んでいる。だが、当の英外務省が過去のミスを埋め合わせることを主眼としているように見える現状において、テロリストや民兵組織に対して身代金を支払うことは、果たして適切なのだろうか。

イラン政府はBBCペルシャのスタッフの出演停止を狙って、その家族に対する恐喝行為を続けている。ソレイマーニーは最近、イラク民兵組織の指導者らに対し、外国人の誘拐へ向けて準備をするよう命令を出している。イランも近年、反体制派や他国の外交官に対して国外作戦を実行する構えを見せている。イランが犯罪行為で得をする状態が続く限り、罪の無いソフトターゲットが被害に遭い続けるだろう。

正常な国家は外交を通じて外交目標を達成する。一方、ならず者のイラン政府は、外交政策の正式な手段として人質行為を実行することでしか外交目標を追求できないほど、世界の嫌われ者になっている。これほど日常的に博打に打って出る国は他に存在しない。

将来の人質行為を抑止するため、身代金の要求があった場合には、支払いを拒否するのが英国と米国の公式方針だ。ところが両国は、身代金という表現こそ使わないものの、犯罪行為に対する実質的な見返りを与えることで、国民がイランとその代理勢力に将来誘拐されることを後押ししているのだ。さらに、こうして得られた不正利得は地域の過激派に注ぎ込まれ、イランが西洋諸国を標的にする能力が向上するのである。犯罪者が悪用する人質行為が、良心ある人々をモラルのジレンマに陥れている。愛する人や大切に扱う必要のある国民が拘束されたのであれば、その人々を解放するためなら何でもしたいと思うものだ。

しかし長期的に見れば、テロ国家イランへの資金流入を促す英外務省は、ナザニン・ザガリ・ラトクリフと同様の被害を数百件単位で生むことに手を貸しているに他ならない。

バリア・アラムディンは、受賞歴のあるジャーナリスト兼アナウンサーとして、中東および英国で活動しています。Media Services Syndicateで編集者を務めており、国家元首を取材訪問した経験も豊富です。

https://www.arabnews.com/node/1505471

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